第15話 山道

山道の入り口に着いたヤン達は、揃って目の前にある連続した巨木の壁を見上げた。朝焼け間もないこの時間に山道に入ることは街灯のない夜道を手探りで歩くようなものだった。ヤンはリュックからヘッドライトを取り出し、頭に取り付けた。アメリア達も手に持つタイプの懐中電灯を持ってきていた。廃駅までの道中でリリのいる場所を探るための手掛かりを探すためだった。


森の中に風は冷たく、皆白い息を吐きながら山道を進んだ。もう冬だった。


どっしりとして太い樹木は相変わらず群れを成して光の多くを遮っていた。空を飛ぶ特権を持った者達は、照らし始めた光求め樹木の頭の上で暖を取りながら活気付いていた。空を飛べない子供達は一歩一歩踏みしめながら少しずつ高いところへ登る。上下、左右、前後ろを注意深く見回しながら進んでいく。今のところ彼らの周りは枯葉の絨毯じゅうたんが敷かれ、天井の穴から入る光の恩恵を受けた草がぽつぽつと顔を出す。その様な景色が続く。ヤンも地図を見ながら山道の目印を探す。石碑や廃屋の茶屋、色褪せた木造りの看板などを頼りに自分達の現在地を確認した。予定通りの道に進めている。


するとゼエゼエと息を切らす音が聞こえる。先頭のヤンが後ろを振り返るとタムが膝に手を置きながら切れ切れに言った。


「そろそろ…休憩しよう…足が疲れてきた…」


三人を見ると、サラはまた行けるといった表情をしていたが、人一倍険しい表情になっていたのがアメリアだった。アメリアの場合、リリを助けに行くと一番に張り切っていたわけだから、その分の体力も使ったのだろう。ヤン自身も体力のある方ではないので、そろそろどこかで…という気持ちにはなっていた。


「もう少ししたら石造りのベンチがあるようだからそこで休憩しよう」


「オー」と、三人は右手を挙げて弱々しく言った。



タムがリュックから個装のチョコレート菓子をみんなに配った。なんでもリリを探しに行くと決まった夜から家の棚に仕舞ってあるのを持ち出し、自分の部屋に隠しておいたという。他の三人も家族には秘密でここに来ているので、食料の確保は似たようなものだった。本来ならサンドイッチなどキッチリとした腹の膨れるものを用意したかったがそう言うわけにもいかなかった。店で買おうものならこんな小さな村である。すぐに家族に知れる。志半ばで連れ戻されるに違いない。


リリを助け出しに行くという気持ちはここにいる四人の総意だった。少なくとも皆そのためにここにいる。しかし、ヤンはそれだけではなかった。リリに「下見」を頼んだものの、自分で廃駅の存在を、そして学校の図書室の片隅で見つけた古い本に書かれていた不思議な物質のことを確かめてみたかった。ただ、それらの気持ちについては心の奥に隠していた。今それを皆に打ち明けてはならない気がした。



「そういえば、リリが言ってたわね。都会の大きな鉄道駅に行ってそこからまた、別の場所に旅してみたいって」


「うちのおじいちゃんも昔、列車の方がゆっくり走るから風情があっていいって言ってたけど、車だったら列車より速いのに」


「さぁ…リリにも私、同じようなことを言ったわ。でも『それがいい』んだって。私がいたところも結構都会だったけど、列車は全然乗らなかったわ」


アメリアとサラがそんなやりとりをしているのを聞き、タムがその輪に入った。


「車よりもすごく速い列車があればいいのにね。それだったらみんな乗るのかも」


「そんなの、あんまり想像できないかも」サラは笑った。



その時だった。ドンという荒々しい音が四人の進む道の先から聞こえてきた。そこに続くように土の傾れる音が大きく響いた。土砂は時に細く若い木を倒していきながら地を這い、麓の道の手前で止まった。太い木々とその根がブレーキの役割を果たしてくれたのだ。


ヤン達も風にのせて運んできた轟音と地響きに驚きと焦りを隠せなかった。木の天辺では鳥達がやかましくさえずっていた。

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