第5話 千代子、魔法少女になって力を得る

 魔法少女は痩せる。


 その言葉を信じて、私は魔法少女になった。


 『魔法少女マッシヴ★チョコリーナ(もちろん本名の『松渋まつしぶ千代子ちよこ』からつけたやつだ)』になった私は、それはそれはもうがむしゃらに頑張った。とにもかくにも痩せるために頑張った。


 あの二体のぬいぐるみは、マッソー星にあるマッソー王国というところからやってきた双子の妖精で、水色(語尾が『ング』)の方がトレニンという男の子、ピンク色(語尾が『イズ』)の方がエクサという女の子である。


 それで、魔法少女マッシヴ★チョコリーナの使命とは、この宇宙のすべての生き物を脂肪の塊にしようと目論む『悪の帝国フトラス』が送り込んでくるぶよぶよのモンスター、ファットマスと戦い、その野望を打ち砕くことらしい。ちなみに、マッソー王国はもうほとんどの国民が脂肪の塊と化しているのだそうだ。そこで、同じ悲劇を生まないため、脂肪化を免れたこの二匹を含む一部の国民が、はるばる銀河の彼方からやって来たのだという。これまでも様々な星でフトラスと戦える者をスカウトし、救ってきたのだとか。


 いや、それは良いんだけど、自国は良いの? そっちは良いの? その戦える者とやらを連れて戻ってやれよ。


 まぁそれはそれとして、ファットマスは人の弱い心に入り込み、暴飲暴食を促して、ぶくぶくに肥えさせてしまうという恐ろしいモンスターである。もしかして海の向こうの肥満大国って既にこいつらが、などと一瞬よぎったが、手遅れかもしれないから一旦無視だ。そっちの国はそっちの国で何とかしてくれ。


 というわけで、数週間の初期研修を終え、早速バトルの日々が始まった。


「もっと腰を落とすイズ! お尻をぐっと後ろに引いて! そう! 遠くの椅子に腰かけるように! そんなイメージイズよ!」

「こうね?!」

「オッケー! ばっちりイズ! その動きをあと三十回! 大殿筋と大腿四頭筋にパワーを溜めるイズ!」

「うおおおおおおおおおっ! 熱くなってきたァァァァ!」

「良いングよ! そこで足を大きく開いてさらに二十回! 今度は内転筋、腸腰筋、中殿筋にパワーを溜めるング!」

「っしゃオラァっ! キタキタキタキタぁぁぁっ!!」

「いまイズ!」

「思いっきりやるングよ!」

「オッケー! ひっさぁーつっ! マッシヴキーック!!」

「ブヨブヨ、ブヨヨ――!!!」



「今日も見事だったイズ、千代子!」

「さすが、僕達の目に狂いはなかったング!」

「サンキュー、二人共」


 今日も今日とて脂肪の塊ファットマスとの戦いである。

 トレニンとエクサの話によると、欧米化欧米化と言われている日本人の食生活も、海の向こうの本場に比べればへそで茶を沸かせるレベルらしく、某ファストフード店のポテトやシェイクのサイズも小さいし、やはり手強いのは根強い人気を誇る和食の存在らしく、フトラス側もかなり苦戦しているらしい。

 

「だからド素人でもなんとかなるってことね」

「海の向こうにも魔法少女は派遣してるング。だけど、あっちは国土面積も広いし、人も多いング。だから、僕達の先輩が銀河の精鋭を集めて軍隊を結成し、それを送り込んでるング」

「それでもかなりの劣勢を強いられているみたいイズ。だから、本当は日本ココもそこから一人回してもらうはずだったイズけど、一人でも欠けるのは痛いって言われてしまったイズ」

「僕達下っ端だから強く言えないングよ。だから、現地調達するしかなかったング」

「成る程ねぇ。まぁ、私としては、だいぶお肉も落ちて来た感じもするし、良いんだけどさ」


 そう、やはり魔法少女は痩せるのである。

 魔法の力だろうか。すごい。

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