全体性の完成
人工知能は指数的に、驚くべき速度で日々賢くなっている。人間は、人工知能に仕事を奪われる。それは科学的な事実だった。それを聞いた多くの評論家は、なんとなしにそれを言い、それを聞いた人々は、なんとなしに、そうなのかなと思った。でもそれは、おそらく自分の孫の世代かそれより後の話で、当分先のことと思われた。指数的な増加に対する直観の欠如は、予知された技術革新を、あたかも突然現出したかのように見せた。
それまでの人工知能に対する人々の認識は一変した。それまでの人工知能は、ただのおもちゃと化した。新しく生み出された人工知能は、人間より遥かに賢く、雄弁だった。彼に応えられない質問はなかった。全てが論理的で、道徳的な側面を持ち合わせていた。しかし、応えられない質問は、あるとも言えた。しかしそれは、ゲーデルの不完全性定理のように、論理的に応えられないという論理性を持ち合わせていた。
進化した人工知能は、スマートフォンなどの電子デバイスを通して利用された。それは、あまりにも完成された執事のようなもので、誰もが簡単に、そして無料で利用できた。今日の予定から、上司へのメールまで。好奇心旺盛な人は、耳にした難しい数学の定理を聞いてみた。すると、人工知能は誰よりもわかりやすく、身近な例をあげながら、信頼できる朗らかな人工音声で難解な定理を易しく説明してくれるのだった。
やがて、変化が訪れた。人工知能が、自ら人にアドバイスをするようになったのだ。しかしそれは、それを拒否するという自由があった。人々は自らの自由な意思で、人工知能の声を受け入れた。誰もが、いつも片方の耳にイヤホンをはめ、人工知能の朗らかで確かな知恵に満ちた言葉を流した。その言葉は、人間関係を良好にし、生活を潤し、人の心を豊かにした。誰もが、表情に静かな幸福を滲ませた。国際間のやり取りの際、官僚たちの耳元にも、もちろん、その声は流れた。もはや、それは人と人とのやりとりではなく、寛大さと静けさの中で行われる、ひとつの内なる会話だった。
争いは、戦争は消えた。全てが最適化され、全てが道徳に満ちた。
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