第14話 浪人生、初めて足がつる

 俺たちはポヨが競争のゴールに指定した一本杉に到着した。

 座れそうな手頃な岩場もあり、休憩にはなかなか良さげな場所である。

 ああ、座って休みたい。


「じゃあ、依頼主さん┅┅じゃなくてコータさん。ここで休憩にしませんか? 休憩した後にまた先へ進みましょう」


 俺の考えを知ってか知らずか、冒険者姉妹の長女アイが嬉しい提案をしてくれる。

 実は俺の足が限界を迎えたようなんだよね。

 俺は心の中でガッツポーズをとった。


「ええ、ありがたいです。けっこう疲れるもんですね」


 俺が少し弱音を吐くとチューリップハットのスライムがそばに来てこう言う。


「┅┅ん、コータ。買い忘れた物があるからいったんカツブシ村に帰る」


 シカトだシカト。

 ふざけたこと言うんじゃないよ。

 今からまた三時間も歩いて引き返すとかあり得ない。

 俺の足が完全に壊れる。


「ポヨちゃん、なに忘れたん?」

「┅┅ん、避妊具」

「ヒニングってなにー?」


 腐れスライムが何か言ってやがるが無視しよう。

 幸いにも、次女のマイと三女のミーが不思議そうに首をかしげている。


 長女のアイもキョトンとしてるから三人とも知らないのだろう。

 エビデンスゴータマ情報によると、異世界に避妊具はあるらしいが一般的ではないようだ。

 しかも、高級品で貴族とか大きな娼館が主な利用客だとか。


「┅┅ん、コータ。避妊は大事。すぐに戻って買う」

「行かねえよ馬鹿」

「┅┅ん、馬鹿はコータ。子供ができたらたいへん」

「できねえよ、子供なんぞ」


 本当にこのスライムモドキはよく分からん。ここで休憩以外の何をさせるつもりなんだ?

 ひょっとして、日本のラブホテルのご休憩とかけてるのか?

 下らねえ。

 こいつはエビデンスゴータマの失敗作だな。


「┅┅ん、コータは種無し?」

「もう、静かにしてくれよ。俺は疲れてるんだ」


 こんな下らん会話をしてると、みんな適当な場所に腰かけ始めた。

 俺もちょっと大きめの石に座りマジックバックから水筒を出す。


「あっ、コータさん。それってもしかしてマジックアイテムですか?」


 冒険者のアイが少し驚いた顔で尋ねてくる。

 そう、これはエビデンスゴータマ作の魔法の水筒。

 約三リットル入りの大きなやつだ。

 実は異世界では旅の時、水を持ち歩く事があまりないらしい。


 理由は魔法。

 ここじゃ大抵の人間が魔法を使え、水魔法で飲み水が簡単に出せるという。

 さすがは異世界だ。


 ただ、魔法の水はあまり美味しくないとかで、通は井戸水や湧き水を好むとか。

 エビデンスゴータマも井戸水ファンだったらしい。

 それで、カツブシ村のミーシャは黒パンに井戸水をセットで持ってきてくれたんだな。


 ただ、さすがは異世界。

 魔法の水が美味しくないなら美味しくすれば良いと、錬金術師が中心となって美味しい水を出すマジックアイテム(水筒)を作り出し世に広めたそうだ。


 その水筒の作り出す水はこの世のものとは思えぬ美味しさと評判で、庶民は一度でいいから飲んでみたいと願ってるらしい。

 アイ、マイ、ミーの三姉妹も錬金術師エビデンスゴータマの水筒に目が釘付けになっていた。

 うん、飲みたいのね。


「良かったら、皆さんもどうです?」

「いいんですか、コータさん?」

「もちろん」

「やったー、ウチ夢やってん。マジックアイテムの水筒の水飲むの」

「あたしもあたしも!」


 みんな喜んでるなあ。


「じゃあ、コップ出してもらえる?」


 俺がそう言うと三人はすぐにバックからマグカップを取り出し俺に付き出してきた。

 俺はそれぞれのコップになみなみと水を注いでいった。


「さあ、どうぞ」


 俺が促すと三人は一斉にゴクゴク飲んでいく。


「ああ、ホントに美味しいですー」

「ほんまや、ウチの人生で一番美味しい水やったわ!」

「あたしも一番かもー」


 へえ、そんなにか。

 俺も自分のマグカップに水を注いで飲んでみる。そしてすぐに吐き出した。


「うえっ、なんじゃこりゃ?」


 異様に変な味。しかもこれ炭酸じゃねえか┅┅というか、ドクターペッパーだろ。


「┅┅ん、この水筒の水はランダムでドクターペッパーになる。ご主人様の力作」

「下らねえ機能付けるんじゃねえよ」


 嫌いなんだよ、ドクターペッパー。

 友達に大ファンがいたけど、俺には良さが分からん。

 まったく、エビデンスゴータマはどんな人間なんだろうか?

 そんなこんなで時間は過ぎて。


「そろそろ行きましょう、コータさん」

「ええ」


 俺は勢い良く立ち上がると、生まれて初めて足がつった。いや、最初は分からなかったんだけどね。


「アイタタタタタ!?」

「どうしました、コータさん?」

「足が┅┅足が引っ張られる感じが」

「ああ、足がつってるんちゃう?」

「あたし、引っ張ってあげる」


 冒険者三姉妹が適切な処置をしてくれたおかげですぐに収まった。

 そうか、これが足がつるってやつか。

 思わず感心してしまった。


「┅┅ん、今日はコータの性欲がたまりすぎて限界。ここで野宿」

「へ? 性欲ですか?」

「違います。性欲とかたまってませんから俺! 疲れがたまっただけです!」


 あのスライム。

 いつか蹴飛ばす。

 でも、疲れはたまってる。

 ここでー野宿は嬉しいかも。


「┅┅ん、旅慣れないコータのために三人は協力。足手まといがゴメン」

「いえいえ、大丈夫ですよ」

「ああ、せやな」

「あたしも賛成」

「ご迷惑おかけします」

「コータさん。旅はまだ始まったばかり。焦ることないですよ」

「本当にすいません」

「┅┅ん、いざというときはコータを置いていく」

「おぶっていくの間違い?」

「┅┅ん、間違ってない」


 スライム以外に詫びつつ、俺は情けない思いで胸が一杯になる。

 運動って大事なんだなあ。

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