第2話 千代子、全然痩せない

「クソクソクソ! 何で痩せないのよぉっ!」


 おかしいのである。

 高校生の頃は確か、ちょっと太ったな、って思った時にはリンゴだけ食べてりゃ痩せたのである。


 テーブルの上には実家の青森から送ってもらったリンゴの山。王林、ふじ、ジョナゴールドに、つがる、陸奥、紅玉……ってまぁ品種は置いといて、だ。都会で頑張る娘のために、故郷の味を忘れないでね、と優しい両親が張り切って送ってくれたリンゴ達エールである。一応目的はダイエットであるわけなので、量は控えめにダンボール二箱にしてもらったのだが――、


「何で!? 何でよ! 何で痩せないのよ! オラァッ!」


 ぼむ、とたるんだ腹にパンチを入れると、育てに育てた脂肪がたわんと揺れる。


「ぐぬぬ、やはり食事置き換えダイエットはティーンだけのものなのかしら。ならば次の手よ!」


 朝ご飯代わりのジョナゴールド(五個目)をシャリッと齧り、滴る果汁を乱暴に拭った。




「テテレレ♪ 『ガリガリドッカーン』!」


 某国民的人気アニメの猫型ロボットのマネをして、無駄に元気よく、その小袋を高くあげる。


 これは動画配信サイトのコマーシャルでよく流れている、やたらと早口のアニメーションで紹介されるタイプのサプリメントだ。

 いつもは即スキップするそのコマーシャルによると、サプリに配合されている、NASAも認めた何やらかんやらの成分と、備長炭の効果により、翌朝には、筆舌に尽くし難いほど脂の浮いた便が排泄され、あっという間に二キロ三キロと減っていく、海外セレブも御用達のサプリなのだという。ガリガリになるほどドッカーンと出る、ということからこの名が付けられたのだとか。あまりにも効きすぎるので、一袋で五キロ以上減った場合は使用を中止してくださいという、何とも頼もしい注意書きまである。むしろ望むところだ。


 これが一ヶ月分通常価格八千二百円(送料別)のところ、いまなら二千円(しかも送料無料)で試せるというのだから、買うしかない。


「頼むぞ、『ガリガリドッカーン』!」


 そんな祈りを込め、三粒を飲んで眠りについた。あぁ、いま私の身体の中をNASAも認めた成分と備長炭が駆け巡っているのがわかる。心なしか腹の中が熱い気がする。恐らく、この忌々しき腹肉が燃えに燃えてどろどろに溶けているのだ。そして明日の朝になれば便になって出ていくというわけであろう。


 さらば、今日までの私。

 明日にはこのたぷたぷの贅肉を脱ぎ捨て、モデルみたいにスレンダーな新しい私になるのよ!



 翌朝、昨日までの私がそこにいた。


 便は出た。

 とりあえず出た。

 常識の範囲内の量だった。

 脂は浮いていたかどうか定かではない。


 

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