第10話 浪人生、冒険者ギルドへ行く

 周囲の商店と比べると明らかに大きな二階建ての建物。

 それが冒険者ギルドだった。

 何人かの冒険者らしき人が出入りしているのを見たが、みな獣人さんばかり。

 さすがは獣人の村カツブシ。

 しかも、半数以上が女性。

 中にはビキニアーマーらしき鎧姿の獣人女冒険者もいる。

 はあ、異世界だ。

 これぞ異世界だ。

 俺はワクワクしながら扉を開けた。


 そこは一見すると酒場に見えた。

 テーブルで獣人冒険者がジョッキ片手にワイワイやってる。

 笑い声、怒鳴り声、泣き声、囃し立てるような声、エトセトラエトセトラ。

 酒場によくありそうな喧騒だ。


 残念ながらまだ未成年の俺は日本の酒場に行ったことはない。

 だが、大学へ行ったり就職したりした同級生との付き合いで家飲みしたことはあるんだ。

 俺はちょっと酒が苦手なので烏龍茶で誤魔化したが、最後はだいたいこんな感じになっていたよ。


「┅┅ん、コータこっち」

「お、おう」


 俺はポヨに連れられて奥にあるカウンターへ向かう。

 どうやら、手前は酒場、奥は冒険者ギルドと分けられているらしい。

 俺とポヨは一番奥のカウンターにいる受付嬢さんに話しかけた。


 ちなみに受付嬢さんは一人だけ。まあ、村にある支部だからこんなもんか。

 でも、美人さん。ギルドの制服もよく似合ってる。

 年のころは二十代前半かな?

 しかも、猫耳付き。うんうん、素晴らしい。


「あ、すいません」

「はい、冒険者ギルド・カツブシ村支部へようこそ。ご依頼ですか? それとも冒険者登録をご希望ですか?」

「┅┅ん、冒険者登録」

「はい、かしこまりました」

「ち・が・う・だ・ろ・う・が!」


 冒険者ギルドのカウンター前で俺とポヨの再戦が行われたのは言うまでもない。


「クソッ、何故当たらん!?」

「┅┅ん、コータは早漏。すぐにイク」

「じゃかんしいわっ!」


 俺の攻撃をかわし続けるポヨ。

 本当に素早い。こいつはスライムの姿をしてるが実態は魔法生命体。

 運動能力は抜群なのだ。

 対する俺は浪人生。

 バイト以外で体を動かすことはまずない生活を送っていた。

 だから、限界も早い。すぐ疲れてしまうのだ。


「ハアハアハア、クソッ」

「┅┅あのう」


 おっと、いかん。受付嬢さんを待たせていた。


「ハアハア、す、すいません。依頼です。冒険者登録ではなく護衛の依頼でお願いします」


 俺が息を整えながらそう言うと周囲の冒険者が騒ぎ始めた。


「なんだよ、もう終わりかい?」

「クソッ、俺は兄ちゃんに賭けてたのに」

「ヨシッ、大穴キターー」

「まさかスライムが逃げ切るとは」

「兄ちゃん、スライムに負けるとか情けないぞーー」


 どうやら酒場で飲んでた冒険者たちが俺とポヨのケンカに賭けを始めてたらしい。

 冒険者らしいことで。

 俺は気を取り直して受付嬢さんに向き直り依頼内容を告げる。


「王都までの護衛を依頼します。対象者は俺とこの┅┅スライムのポヨ。人数とお金は応相談で」

「はい、王都までの護衛となると約一か月の旅ですね。治安は悪くないのでFランクが三人もいれば十分でしょう。料金は合計銀貨五十枚です」


 おお、冒険者ランクが出たよ。Fか。

 冒険者としては一番下のランク。治安がいいってのは本当みたいだ。そして、銀貨は五十枚ときた。悪くないね。


 ちなみに、銀貨一枚は日本円にして五千円くらいの感覚。

 つまり、今回の護衛依頼は日本円にして二十五万円。三十日分、しかも三人と考えたら安いよな。

 まあ、物価もけっこう安いようだし十分なんでしょう。


 ちなみに金貨一枚は銀貨二十枚分の価値がある。日本円にすると十万円だ。そのせいか流通量は少ないらしい。

 幸い、エビデンスゴータマが銀貨のつまった革袋を三つほど残してくれてるので安心だ。

 Fランク冒険者三名で王都までの護衛が銀貨五十枚。うん、いいんじゃないかな。

 あ、でも、すぐに出発したいんだけど。


「ええ、ランクやお金は大丈夫です。出発はすぐにでも行きたいのですが┅┅」

「かしこまりました。では、このFランク冒険者パーティーでいかがでしょう? アイ、マイ、ミー、こっちにいらっしゃい」

「ヨシッ、やったー!」

「依頼だ、護衛依頼だーー」

「賭けにも勝ったし今日はついてる!」


 受付嬢さんに呼ばれた三人組の冒険者が喜び勇んで酒場の方からやって来た。

 みんな若い。そして女性。アンド猫耳付き。


「ありがとう、依頼主さん。私はアイです」

「ウチはマイ。よろしゅうお願いしまーす」

「あたしはミー。スライムちゃんもヨロシクねー。いい旅になりそう」


 三人の猫耳少女たちが喜んでいる。

 これは楽しみだ。


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