規則性

 彼はとある大企業の人事部に勤めていた。少し先のこの時代では、一風変わったことが社会問題となっていた。それは、ヒト型ロボットが人のフリをして企業に入社しようとすることだった。メディアでは、自律化された人工知能が腕試しにそのようなことをすると報道されているが、実際にはそんなかわいいものではなく、企業スパイなのであった。なぜメディアが本当のことを報道できないかというと、大企業同士でスパイロボットを相手企業に対して送りあっているため、片方が被害者として告発することもできず、またこの事実が明るみに出たとき信頼が失墜するため、メディアでその事実を報道することは大企業からの圧力によって禁止されているのであった。

 企業スパイであるロボットは、自分自身のことを人間だと思い込んでいる。生まれてから今までの記憶を埋め込まれ、誠実で優秀な人間である自負を持つ彼は、自分が企業スパイだとは夢にも思っていない。そんなロボットをライバル企業に入社させ、いわゆる無意識が作用するように、ロボットの記憶データがライバル企業へと送られていくのだった。

 人事部に勤める彼は、毎年の入社試験の面接官を担当しており、そのようなライバル企業から送られてくる刺客を止める大事な役割を担っていた。ロボットチェッカーという製品があったが、それもまた他の企業から販売されているため、信用できるものではなかった。かつては面接試験の度、彼は気がおかしくなるほど相手を観察し、本物の人であるかを考察していたが、ここ数年は違った。彼は長年の経験から、ロボットと人を見分ける決定的な方法を見つけたのだった。それは、ある特定の単語を使って文章を作らせるというものだった。それは非常に微妙な差ではあるが、決定的に、ロボットの作る文章には規則性を見つけることができ、それによって人とロボットを見分けることができるのだった。

 彼はもはや、どんなに擬人化に長けた高性能なロボットが面接にやってきても、何も怖いことはないように思えた。


 面接を終えた二人の青年が、ネクタイを緩めながら話している。

「君の言った通り、『オイル』『人魚』『昼食』の三つの言葉を使って文章を作らされたな。にわかに信じられない話だったから、びっくりしたよ。どうして前もってあんな奇妙なことを聞かれるとわかったんだ」

「面接官がロボットの企業は、そういうことを聞いてくるらしい。俺も噂程度で聞いてたから、びっくりしたよ」

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