第19話 揃う五人
休憩所の両側に、流れ出た土砂がヤン達の場所を侵食していく。ここはいわば陸にある孤島で、小さなボートでもワイヤーで両岸を繋げて伝うなど策でも講じれば、彼らはなんとか助かるはずである。ただ、現状として小さなボートもなければ、丈夫なワイヤーも無い。歩こうにも、そんなことをしようものなら体が沈み、ヤン達の身長からすればすっぽりと身体が土砂に覆われてしまう。これは土砂崩れの際に巻き込まれたキツネが実証している。土砂崩れ直後はなは鼻だけを出してなんとか呼吸をしようと試みていたキツネはもういない。その一部終始をヤンが見ていた。
「どうしよう…」
彼にはその言葉しか浮かばなかった。唯一の食糧である焼き菓子も底を尽き、止まることの無い風で体温と体力を奪われる。もう、どれくらいの時間が経ったのかもわからなかった。
サラはお互いのリュックをくくりつけて一つの紐にし、それを向こう岸の木に繋げて渡るのはどうかと提案した。しかし、それでも向こう岸へ届く長さになるかどうか、そして届く長さになったとしてもそれを向こう岸の木へ繋げるのはどうするかなどの指摘により、この案は却下された。
遠くを見渡すと、向こう岸がある。向こう岸の先には村がある。四人は家に着いて、暖炉の日にあたる場面を想像した。秋になったばかりの筈なのに、ひどく空気が冷たかった。流れる風が徐々に四人の肌を刺した。
「もし、ヤンタリウムの性質が本に書かれていた通りであれば―――」
ヤンは想像した。いや、それならこの辺りも秋の季節のままではないか。流れている空気はヤンタリウムが流れていない「本当の時間」が流れている場所からの風ではないか。ヤンはそこまでで考えるのをやめた。いや、もう寒さと絶望で考える力がこれ以上残っていなかったのだ。
アメリアは空を見た。自由に空中を行き来する鳥をこれほど羨ましくも思ったことはない。
「あぁ、もし鳥だったら―――」
そんなことを本気で思った。そんなことを跳ね除けるように鳥の大きな鳴き声が森中に響き渡った。その鳴き声に答えるように相手の鳥も応えた。
その時、かすかに人間の、しかも女の子のような声がアメリアには聞こえたような気がした。空耳かと思った。この場所には、風の音やそれによって揺れる枝の音、鳥が発する鳴き声もあれば羽ばたく音もある。しかし、次はそれらとは明かに違う「声」が聞こえた。
誰かの声がするのか、アメリアはヤン達に「声」が聞こえるかどうかを確かめた。だが、皆聞こえないと言う。やはり、アメリアだけの空耳なのか。
次に四人の名前を叫ぶ女の子の声がはっきりと聞こえる。
「今、誰かの声が聞こえなかった?」
タムがそう言った。アメリアは他の二人に聞こえるかを聞いた。ただ、ヤンもサラも聞こえるか聞こえないかと中途半端な答えだった。
声はアメリアの中で徐々に大きくなっていた。次の一声で、ヤンやサラも自分の名前を呼ばれたとはっきりと答えた。やはりその声はリリの声だった。
そこには足を傷だらけにしたリリが立っていた。
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