第5話 浪人生、角が生える
「┅┅ん、コータは浪人生。つまり受験のプロ。だから、ご主人様は替え玉受験をお願いした」
「浪人生をなんだと思ってるんだ?」
テーブルの上でグデッとしたスライムが俺に言う。
「┅┅ん、若い貴重な時間を受験のために何年も捧げる受験のプロフェッショナル。それが浪人生。あるいは受験が大好きな受験オタク」
「イヤミか?」
このスライムは何なんだ。
浪人生は別に好きでやってるんじゃねえぞ。
希望する大学に行きたくて諦めずに頑張ってるだけなんだ。
プロでもオタクでもねえんだよ!
「┅┅宮廷付き錬金術師試験には筆記と実技がある」
「さらっと話続けんな」
「┅┅王都は遠い。明日には出発する」
「いや、だから話続けんなっての」
「┅┅ん、だから受験の準備する」
だから、先に進めるんじゃねえよ。
と、言おうと思ったけどふとあることに気付く。
筆記試験?
あのヒエログリフだかナメック語だか分からんあの異世界文字での筆記試験か?
無理に決まってんじゃねえか!
あれ?
待てよ。
そもそも、俺┅┅
何で日本語でスライムのポヨと話せてるんだ?
さっき訪ねてきた猫耳少女の言ってる事も分かったし。
もしかして、俺┅
異世界アニメやラノベでお馴染みの自動翻訳能力を神様から与えられていたりする?
これは確認せねば。
「なあ、ポヨ。俺がお前ら異世界の言葉を理解できるのは何でだ?」
すると、ポヨはあっさりこう言った。
「┅┅知らんがな」
ですよねー。
だんだんこのスライムの性格が掴めてきたわ。
こいつ、めんどくさがりだろ。
まあ、スライムだもんな。仕方ないよ。
「┅┅ん、コータ。そんな下らないことより準備はよ」
「いや、けっこう大事な質問だったんだが」
しかし、受験の準備なんてどうすりゃいいんだ?
勉強しようにも文字読めないし。あっ、遠いって言ってたから旅の準備か。しかし、着替えもねえ。着の身着のままだぞ。
そもそも、行くなんて一言も言ってないんだが?
だんだん、腹立ってきた。
でも、スライムはマイペース。
「┅┅ん、コータ。こっち」
ポヨは触手を伸ばして俺の手を取り移動させようとする。
仕方なく俺は椅子から立ち上がりポヨに指示される方へ歩く。そう、角付き白骨死体のある部屋の奥へ。
「なあ、ポヨ。受験の準備ってこの死体と関係あんのか? まさか一緒に連れていくとか言わんよな?」
「┅┅ん、めんどう。それよりも受験の準備する」
「どうやってだよ?」
「┅┅ん、こうする」
ポヨはそう言うとムニョンと触手を伸ばして白骨死体の額に付いてる角を掴む。
そして、スポーンと引き抜いたのだ!
「角取れんのかーい!?」
思わず関西弁で突っ込んでしまう俺。
驚く俺とは対照的にポヨは角を持ったまま冷静に言う。
「┅┅ん、これただの外部メモリー」
「へ? 外部メモリー? つまり、スマホで言うところのマイクロSDカード的なやつってことか?」
「┅┅ん」
異世界の角ってスゲーな。
あれ。てことは、この白骨死体のポヨのご主人様って鬼とかじゃなくて人間なの?
紛らわしい外部メモリーだ。
というか、もう少し小さくなんないのかよ。
俺がそんなことを思っているとポヨが動いた。
「┅┅ん、接続」
いつもグデッとしてるスライムとは思えないスピードで、ポヨが持っていた角を俺の額に押し付けてきた。
「な、何すんだ?」
「┅┅ん、これでよし」
ポヨが額に押し付けてきた角を俺は取ろうと手を伸ばす。
だが、取れない!
瞬間接着剤でも塗っていたかのようにガッチリ固まっている。
「どうなってんだ、クソッ!」
「┅┅ん、コータ。インストール始まる」
「インストール?」
そんな会話のあと、俺は額に張り付いた角から何か変なものが出てくる感触。
「おいおい、角から頭の中になんか入ってきたぞ!」
「┅┅ん、ご主人様の情報。これで受験の準備完了」
俺はポヨが言うご主人様の情報とやらにめまいがし、思わず床に倒れ込んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます