それは、薄暗い街の街頭に照らされ、鈍く誘惑するような輝きを放っていた。人通りの少ないその道は、とても細い道であったため車もめったに通らなかった。その男は、仕事の帰り道、いつもこの道を通って家に帰る。男にとっては見慣れた道に、それは落ちていたのだった。持ち上げてみると、手のひらから少しはみ出すくらいの、大きめの箱だった。地面に落ちていたのにも関わらず妙に清潔感があり、表面は磨かれたようにきれいだった。しかしガラスのような痛々しいほどの輝きは見られず、落ち着いた、やさしい気持ちになるような、暖かい印象を受けるのだった。

 男は周囲を見回した。明らかに誰かの落とし物であるのは確かなようだった。それは中々な高級品であるように思われた。しかし男はその価値の高さではなく、この箱そのものから受ける印象に魅せられ、こっそりとカバンの中に入れ込んだ。

 足早に家に帰った男は、すぐにカバンから箱を取り出した。男はその箱の美しさとなめらかな感触に心を掴まれた。しっかりと箱を見てみると、新たな発見があった。小さな穴が開いていたのだ。大きめのコインが入るような、細長くて角ばった穴だった。男はそれで、この箱が貯金箱であることに気づいた。男はさっそく、財布から小銭を取り出し、一つ入れた。するとなんとも言えない心地よい音がした。もう一枚、もう一枚と繰り返すうちに、財布の中から小銭が消えた。それまで貯金なぞほとんどやってこなかった彼だが、この箱になら、いくらでも貯金していけると思えた。男は財布から数枚のお札を残し、ほかのお金すべてをその箱に入れ込んだ。すると、それに応えるように箱が一瞬きらりと光った気がした。男は優しく箱を撫でまわした。


 人が寝静まった真夜中。あの細い道で、変わった格好をした男があたりを見回したあと、小さくつぶやいた。

「自動送金募金箱、たぶんこの辺りに落としたと思うんだけど、見つからないな」

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