第4話 浪人生、替え玉受験に挑戦する?
エビデンスゴータマとは誰か? との俺の質問に目の前のスライムがこう答えた。
「┅┅ん、コータ。まずは食事」
そして、触手をムニョンと伸ばすとバスケットから黒いパンと壺を取り出し俺の前に置いた。
こいつ、けっこう優しいな。
そして、俺は自分が空腹なことに気付く。
ついさっきまで、日本の家にいて烏龍茶飲みながらポテチでも食うかと思っていたからな。
あの時から小腹すいてたんだ。そりゃ腹も減るか。
俺はポヨに勧められるがまま黒パンを手に取り、食べやすい大きさにちぎって口に運ぶ。
「固いな」
「┅┅ん」
焼きたてだと猫耳少女は言っていたがこれは固い。
けっこう咀嚼そしゃくしてからようやく飲み込む。
うーん、味も日本人にはちょっと合わんな。日本のパンみたいな甘さがない。
すると、スライムのポヨが壺に入った井戸水を持ってきた。
「┅┅ん」
「お、おう。ありがとう」
俺は壺に口を付けると中の水を少し飲んだ。
うん、これは普通に美味しく飲める。猫耳少女は井戸水と言ってたな。地球で言えばエビアンっぽいか?
俺は黒パンを小さくちぎっては水で流し込んでいく。
空腹のせいか慣れたせいか、不思議なもんでちょっと黒パンも美味く感じてきた。
まあ、異世界初の食事は質素だが悪くはないな。
俺は猫耳少女の持ってきた黒パンをあっという間に食べきったよ。手のひらサイズの黒パンを四個。
そして、気付く。
「す、すまん。全部食っちゃった。お前の分も入ってたよな?」
あわてて目の前のスライムを見る。
そこにはポテチと烏龍茶を美味しそうに食べている異世界モンスターがいたよ。
スライムだから口や歯は無いけど、ポテチをどこからかは知らんが体内に取り入れて、烏龍茶も器用にキャップを開けて飲んでやがる。
うん、スライムのポヨだ。
「なあ、ポヨさん」
「┅┅ん?」
「そりゃなんだ?」
「┅┅さあ」
「ポテチと烏龍茶だよな」
「┅┅ポテトチップス。コータはもう若くないから若者言葉使うと違和感」
「うっせーわ! つーか俺はまだ十九だ十分若い。というか、ポテチは別に若者言葉じゃねえし。そもそも、そのポテトチップスと烏龍茶はどうした?」
もう若くないと言われちょっと動揺してしまった俺。だが、誤魔化されんぞ。
そのポテチと烏龍茶は見覚えがある。ポテチは俺が日本の部屋で食おうと準備してたコンソメ味だし、烏龍茶は近所の大手スーパーで買った系列店オリジナル商品。
異世界じゃまず手に入らねえだろ。
一体どこで手に入れた!?
「┅┅拾った」
「どこでだ?」
「┅┅床」
「ここのか?」
「┅┅ん」
「つまり、俺が異世界転移した時に一緒に転移してきたものだよな?」
「┅┅さあ」
ポヨは誤魔化すが間違いねえ。これ俺の部屋に合ったやつだ。
クソッ、貴重な日本の品が┅┅
黒パンよりそっちが良かったぞ。
気付けばスライムはポテチを食べきり2リットルのペットボトル烏龍茶を飲みきっていた。
「┅┅ん、コーラおかわり」
「ねえよ、そんなもん!」
空のペットボトルを俺に付き出して何故かコーラを要求する異世界モンスター。
いやほんとマジでこいつ何なの?
俺はテーブルの上に鎮座してグデッとしているスライムをジト目で見つめた。
「┅┅ん、コータ受験の準備」
「お前のご主人様とやらのせいでできねえんだよーー!」
ポヨのセリフに浪人生の俺はキレそうになったよ。
無理やり異世界へ飛ばされた人間に受験の話持ち出すんじゃねえ。
「┅┅ん、違う。宮廷付き錬金術師の国家試験」
「宮廷付き錬金術師の国家試験だと?」
何を言ってんだ、このスライム。
「┅┅ん。ご主人様は錬金術師。今年の宮廷付き錬金術師の国家試験にも挑戦予定」
「┅┅は?」
待て待て、何なんだ?
ポヨのご主人様って異世界から日本へ行ったオタクの人だよな?
自称ワパニーズ。アニオタでありガンヲタでもある。
ええっ、受験前だったの?
終わらせてから日本に行けよな。
あれか?
テスト前に部屋掃除したくなるやつか?
いや、俺もそういうタイプの人間だったけどさ。でもさすがにテスト前、異世界へ行きたいとは思わなかったぞ。
あとさ、俺と何の関係が?
「┅┅ん、ご主人様は聖地巡礼で今忙しい。だから、コータに替え玉受験をお願いした」
「お願いされてねえし」
何なんだ、ポヨのご主人様って。
俺に何をさせたいんだ。
「┅┅ん、コータ、早く替え玉受験のじゅんびして」
「だが、ことわーる!!」
無理に決まってんだろ。
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