第3話 浪人生、第一村人を発見する

 俺とスライムのポヨとの会話は続く。


「じゃあ、ポヨのご主人様は俺を日本から召還して自分は日本へ行ったわか?」

「┅┅ん。聖地巡礼の旅」

「何だよそりゃ」

「┅┅ん、聖地巡礼の旅とはアニオタのひとり旅」

「いや、微妙に違うと思うがそういうんじゃなくて、ポヨのご主人様は何で俺を召還したの?」


 行くなら一人で行けよな。

 何で俺を巻き込むんだ?

 するとスライムのポヨが呆れたような声で言った。


「┅┅質量保存の法則」

「へ?」

「┅┅ん。質量保存の法則」

「いや、聞こえたし。そうじゃなくて質量保存の法則と俺の召還の繋がりが意味不明なんだが」

「┅┅質量保存の法則は今時の小学生でも知っている」

「いや、知らんと思うぞ?」


 質量保存の法則は「化学反応の前と後で物質の総質量は変化しない」とする化学の法則だ。

 現在は自然の基本法則ではないことが知られているが、実用上広く用いられているのだが┅┅


「だいたい、俺の異世界転移と質量保存の法則に関係ある? そもそも質量保存の法則なんてこと何でスライムのポヨが知ってるんだ?」

「┅┅ん、関係ある。そして、この程度はスライムの常識」

「マジかよ」


 異世界のスライムは頭いいのか。

 ポヨとの会話に少しショックを受けていた時、突然玄関から音がした。


「ピンポーン」


 うおっ、なんだなんだ?

 ここ玄関にチャイムあんのかよ。進んでるなあ。

 思わず窓から外を覗き見る。

 そこには一人の女の子が立っていた。

 手には小さめのバスケットが握られている。服装はヨーロッパの民族衣裳っぽい。

 そして、髪の毛は緑色。

 ヤベエ、グリーンだグリーン。

 染めたんじゃない。天然の緑色。異世界アニメでよく見た色。

 そして、頭の上には猫耳が付いてる。


 おおっ、獣人少女キターー!!

 異世界だ。

 異世界あるあるだよ。

 ガチで見るとスゲーかわいい。

 よく見りゃスカートから尻尾も見える。

 はあ、モフモフだあ。

 初めて異世界らしい人に出会えた。

 もちろん、角付き白骨化死体と喋るスライムは異世界でも異質だからノーカン。

 俺がどうでもいいことで感極まってるとスライムのポヨが動き出した。


「お、おい」

「┅┅ん、お客」


 そう言うとポヨは今までだらけてた姿とは見違えるほどのスピードで玄関へと向かう。

 そして、ムニュウっと触手を伸ばすと玄関のノブを回し扉を開けた。

 獣人少女の全身が見える。

 あっ、今気付いたけどエプロン姿。

 萌えるわあ。


「ポヨちゃんこんにちは。焼きたての黒パンと井戸水を届けにきました。あと、お父さんのお薬受け取りにきました」

「┅┅ん」


 二人はそんな会話を交わすとポヨは棚へ向かい、猫耳の女の子は部屋の中に入ってきた。

 そして、バスケットを中央にあるテーブルに置く。

 それから、窓際にいる俺と目が合うとニコッと笑って一礼し聞き捨てならない事を言う。


「こんにちは、エビデンスゴータマ様。いつもお世話になります!」


 エビデンスゴータマ?

 ポヨが言ってた名前? だよな。

 いや、そもそも何でこの子は俺に気軽に挨拶してるの?

 初対面だよね?

 俺の困惑をよそに、ポヨが変な液体の入った壺を器用に触手で掴むと少女の所に持っていく。


「┅┅ん」


 猫耳少女は嬉しそうに受け取るとポヨに一礼。そして、俺に向き直るとこう言った。


「いつもありがとうございます。エビデンスゴータマ様のお薬は効果抜群だってお父さんも言ってました。それではこれで失礼します」

「┅┅ん」


 呆気に取られて黙り込む俺に変わりポヨが少女を玄関で見送る。

 何だこれ?

 エビデンスゴータマって、俺のことなのか?

 ポヨの悪ふざけじゃなく?

 わからん。

 異世界はワケわからん。


「┅┅ん、コータ、食事」

「食事?」


 ああ、そういや猫耳の女の子が言ってたな。

 黒パンと井戸水を持ってきたって。

 あの娘、俺の食事を届けてくれたんか?

 いや、俺じゃなくてエビデンスゴータマのか?

 わからん。ワケわからん。

 とにかく色々と聞いとかないとな。

 俺は猫耳の女の子がバスケットを置いた中央のテーブルに腰かける。

 ポヨはぴょんと跳ねてテーブルに飛び上がると俺の目の前にきた。

 意外と運動能力高いな。

 でも今は事情聴取だ。


「なあ、ポヨ。エビデンスゴータマってのは何だ?」

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