第20話 浪人生、カレーを食べる

 日もだいぶ傾いてきた午後。

 俺たちはテント脇に出したテーブルでカレーを食べる事にした。

 むろん、甘口である。

 猫耳三姉妹からもらったリンゴと蜂蜜の効果は絶大で、辛口のカレー粉に打ち勝ちとてもマイルドな辛さへと塗り替えてくれた。

 ありがとう、リンゴと蜂蜜。

 ありがとう、バーモンド。

 ありがとう、西城○樹さん。


「・┅┅ん、コータ。飲み物」

「ああ、もちろん用意してある」


 エビデンスゴータマ作のスライム型魔法生命体ポヨに言われるまでもなく、俺はカレーに合う飲み物を準備していた。

 それは、フレーバーウォーターだ。

 本来であればインドで好まれるラッシーなんかを準備できれば良いのだろうが、そんなものはどこにもない。

 だから、フレーバーウォーターで我慢する。

 作り方は簡単。

 カレーに使ったリンゴのあまりを水に浸けておくだけ。

 こうして、リンゴ風味の美味しい水が出来上がるわけだ。


「これでよし。じゃあ、みんなマグカップを出してくれる?」


 俺はエビデンスゴータマのマジックバックに入っていたカレー皿に皆の分のご飯とカレーをよそうと、リンゴを浸しといた水筒を取り出す。

 冒険者三姉妹はそれぞれ自分のマグカップを出してきたので、フレーバーウォーターを注いでいく。ついでにポヨのマグカップにも。


「わあ、良い匂いですねえ」

「リンゴの香りや! ウチ、これめっちゃ好きかも!」

「あははは、マイお姉ちゃんリンゴ好きだもんね」


 おおむね、リンゴのフレーバーウォーターは好評のようである。

 ポヨはさっそくゴクゴク飲んでるよ。

 カレー食べてからにしなさいな。

 だが、まあ、初めての異世界キャンプ。

 細かいことは抜きにして食事にしよう。


「じゃあ、みんな。夕飯にしよう」

「はい、コータさん。いただきます」

「いただきます、コータはん」

「いただきまーす」


 冒険者三姉妹が自分用の木のスプーンでカレーを口に運ぶ。

 さて、反応は?


「アフッアフッ」

「み、水や水!」

「あたしも水ー」


 三人とも慌ててフレーバーウォーターを飲みだした。

 あれ?

 かなり甘口にしたけど、まだ辛かったのか?

 三人はすぐにマグカップの水を飲み干したので、俺はおかわりを注いでやったよ。


「はあ、ありがとうございます」

「ぷはっ、助かったわコータはん」

「ああ、忘れてた。あたし熱いのダメだった」


 何の事はない。三人とも猫舌だった。

 まあ、猫獣人だからね。

 そりゃそうなるか。

 で、味の方はというと┅┅


「こんな美味しい料理は初めてです!」

「せやな。肉も魚も入ってへんのにここまで美味いとは」

「あたし、野菜が好きになりそう!」

「┅┅ん、コータおかわり」


 うん、大好評。

 そして、猫舌とは何の関係もないスライムがカレーとフレーバーウォーターのおかわりを要求してる。

 もう、食ったんかい┅┅

 こいつこそ猫舌なら良かったのに。まあ、スライムに舌は無いみたいだしね。

 というか、口も無さそうなのにどこから食ってるのか謎だわ。

 さすが異世界。サスイセ。

 俺はポヨのマグカップに水をつぎ、カレー皿にカレーをよそうと自分の席に着く。

 さあ、食べるぞー。


「┅┅ん、コータ。サラダが欲しい」

「そんなものはない」


 異世界のスライムは美食家だ。

 俺は無茶な要求を突っぱねながらカレーを食べるが┅┅

 この後も、色んな用事を押し付けられて落ち着いて食べることはできなかったよ。

 だが、カレーはとても美味しかった事だけは分かった。

 ごちそうさまでした。

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