第4話 千代子、魔法少女化を決意する
「イズ――!!」
「ング――!!」
「きゃああああ!?」
明らかに奇声にカテゴライズされるような謎の鳴き声と共に飛び出してきたのは、豚のような動物のぬいぐるみである。色はピンクと水色だ。ああ、あれだ。さっきの広告に載ってたマスコットキャラだ。
何? これがアレ? VRとかそういうやつ? すげぇじゃん。
そう思って、恐る恐る二体のぬいぐるみに手を伸ばす。実体がなければVRだ。専用のゴーグルとかなしにいきなりVRが見られるというのも謎だが、ガチでスマホからぬいぐるみが飛び出すよりはよっぽどあり得る話である。最近の広告ってすごいのねぇ。この広告がすごいのか、私のスマホがすごいのか。何、いつアップデートしたの?
が。
「痛い痛い! 痛いング――!」
「やめるイズ――! トレニンのお鼻を掴むのはやめるイズ――!」
掴めちゃったのである。
水色の方のぬいぐるみの、それはそれはもう立派な豚っ鼻を、むんずと掴めてしまったのである。
じたばたと短い手足をばたつかせる水色豚の腰にしがみついているピンク豚を無理やり引き剥がし(たぶんお前の体重がかかってるから余計に痛いんだよ)、二体をベッドの上に並べてやると、鼻を掴まれた方の豚はガラス玉みたいなおめめから、ぬいぐるみとしてはちょっと考えられない量の涙をほろほろと零した。
「ちょっと乱暴すぎるング! せっかくスカウトしに来たっていうのに、あんまりング!」
ングングうるせぇな。あんまりングってポンデリングみたいだし。あーお腹空いた。
泣きながら必死に訴えてくる豚のぬいぐるみを見ながら、そんなことを考えていると、ピンクの方がまぁまぁとそれをなだめ、(たぶん)きりっとした表情で私に言った。
「だけど、これで確信が持てたイズ。この子なら立派な魔法少女になれるイズよ!」
……はぁ?
てちてちとベッドの上を移動し、私の手に触れる。そして(たぶん)可愛く微笑んで、ばちこーん、とウィンク。
「あなた、魔法少女にならないイズ?」
「なるかボケェ」
そのあざとい感じが鼻についたので、そいつの鼻も掴んでやった。
「痛い痛い! 痛いイズ――!!」
「エクサ――! やめるング! この野蛮人!」
「何よ、野蛮人とは随分じゃない、ぬいぐるみ風情が」
ぽこぽこと私の膝に攻撃をかましてくる水色豚もついでとばかりに鼻フックしてやると、「ごめんなさい! ごめんなさいング! 謝るから許してング!!」「わ、私もごめんなさいするイズ! 許してほしいイズ!」とぎゃあぎゃあ騒ぎ始めたので、とりあえずやめてやることにした。
真っ赤に腫れた鼻をさすりながら、えぐえぐと泣いている二体のぬいぐるみ達は、ずるずると鼻水を啜りつつ、「魔法少女になっていただけませんかング」「このままではこの日本も私達の故郷のようになってしまいますイズ」などと言いだした。
「いや、その辺の事情はよくわからないけど、私いまダイエットで忙しいんだよね。他あたってくんない?」
カップラーメン(ちゃんと売り場で吟味して一番カロリーが少ないやつにした)にお湯を入れながらそう返すと、二体は「ですから!」と声を揃え、瞳を輝かせてしゃきーんと起立した。おいまだ懲りてねぇんか。
「魔法少女は痩せるング!」
「……何? それはほんとか?」
「ほんとイズ! ほんとのほんとのほんとイズよ!」
「こちとら食事制限も
「そんなもん目じゃないング! えぐいほど痩せるングよ!」
「……マジで?」
「マジのマジの大マジイズよ! 魔法少女で理想の身体を手に入れるイズ!」
よっしゃ、そういうことならなったろうじゃん、魔法少女!
そんな流れで、私は魔法少女になった。
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