戦争が始まった。それはあまりにも現実的な力だった。原稿を読み上げるアナウンサーの表情は、人間味に溢れた不安で強張っていた。

 ミサイルが一発、都心に落ちた。道徳や平和を訴えたところで、ミサイルを撃ち込んできたやつと戦わないのならば、それはただの腰抜けだった。正義とは、倫理ではなく力であることを知った。立ち上がる者は多かった。僕だってもちろん、死ぬのは怖いし、戦争になんて参加したくなかった。軍人や独裁者が国家の政権を握っていたわけではなかったから、戦争に参加することを拒否することもできた。それでも、僕は戦いたかった。戦いによって、何かを明かしたかった。僕は武器を取った。

 大昔、死は生活の一部だった。本能に刻まれた印が、僕の耳元でささやいた。僕は生々しい死に恐怖を覚えた。同時に、これほどまで生きていると思えたことはない。

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