裁判

 会社の帰り道、人があまり通らず、電灯の明かりが少ない道を歩いているときのことだった。突然、その男は目が開けられないほど眩しい光に照らされ、意識をなくした。次に男が目を覚ました時には、驚くべき光景が広がっていた。距離を少しとった先に机が並べられ、見たことのない生き物たちがずらりと並んでいるのである。タコのような者もいれば、シカのような者もいた。真ん中に座るトリのような見た目をしている者が言った。

「近頃、人類の横暴が激しいとの連絡が入り、裁判にかけることが決定した。被告人、心あたりはあるかね」

 被告人は、明らかに男のことだった。男は驚いて言葉も出なかったが、長い沈黙によって、いくらか理性が戻ってきた。男は言った。

「どうして僕が選ばれたのかわかりません。人類を裁判にかけるなら、僕ではなくもっと適任がいるはずです」

「適任とは誰かね」

「大統領とか、政治を決定する人たちですよ」

「君でいいのだ。君自身、心当たりはあるかね」

 人類の横暴と言われ、思い浮かぶイメージはいくらかあった。まず浮かぶのは、森林破壊や家畜動物のことだった。しかし、それらは文字の羅列でしかなく、実際に罪の意識を感じているわけではなかった。男はとりあえずそれらを口にした。奇形な生き物たちは頷いて男の話を聞いていた。しかし、聞くだけで、何か返答があるわけではなかった。男は思い当たる罪が出なくなったところで、言った。

「ところで、これが裁判だとしたら、あなたたちが裁判官でしょう。人類は有罪なんですか。有罪だとしたら、どんな罪が下るんでしょうか」

 ブタのような見た目をした者が言った。

「裁判官は君だ。また被告人でもあり、弁護士でもある」

 次の瞬間、男は眩しい光に包まれ、また人気のない会社の帰り道に戻っていた。男は当たりを見渡し、ついさっきまでの出来事を思い返した。しかしそれもすぐに忘れ、帰路についた。

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