第16話 浪人生、日本からメールを受け取る
テントに俺と冒険者三姉妹、そしてスライム型魔法生命体ポヨが入って雑談している。
お昼は過ぎているが誰も昼ご飯は食べようとしない。
実は異世界、一日二食の生活様式であるそうな。
たいていは朝と晩の食事のみ。
肉体労働者はおやつを食べることで昼食がわりにするとか。
冒険者も肉体労働者。よって、アイとマイとミーはおやつの黒パンをかじりながら雑談に興じている。
もちろん、俺も出発前に買った黒パンをいただく。ついでにポヨも。
飲み物は当然、マジックアイテムの水筒から美味しい水を出して皆に振る舞う。
それもあってか、会話は弾む。
「いやあ、今回の冒険はサイコーやな」
「ホントだね~、マイ姉ちゃん。あたし、前回の冒険が酷かったから冒険者辞めたくなってたんだ」
「そうねえ、前回は依頼料も安かったし依頼人さんも性格悪かったし」
「ホンマやで。あいつ、アイ姉ちゃんの耳とか尻尾触りまくってたし!」
「あたしもあたしも。エッチな目でジロジロ見られた」
何か愚痴が始まった。
まあ、この三人は美人猫獣人。そういう方面が好みの男にはたまらんのだろうな。
「しかも、コータはんは気前いいし!」
「あたし、冒険者ギルドで依頼料値切らなかった人はコータさん以外に見たことないよ」
「本当ねえ。コータさんのおかげで一息つけたよね」
冒険者も大変なんだな。
今まで日本で勉強に明け暮れ、バイトはしてたとはいえ生活費のほとんどは親頼みだった俺。
こんな若いうちから頑張って働くのを見ると、ちょっとだけ恥ずかしくなる。
まあ、文字通り世界が違うから仕方ないよね。
俺は俺、彼女達は彼女達だ。
俺は自分のマグカップに入れた水をグイッと飲み干した。
するとその時、黒パンをモソモソ食べていたスライムが俺に近付いてくる。
「なんだよ?」
「┅┅ん、感じる。超感じる。あはん」
「下ネタ止めてくんない?」
ホント、このスライムは下品だ。
「┅┅ん、違う。電波を受信した」
「なるほど。お前さんは電波系か。納得だわ」
「┅┅ん、違う。ご主人様からのメール。コータは早くマジックバックからアイポンを出す」
「アイポンだあ?」
エビデンスゴータマ情報によると、日本で人気の某スマートフォンを真似して作ったマジックアイテムらしい。
こんなのまで錬金術で作れるのか。
そういや俺のスマフォはどうなったんだろう┅┅
一抹の不安が頭をよぎるが、とにかく今はエビデンスゴータマのメールが大事。
俺はマジックバックからアイポンなるパクリスマフォを取り出した。
「┅┅ん、コータ。チョップチョップ」
「チョップチョップ? いったいなんだよそりゃ?」
「┅┅ん、コータは英語がダメ。やはり浪人生」
「やかましい」
確かに俺は英語が苦手だけども。
チョップチョップって英語あったか?
チョップはぶったぎるって意味だっけ?
チョップスティックはお箸だったな。
チョップチョップ┅┅
「┅┅ん、コータ。急げ急げ」
「ああ、そういう意味なのね」
知らんかった。というか、それスラングじゃね?
英語苦手な俺には難しい問題だわ。
そうこうしながら、俺はエビデンスゴータマ作のスマフォを取り出した。
「┅┅ん、コータ。早くメールを見る」
「お、おお」
そこには、こんなメッセージが書かれてあった。
『やあ、コータ。エビデンスゴータマこと今は愛媛光太郎です。無事に第一志望であるT大学法学部に合格しました。こちらの君の両親も喜んでくれています。同じ予備校にいた同級生の小鳥遊は落ちました。プッ、模試で一番だったのに笑うわ。あいつ泣いてたよ。傑作すぎる。さて、これでようやく積みプラの攻略に取りかかれます。部屋中がガンプラとか草生えるわ。八割がズゴックwww それじゃあ、また!』
なにやってんだ、エビデンスゴータマ。
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