第19話 化け物
俺達がたどり着いた村、それこそが俺の故郷であった。
小さい頃から幽霊が見えた俺は、周りから化け物扱いされてきた。
その時に幼馴染のイヴを亡くした。
死神リナと勇者テニーはこちらを心配そうに見ている。
オーディンは髭をなでてふむと頷いている。
その村の入り口には一人の巨漢が立っていた。
彼はこの村を守る守護団の1人であり、俺の代わりにイヴを捕らえて、イヴを処刑させた仲間達の1人だ。
だから彼は俺の顔を見た時、真っ青になっていき、悲鳴をあげて村の中へと消えていった。
「何気にあんた有名なのね」
「それは……違う意味での有名だと思うの」
「ふぉふぉ、死神リナも勇者テニーもおもろいことをいう物じゃ」
「オーディン殿、これは面白いとか面白くないとかではないでござるぞ」
最後にしめくくったのは伝説のジャックであった。
彼は俺の中にある世界に入ったことがあるので、ここがどういう所で、どういう場所かを理解しているのだろう。
【それにしても、ごく普通の村ですな】
「ゴーストもそう思うか」
【はい、いたって平和だ。しかし、どことなく視線を気にしているオーラを感じますね、偵察に行ってもいいのですが、それはリュウフェイ殿がやる事です。あまり余計な事はしませんぞ】
「そうしてくれ」
俺達は守護団のいなくなった門から堂々と入った。
俺を待っている人達がいる。
いや、あれは人と言っていいのだろうか。
通りすがりの村人達がこちらを見て悲鳴を上げて逃げていく。
家々の窓からこちらをひっそりと見つめている視線を感じる。
すると眼の前に守護団が現れた。
その数は20名くらいはいただろうか、そこのリーダーがこちらを睨みつけて、声を放った。
「おい、お前化け物リュウフェイだな、お前が村から逃げてな、殺す事を夢見てたぜ、化け物は化け物らしく討伐されろ、野郎どもやっちまえ」
俺はくっくと笑いながら。
「皆手を出すな、これは俺の問題だ」
「わてが手を出さなくてもあんた1人で十分でしょ」と死神リナが呟くと。
「あたしが何かをしても、きっとあなたは1人で片づけるでしょうし、あたしは何もしないことが、正しい事なのね」と勇者テニーが呟き。
「ふっぉふっぉふぉお」とオーディンが笑い。
「ここはわしの魂を使わなくて倒せる事でしょうね」と伝説のジャックが笑った。
【鑑定したところ全員レベル20以下の雑魚です】
辛辣なゴーストの声が響き。
「なぁ、守護団の皆さん、俺がただの冒険者だと思うか? まぁそう言ってもかかってくるんだろうな、お前達はこの爪楊枝だけで十分だ」
「ふざけるなぁあああ」
跳躍レベルがカンストを迎え俊足レベル1になっている。その力のおかげで、まるで時間が止まったように動き出した。
一呼吸を終えると、守護団の皆は超高速で通り過ぎていった俺を振り返った。
そして一人残らず吹き飛ばされ、四方の家を突き破って守護団のメンバーは壊滅した。
【ふむ、超高速で爪楊枝による攻撃、とても芸術的でしたよ】
「ありがとなゴースト、さて皆行くぞ」
すると1人の老人がびくびくしながら、こちらに近づいてきた。
「お久しぶりです村長」
「うむ、どうか、どうかこの村を破壊せんでくれ」
「もちろんです。俺とイヴの懐かしい記憶があるのですから」
「イヴには悪いことをしたと思っている。そうでもしないと、お前が逃げた見せしめにならなかった」
「はい、それは納得していませんが、今イヴは俺の守護霊となってくれています」
「やはりその化け物の力はあるのだな」
「はい、あなた達には見えないだろうが、無数の盟友たちがそこらへんにいますよ、あなた達が化け物だと言って殺してきた盟友達です」
「う、うむ、どうやら彼等の言葉を理解できるのだな、幽元師として覚醒したのじゃな」
「まぁそんな所でしょう、あの父さんと母さんは生きていますか」
「父親のほうはお前が死ななかったせいで自殺した。母親の方はお前のように力に覚醒して呪い殺された」
「そうですか、では家に向かってみましょう、村長、1つだけ言っておきます。この村がなぜ俺のような幽元師が誕生するかは聞きません、幽霊達に聞くから問題ありませんし、あなたに聞いても本当の事が聞けるかが微妙です。では、村長、あなたを恨んでいます。ですが、あなたを殺したい程ではありません、イヴは俺の守護霊です。イヴは俺が守ります。あなた達はずっと罪悪感にまみれながら死んでいってください」
老人の村長はびくりと体を震わせ、両瞼に手を当てて、ぐしゃぐしゃと顔を掻きむしって、もがき苦しんでいる。それだけ、大きな戒めみたいな物があるのだろう。
村長が嗚咽をこぼしながら、地面にうなだれているのを、俺達は無視して、家に向かった。
家々がなくなり、木々に囲まれた建物が見えてきた。
庭をちらりと見ても、ちゃんと整えられていた。
扉をノックした。
すると1人の老婆が出てきた。
彼女はこちらを見ると、目元を潤ませて俺を抱きしめてくれた。
「このメイド長、あなたをお待ちしておりました」
「痛いよ、老婆」
「そちらの方たちは?」
「元天使のガブリエルで今は死神リナと呼ばれている。こっちが勇者のテニーだ。最後に神々の1人で隻眼のオーディンに、こいつが伝説のジャック、声だけのがゴーストだよ」
「そうでありましたか」
「この老婆に真実を言ってもいいの?」
死神リナが尋ねると。
「ああ、この人は全てが見えている。この人にも幽霊が見えるし会話する事が出来る。これはここだけの話にしてくれ、じゃないと老婆も処刑される」
「それは……もちろんです」
勇者テニーがたどたどしく言った。
それから俺達は俺の実家である屋敷に入る事となった。
老婆が皆に紅茶を出してくれるのを見ながら、俺は辺りを見回す。
俺が小さい時からいた幽霊達はこちらを見て微笑んでいる。
その数は数えきれないものだ。
村にはいたる所に幽霊がいた。
そして屋敷にはその5倍程いるのだ。
「この老婆、お勤めが終わろうとしています。今から告げる事は他言なきように」
「もちろんだ」
俺が呟く。
俺が迎えに来たのはこの老婆ではない、そして俺の守護霊になっているイヴでもない。
俺が迎えに来たのは……
「この村は神々の子供達の故郷なのです。神と人間のハーフになった人達。彼等は神でしか関わる事が許されない幽霊等と関わる事が出来ます。しかし、この村では幽元師の誕生は戦乱の始まりとされ、幽元師候補が出れば、即座に処刑してきました。それはあなたも同じ事です。いつしか歴史は変わっていき、この村人達は幽霊が見える人達を単なる化け物として処刑してきました。それを守る人達もです。真実はこうです。世界が壊れる程の戦乱が始まるときに幽元師が誕生するのです。幽元師が誕生するから戦乱が始まるのではないのです。それならこの老婆がこの力に目覚めた時に大きな戦争が始まっているはずです」
老婆はとてつもなく長い説明をしてくれた。
俺はこくりと頷いた。
「俺は、その事は知らなかった。俺が幽元師としての力が覚醒した時、幽霊達の言葉が聞こえた。とても嬉しかった。そして世界は神話英雄戦争になっているそうだ。それは幽霊達からも伝わってくる」
「はい、神々が地上に降り、英雄達が武器を取り、この世界を破壊するのです。それを止める事が出来るのは、神とのハーフだと呼ばれています。あなたにも神の力が巡っているのですよ」
「なるほどな、老婆、色々と説明をありがとう。どうやら迎えに来たバカ立ちが来たようだ」
その時だった。屋敷全体が震えだした。
老婆はにこにこしている。
彼女にとってはいつもの事なのだろう。
俺達は外に出ると、そこには100人の幽霊の行進の先頭に立つ少年がいた。
「これはーこれはーこれはー久方ぶりではないですかなーリュウフェイさんよおおお、この安倍晴明を無視していい気になってんじゃねーよ」
安倍晴明、この村を守り続けた守り神であった。
呪符を使った呪符魔法により激しい戦乱の時はこの村だけを守ってきた。
それがきっと神と人間のハーフ達を守る事なのだろう。
「おい、安倍晴明、お前を迎えに来たぞ、ついでにこの村にいるすべての幽霊たちを支配下におきたい」
「うっへえええ、リュウフェイさんよおお俺様の声が分かるのかいな」
「クソガキの声くらいわかるさ」
「うっへええええ、そりゃ嬉しいね、この雑魚幽霊100人を指揮してんのめんどいしさ、じゃ、この村にいる数千近くの幽霊を収納してくれよ、お前の世界にさ」
「ぜひともさ」
すると安倍晴明と呼ばれた少年は空に向かって呪符を投げた。
次の瞬間、まるで吸い込まれるように、村にいる幽霊達が空に飛んでいった。
そして一枚の呪符が俺の頭に高スピードで落下してくると。俺の中に数千体近くの幽理が入っていく。
俺の心の中、俺の精神世界、俺の1つの世界。
その世界に彼等が収納されていくのを感じる。
安倍晴明は俺の眼の前で胡坐になって座った。
「んで、何があったか説明しろ」
安倍晴明の少年はにかりと笑って、眼の前に杯を出現させて、少年なのにお酒を飲み始めた。
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