第27話 蠅の王ベルゼブブ

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隻眼のオーディン

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 そいつは大きい黒いマントにくるまってふわふわ浮いていた。

 オーディンはなぜ浮く事が出来るのか謎だった。

 


「ふわあああああ、よーく眠ったし、いっちょやりますか、お、あんた爺だ。爺だな、爺は食ってもおいしくないんだけどさ、まぁ蠅たちの餌にゃなるか」



「何を失礼なことをいっておる、わしは極上にうまいぞ」

「あっそあっそ」



 そう言って暴食のベルゼブブはマントをはらりと脱ぎ捨てた。

 そこには黒い無数の影に浮かばされているベルゼブブがいた。



 無数の黒い影が何億匹と越える蠅である事は即座に理解した。

 オーディンは隻眼の眼帯を解いた。 

 そこには魔法魔眼の魔眼が入れられていた。

 


 オーディンは魔眼を取り換える事で魔法を色々と使う事が出来る。

 本来オーディンはロキにかけた呪いのせいで魔法が使えなくなっている。

 しかしルーン文字を使用した魔法は使えたりする。



「昔ならわしの右手から獄炎の炎魔法をお主に炸裂させる事が出来るんだが、まぁこれはこれでいいとしよう」



 オーディンの左目が燃え上がる。

 


「炎の魔物の眼だ」

「ほむほむ、そんな事ができるんだねーいいねーたのしーねー」



 オーディンの左目が燃え盛り、右手には炎の塊が出現する。

 


「さて、あまり手加減もしてられんのでなぁ」



 オーディンがにやりと笑う。



 右手に出現した炎の塊を左手でこねくりまわすようにぐちゃぐちゃにする。



「雷撃の炎でもくらってみるかのう、ルーン文字での雷はシンプルでよろしいのう」



 オーディンは左手にルーン文字魔法を展開し、炎の魔法にルーン文字を付与した。

 そのルーン文字が雷となるわけで。



「さぁ、ゆくがよい」



 オーディンが真名を呟くと、一瞬でベルゼブブの心臓を炎の雷が貫いた。



「とまぁ、普通なら死ぬんでしょうね」



 ベルゼブブはにやにやしながら浮いている。



「我の体全てが蠅であり、全ての蠅が我であるのですよ、つまり心臓に密集している蠅を殺したくらいでは我は殺す事は叶わないのですよ」



「ふむ、なら全てを燃やそうか」



「え!」



 初めてベルゼブブが狼狽した。



「ルーン文字展開、魔眼はこれにするか」



 オーディンの瞳の魔眼が自動で交換される。

 そこにあった魔眼はとてつもなく大きかった。

 瞳の窪みに収まっている事が不思議でならなかった。



「これはのう、破滅の魔物の魔眼でな、範囲魔法がいいんじゃよ」



 オーディンの右手と左手に凝縮される塊、ぐつぐつと煮えたぎる炎。

 


「ちなみに、ここにルーン文字を展開させるとな」



 オーディンがにやりと不気味な笑顔をベルゼブブに向けた。



「追尾式になるんでな」



 瞬く暇もなくベルゼブブは空を飛翔した。

 そして蠅を無数に散らしている。



 そこには巨人のようにでかくなったベルゼブブがいた。

 ベルゼブブはゲラゲラ笑い。



「破滅魔法を使えるのはお前だけじゃねええええええ」



「ほうかほうか、どっちが魔法使いとして優れているかやりあおうじゃないかのう」



 巨大となった蠅の王であるベルゼブブは1匹1匹の蠅から破滅の魔法をこねくりだした。それが巨大な隕石のようにオーディンの真上を取った。



 一方でオーディンは真下から破滅魔法を炸裂させるべく、構えていた。

 破滅の隕石が落下してくる中、破滅の範囲魔法を解き放つ。



 二つの破滅魔法が炸裂する中で、衝撃となりオーディンもベルゼブブも吹き飛ばされてしまう。

 

 オーディンは地面に両足を突き入れる事で、吹き飛ばされる衝撃から自分自身の体を守る事に成功した。

 一方でベルゼブブは吹き飛ばされた蠅達を集める事でオーディンの眼の前に立っている。


 オーディンは荒く呼吸を繰り返し、ベルゼブブの体を覆う蠅の面積が減っていた。

 

「お主、バカにしてすまぬな、意外とやりおるのう」

「これでも七つの大罪だからな、それにしてもあなたも隻眼のオーディンで力を失ってはいるが神として同じ魔法使いとして感動している」



「ではまいる」

「おう」



 魔眼を色々取り換えたりしながら、魔法を何度も何度も炸裂させる。

 それでもベルゼブブは破滅魔法を何度も繰り返す。

 2人は何度も何度も魔法を炸裂させていった。

 その結果、オーディンの周りでは災厄という呪いが増殖していた。



 オーディンはそれらの災厄をどうすればいいか考えている。

 災厄とは疫病とかの類であり、触れると病になるとされる。

 しかしオーディンは神であり、ロキの呪いで不老不死になっているので効果はない。



 あまり深く考える事もしなくていいかもしれない。

 オーディンはそう思っていた。



 しかしベルゼブブはにやりと笑い。



「我は暴食だ。そして災厄そのものだ。意味がわかるか?」


「はて?」


「喰らうんだよヴぁあああかあああ」



 四方に散った災厄。

 ベルゼブブは大きな口を開けて、宇宙に存在されるとされるブラックホールのように災厄を飲み込み続けた。

 辺りの災厄だけが吸収されていく。



 その他の物体や生き物は吸われる事はない。



 一瞬ベルゼブブのお腹が巨大化した。

 次の瞬間、ごきゅんと音を鳴らして、スマートなベルゼブブの姿に巻き戻った。



「げふうう、うまかったぜ、力が漲るぞ」



 ベルゼブブの体内から無数の蠅が増殖する。

 まるで蠅が栄養を与えられて蠅が分裂しているような形だ。



 オーディンはそれを深く知っている。



「細胞分裂」



「そうだぜ、オーディンさんよ、未知の化学の領域なんだろうけど、悪魔とか天使と神には通用する話題だよな」



「ああ、そうだな」



 無数にある異世界。

 その中で何個かの世界では、文明が発達して、細胞分裂とか、DNAとかの知識が存在する。

 


 だがこの世界の惑星ではダンジョンとかファンタジーよりであり、細胞分裂とかDNAとかの知識はない。



 なので知っているとしたら、色々な異世界と共通をもっている天使、悪魔、神であり、または異世界からやってきた来訪者である。



 ベルゼブブはみるみる内に巨大化していく。

 先ほどまでは成人男性の大きさだったのに、今では2倍の大きさになり、数秒後にはさらに巨大化して城くらいの大きさになっている。



「さてと、これだけありゃ十分だろ」



 ベルゼブブは笑い声をあげると。



「破滅の断罪!」



 大きな声をあげて、空から巨大な破滅の隕石が降ってくる。 

 その大きさはこの惑星の4分の1は吹き飛ばす事が出来る大きさだ。



 オーディンははぁとため息をついて、空を見上げた。



「自爆魔法でもやっかな」



 オーディンにとって死ぬことはありえない事。

 なぜなら不老不死の呪いがかけられている。

 だが自爆とは体が死滅するくらいの激痛はある。

 オーディンはこう見えても痛がりである。



 彼は天空の魔眼を使い、空に浮かび上がる。 

 隕石に向かってオーディンは高速で飛ぶ。

 空気を両断し、風を両断し、勢いがついたところで天空の魔眼と自爆の魔眼を切り替える。



 ルーン文字を無数に空中に展開し、次に体に締め付けさせるように張り付ける。

 


「喰らえ、不死身のグングニル」


 

 オーディンの体と破滅の隕石がぶつかった。

 瞬きする瞬間、空中でとてつもない爆発音が響く。

 きっとリュウフェイ達も見てくれているだろう。



 爆風の中で槍のごとく突き進む。

 隕石の中をオーディンが突き進み、莫大な破滅魔法を炸裂させたベルゼブブは1匹の蠅となっていた。

 オーディンの体が削れて小さくなっていく。



「すなわち、これがグングニル」



 オーディンの体の中にしまわれてあったグングニル。 

 彼の存在がそこから消滅するまでに、グングニルだけがまっすくとび、その槍はベルゼブブの最後の蠅を貫いた。


 ベルゼブブが消滅していき、魂となっていく、リュウフェイの元へ飛んで行くことはせず、向かったのはベルフェゴールがいる大きなツボのような入れ物であった。


 空中で爆砕した2人は1人が死んだ。

 グングニルは地上に突き立った。

 グングニルの周りで何かが再生を始めた。

 少しずつ細胞が形成されていき、立っていたのは1人の老人。

 隻眼のオーディンそのものだった。


 彼の右肩と左肩にカラス2羽が止まる、黒と白だった。


「フギンとムギンよ情報偵察は終わったかのう?」


 オーディンはうんうんと頷いて。


「ふむ、ベルフェゴールが何かをやろうとしておるのじゃのう、そっちにいくかいのう、ちょうど安倍晴明と死神リナも終わった事だしのう、それにしてもとてつもない激痛じゃわい、自爆はするもんじゃないのう」


 オーディンはとりあえず杖をつついてベルフェゴールの下へと向かった。




 

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