第15話 浪人生、初めての野宿
さあ、初めての野宿だ。
野営とも言う。
キャンプに似てるが異世界ではキャンプ場など無く、設備も無いので野宿は結構大変である。
でも、時刻はお昼をちょっと過ぎた辺りなんだよね。
だから、まだまだ明るく慌てる必要はない。
足が限界を迎えた俺のせいでちと早めになってしまったが、とにかく初めての野宿は楽しみだ。
「┅┅ん、コータ。まずはベッドの作成」
「いや、テントの設営が先じゃね?」
錬金術師エビデンスゴータマ情報によると、俺のため日本のキャンピング道具に似た物をマジックバックに収納してくれてるそうだ。
当然、そこにはテントもある。
ベッドは無いが寝袋はあるようなので安心である。
「┅┅ん、テントが無くてもナニはできるがベッドが無いとできない」
「ナニってなんだよ?」
「┅┅ん、ナニとはナニのこと」
「だから、ナニってなんだよ?」
「┅┅ん、コータは分かってるくせに知らないふり。ムッツリ浪人」
「知らんわ。あと浪人かんけーなくね?」
いかん、このセクハラスライム早く何とかしないと。
俺はチューリップハットを被った謎の魔法生命体に危機感を覚えつつ、マジックバックからテントを取り出した。
エビデンスゴータマ情報によると、これ日本で売られているワンタッチで設営できる簡単テントを見習って作った物らしい。
異世界のマジックアイテムにテントまであるとは┅┅
やりおる!
さあ、どれ程の出来映えか見てみよう。
「ここを押すのかな。よっと」
俺はボタンを押したが反応無し。
あれ、おかしいな。
「┅┅ん、コータは全然分かってない」
「何をだよ?」
「ボタンを押す時の合言葉」
「合言葉だあ?」
何言ってんだ、このスライム?
「┅┅ん、ポチっとな」
「は?」
「ポチっとな」
「┅┅それが合言葉か?」
「┅┅ん。ボタンを押す時にこれを言わないと作動しない。世界の常識」
そんな常識はない。
だが、異世界は謎だらけ。
しかも、エビデンスゴータマは変わり者の錬金術師。
ついでに言えば、アニメオタクのワパニーズだ。
一応、ポヨの言う通りにしてみよう。
俺はもう一度テントのボタンにさわるとこう言った。
「ポチっとな」
すると、本当にテントが組み立てられていく。
なんだこれ?
俺が予想していたのはせいぜい二人が泊まれる小さなテント。
ボタンを押すとパッと出来上がる簡易な作りのヤツ。
だが、これは違う。
八人が手を広げて寝ても大丈夫なくらい広い。
しかも、自動で組上がっていく。
スゲーな錬金術。
「わあ、大きいテントですねコータさん」
「おおっ、ウチも泊めて欲しいわー」
「あたしも泊まりたい!」
俺の横で自分達のテントを作っていたアイ、マイ、ミーの三姉妹冒険者が感嘆の声を上げる。
無理もない。
彼女達が作っていたのはいわゆるインディアンテントの簡易版。
1本のポールに大きめの布を取り付けただけの物。三人泊まれば寝返りもできないかもといった小ささ。
対するこっちは普通にベッドを八つ置けそうな広さがある。
「┅┅ん、コータ。旅は道連れ世は情け。泊めてあげる」
「お、おお。じゃあ、テント広いんで皆さんもどうです?」
「ありがとうございます、コータさん」
「やったで。またマジックアイテムを体験できるんや!」
「あたしも嬉しい。ホントにありがとうコータさん」
みんな大喜びだ。良かった良かった。
「┅┅ん、コータ。今夜は満月ですね」
「あ、そうなの?」
「┅┅ん。コータは空気読め」
「スライムに言われましても」
こいつは何がしたいのやら。
まさかとは思うが、愛の告白じゃないよな?
でも、ポヨって夏目漱石好きそうだけど┅┅まさかねえ。
念のため寝る場所は離しておこう。
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