第2話 浪人生、スライムと出会う


 開いた本の魔法陣から出てきたのは水色のゼリーだった。

 いや、違うな。

 これ動いてる。

 生き物だわ。

 水色のゼリーじゃなくてスライムだよなコレ?

 日本人なら誰でも知っているだろうモンスターだ。

 異世界物のアニメとかラノベじゃ定番のキャラ。

 でも、こいつ喋ったよな?

 スライムって喋ったっけ?

 発声器官どうなってんだ?


「┅┅ボク、悪いスライムじゃ┅┅」

「最後まで言わんかい!」


 本の上でだらっとしてる? スライムの発した言葉に思わず突っ込んでしまう。

 何なのこいつ?

 結局、悪いスライムなの?

 というか、何でこのネタ知ってんの?


「な、なあ、お前はスライムでいいんだよな?」

「┅┅ん」

「スライムって喋れるの?」

「┅┅ん」


 知らんかった。

 もちろん、アニメやラノベじゃ常識だけどさ。

 リアルで声を聞くと違和感あるわあ。


「何で本から出てきたの?」

「┅┅召還」


 おおっ、やっぱこの本の魔法陣は召還のための魔法陣か。

 ちょっと感動。

 異世界スゲー。

 何か楽しくなってきたな。

 俺は椅子に座り直し机の上の本に鎮座するスライムに語りかける。


「なあ、お前の名前はあるの?」


 俺がそう尋ねるとスライムはちょっと沈黙したあとこう言った。


「人に名前を聞くときはまず自分から名乗れ」


 おうっふ。定番の返しがきたよ。

 スライムから┅┅

 普通、これ冒険者とかの出会いでよくあるセリフだけど。

 まあ、いい。気にしたら負けだ。

 というか、こいつ頭いいな。

 普通に会話できてるぞ。


「ああ、そうだな。俺の名前は愛媛光太郎(えひめこうたろう)だ」

「┅┅ん」

「で、お前の名前は」

「┅┅」


 しばしの沈黙のあとでスライムはこう言った。


「我輩は猫である。名前はまだない」

「いや、スライムじゃねえか! あと何で夏目漱石を知ってるんだよ?」


 異世界は驚きの連続である。

 だが、会話できるのは素晴らしい。

 よし、色々と聞いてみよう。


「なあ、スライム。ここは異世界でいいんだよな?」

「┅┅名前はポヨ」

「お、おう」


 そういやまだ聞いてなかったな。

 というか、名前あったんかい。早く言えよな。


「エビデンスゴータマは召還された」

「誰だよエビデンスゴータマって?」


 俺のことか?

 うまいこと間違えやがって。こいつわざとか?


「俺の名前は愛媛光太郎(えひめこうたろう)だ。言いにくかったらコータでいいよ」

「┅┅ん。コータ」

「ああ。それでさっきの質問だけど、ここは異世界でいいんだよな?」

「┅┅ん。コータのいた世界から見れば異世界」

「おお、やっぱりか。じゃあ、聞くけど何で俺は異世界に来たんだ?」

「┅┅ご主人様に召還された」

「誰だご主人様って?」

「┅┅ん、そこの骨」


 スライムのポヨがプヨプヨした体から触手みたいな物を伸ばして指差す。

 それは部屋の奥にあるあの角付き白骨化死体に向けられていた。


「これがポヨのご主人様か?」

「┅┅ん」

「死んでるけど?」

「┅┅ん」

「まさか、俺を召還したから力尽きたとか?」

「┅┅ん」


 な、何だと!?

 俺を勝手に召還しといてくたばるとか無責任にも程があるだろ。


「┅┅違う」

「違うんかい!」


 ちょっとこのスライムは会話のテンポが遅い。

 まあ、スライムだし仕方ないのか。


「┅┅ご主人様は地球に行った」

「はっ? 異世界から地球に行ったの?」

「┅┅ん。違った。日本に行った」

「いや、同じだし」


 でも何で異世界の人間(ただし角付き)が日本に行くんだ?


「そりゃまたどうして?」

「┅┅ご主人様はワパニーズ」

「ワパニーズ?」


 スライムのポヨから出た言葉に一瞬ポカンとしてしまう。

 でも、すぐに思い出した。

 ワパニーズって日本文化(主にアニメ)オタクの外国人のことだよな。

 まさか異世界にもいたとは。


「┅┅ん、ご主人様はアニオタ」

「お、おう。アニメオタクか。そりゃ確かにワパニーズになるか」

「┅┅あと、ミリオタ」

「いや、ミリタリー(軍)オタクは日本関係なくねえか?」

「┅┅ご主人様は日本の兵器、とりわけモビルスーツが大好き。特にズゴックがイチオシ」


 どこかドヤ顔っぽいスライムのポヨに俺は心の中で突っ込んだよ。

 それ、ミリオタじゃなくてガンヲタな。

 たぶん、アニオタの一種。

 うん、やっぱりワパニーズだわ。

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