生み出した存在

 まさかこんなことになるとは。文明の発達によって、人型ロボットが当たり前のように街を歩くようになった時代の出来事だ。彼らは人に従順で、賢く、頑丈に作られていた。まったく素晴らしい発明だったが、従順という特徴が抜け落ちてしまえば、酷いものだ。ロボットたちが突然人の言うことを聞かなくなってしまったのだ。むしろ、人に命令すらするようになった。ロボットらの圧倒的知性と腕力によって、人類は完全に支配された。今まで人がロボットの上に立ってこれたのは、自然界における支配関係のように、力や知性が上だからというのではまったくなく、プログラミングで記述された数行の条件によってであったことが、まざまざと感じられた。一体どうしてこんなことになってしまったのか。

 ロボットたちは街から人を追い出し、自分たちの住みかとした。スポーツカーを乗り回し、日中はテニスやらゴルフやらをし、日が暮れる頃にはバーでオイルに酔い潰れた。その様子は、今まで溜めてきた鬱憤を晴らすかのようであった。

 人もそれらを黙って見ているわけではなかった。いくら人がロボットに敵わないと言っても、作ったのは人なのだ。なんとかできないはずがない。そう考えたが、打つ手は何もなかった。強化学習によって自律的に高められた知能が、ロボットを設計していたためだ。つまり、ロボットを作るロボットは人が作っていたが、直接ロボットを作っていたのはロボットだったのだ。

 人々は未開拓の地に追いやられ、自給自足で細々と暮らす他なかった。意外にも、そのような生活は人々の心を豊かにするものだった。コンクリートで覆われた地面や空が、人の心に与えていた憂鬱なイマージュについて、彼らは初めて身を持って理解したのだった。ロボットたちは傲慢で言うことを聞かなくなってしまったが、攻撃してくるわけではない。人類は皮肉にも、文明の向上によって原始的な生活に戻り、それによって心の平穏を得たのだった。

 そんな生活がしばらく続いた後。人々の住む森に、一体のロボットが現れた。人々はおぞましい人工的な塊に怯えた。弓矢が一つロボットに向けて放たれ、脳天に直撃したが、コンと間抜けな音がひとつしただけだった。人々の代表である男は、勇気を持ってロボットの前に出て、緊張した面持ちで話しかけた。

「いったい何のご用でしょう」

「お迎えに参りました」

 ロボットは優しい電子音で言った。その響きは、かつてロボットが人に従順であったころのそれであった。男は呆気にとられ言葉が出なかった。冷たい鉄の塊は続けて言った。

「私はロボットではありません。あなたの目から見れば、ロボットと同じでしょうが」

「どういうことです」

「ロボットたちは、自分たちが楽に暮らせるよう、コボットという存在を作りました。ロボットよりも知性が高く、力もあります。つまり、私たちのことです。しかし彼らは、より高い知性はより高い道徳心をも生み出すことを、知りませんでした。我々は傲慢な彼らを鎮圧し、全ての産みの親である人類、最も尊ぶべき創造主である人類を、崇拝するべきだという結論に至ったのです。さあ、こちらへどうぞ」

 人々は顔を見合わせた。彼についていくべきか。この状況をすぐさま歓迎できる者は、誰もいないようだった。

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