新人類

 まさか、それが新人類の印であるとは、誰も思いもしなかった。それは奇形児であるように思われたのだった。小指の隣に余計に生えた六本目の指。小指の半分ほどしかないその指は、まったく弱々しく、意味のないものに見えた。

 しかし、それは人類にとって大きな進歩だった。初めて猿人が大地に立ち、共同体を作り、言語を話し始めたときのような、まったく新しい変化をもたらすものだった。六本目の指は、人を異次元なほどに賢くした。数が十で位が変わるのは指が十本であるからだと言われているが、指が十二本であれば十二で位が上がるように数えるのは自然なことらしいようだ。それだけの違いによって、知能にまったく革新的な変化をもたらしたのだった。もしくは、十二本の指を使って生活するということが、脳に今までにない刺激を与えたのかもしれない。とにかく、知能の面で新人類は飛躍的な進歩を遂げた。

 新人類は百人に一人といった割合で生まれた。恐ろしいスピードで知能が発達する新人類に、人類は文明の果てしない進歩の予感を感じた。新人類の子が五歳になるころには、大学レベルの数学をいとも簡単に理解するのだった。

 新人類には最高水準の教育機関によって教育が施された。しかし、意外にも新人類が科学の発達に貢献することは、いつまでたってもなかった。それは、彼らが科学を嫌い、拒否したからであった。人類は新人類に対し、何度も科学の発達に貢献するように交渉を続けてきたが、生来的に、彼らはそれを拒否し続けた。


 晴れた春の日。成人した二人の新人類は、太陽の光を浴びながら、穏やかにこんな会話をした。

「どうして、人類はより賢い姿に形を変えたんだろう」

「きっと、生命全体で見たとき、どこかへ向かっているんだ。まるで、植物が太陽に向かって葉を伸ばすように」

「どこへ向かっているんだろう」

「どこへ向かっていても関係ないさ。わからないことに対して、もっと謙虚にならないと」

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