第18話 現状確認

 俺達は冷や汗を流してこちらをじっと見ている気持ちの悪いおじさんを見ていた。


 気持ちの悪いおじさんの隣にはマナナ受付嬢までいる。




「彼はビッグギルドマスターです」




「はい、ビッグギルドマスターはなぜ俺達に用があるんですか?」




「あ、そうだね、君達がよければ、いや、君は一体何があったんだね、マナナ受付嬢から聞いた話だと、君は1年前に死んだ事になっているんだよ」




「あ、そうでしたね、そこから説明します」




 俺はレイス、バメン、チョロ、ガナージの事、ダンジョンに生贄に捧げられた事を告げた。そして自分が999階層の真下に低レベルで落とされた事等も告げる。




 その時に自分の幽元師としての力が伝説のジャックと結び付け、なんとか仲間を増やして地上に出た事。そして神に近いゴーストの声の事も告げる。




「にわかには信じられないが、そのゴーストの声とは」




【わたくしはゴーストの声ですよ、神に近いみたいでしたね、まぁ右目と左目が特殊でしたし、人間から神化したのでしょう】




「な、なな、なんだ。この声は」




「それがゴーストの声です。今では色々な人に声をかける事が出来るみたいで」




「それは凄い事だぞ、ではその4名の冒険者を第一級犯罪者として手配しよう」




「それはやめておいた方がいいですよ」




 不思議と悩む隙も無く俺は発言していた。




「彼等は神の力を得ています。周りにひっそりと溶け込んでいようとも、その力は神です。普通の冒険者ではやられます」




「そうじゃのう、ふむ、困ったのう、ではこちらから今の世界の現状を教えよう」




「ぜひお願いします」




「今、沢山の国々で戦争が始まっている。神や英雄が動き出したんだ。なぜ、今まで黙っていた彼等が動き出したのか理解が出来なくてな、自由国はどことこも戦争をしない中立だから大丈夫だが、他の国では人が大勢死に、なにより沢山の不幸が生まれている」




「ふむ、もしかしたら、あの4人がきっかけなのかもしれませんね」




「それは考えられる事だ。さて、ここからは頼み事だと思って聞いてくれ」




「はい」




「君達に特別クエストを受給してもらいたい」




「それはどのようなクエストですか」




「ああ、君がゴッドスレイヤーだから頼む、神々を殺してくれ」




「あ、いいですよ」




「え・・・」




 俺は即答していた。


 なぜだろうか、それが悪い事だとは思えない。




「ですが、ちょと故郷に戻りたくて、あっちで待ってる人がいるんです」




「そうか、まぁゆっくりいてくれ、制限時間はないが、時間が立てばたつほど人は死ぬ」




「はい、もちろんです」




「1つ聞いていいか、それほど苦しい目にあってもなお、なぜ立ち上がる事が出来るのだ。君は仲間だと思った人に裏切られたんだぞ」


「はい、俺は最初から沢山の人に裏切れてますから、大事な人は自分で決めます。死神リナ、勇者テニー、隻眼オーディン、伝説のジャック、ゴーストの声、そしてイヴ、さらに沢山の幽霊が住んでいる俺の世界。全てが俺の希望ですから」




「そ、そうか、余計な詮索であったな、それより資金はあるのか」




「もちろん、無一文ですけど、アイテムボックスに大量に素材がありますが」




「なんか怖いから、聞かないが、とりあえず裏口に素材売り場があるからそこで換金してもらたほうがいいだろう、これからはお金も入用だぞ」




「そうしますね、そうだ。ビッグギルドマスター、娘さんはあなたを恨んでいませんよ、いつもそこに座っているみたいですから」




 俺の視線の先にはビッグギルドマスターの床で座っている少女がいた。




 その発言で、ビッグギルドマスターの涙腺が決壊して、鳴き声を上げた。




「そ、そうか、それは、失礼した」




 その後、俺達はギルドマスターの部屋から外に出た。


 ビッグギルドマスターはまだしくしくと涙を流していた。




「ビッグギルドマスターはね、娘さんを川に流されて、失くしたのよ」


「そうですね、それにしても娘さんはとても元気そうでしたよ」




「まったく、その力は大切にしないさいよ」




「もちろんです」




 そして俺達は人々の視線を掻い潜って、なんとか冒険者ギルドの裏口にたどり着いた。


 そこでは長身の男性がこちらをじっくりと満ちた。


 目がぎょろっとしている。




「彼はデバンスキーよ、とてつもない鑑定スキルの持ち主なの」




「ふん、小僧、そのようなへなちょこではCランクの材料で終わっちまうぜ」




「あ、ここに吐き出していいですか」




「おう、アイテムボックスから出してみな、こぞう」




「あ、わたくしは仕事があるので」




「助かりましたよ、マナナ受付嬢」




「では」




「はん、雑魚、素材だ……ろ……?」




 そこに吐き出された素材は大量を超えた。超大量であった。




「ちょ、まてそんな量だすかぼけえええええ」




 材料に埋もれてしまったデバンスキー。




「死んだんじゃない」




「リナ、あまり気持ちの悪い事を言わないでくれ」




「あの人の眼きもちわるい」




「それは辛辣ですぞいテニー」




 オーディンがふぉふぉふぉと笑っている。




「はぁはぁ、なんとか鑑定してみせるぜ」




 それから2時間が経過した。


 デバンスキーは半狂乱になりながら輝く目を素材に向けている。




「すみませんしたー今日から兄貴と呼ばせてください」


「いえ、けっこうです」


「なら主人と」


「いえ、けっこうです」


「ならなんて呼べばいいんだ」


「普通にリュウフェイと」


「では、リュウフェイ殿、全ての素材がSSSSSランクでありまして、換金すると100億ゴデニーを超えまして、まぁこのギルドは1兆ゴデニーくらいありますから、いいんですが、今すぐ全部換金しますか?」




「ああ、頼むよ、100億ゴデニーあれば色々と便利そうだし」




「では、リュウフェイ殿、魔法金貨でいいでしょうか、魔法金貨にすればカード一枚で支払いなどが出来ます」




「ではそれで、頼む」




「すぐ用意してきますねー」




 1秒が経過して戻ってきたデバンスキーには驚かされたが。




「では100億ゴデニーになります」




「うん、ありがとね、デバンスキーさんがんばってね」




「はいであります」




 そして次に、伝説のジャックがこちらに声をかけた。




「リュウフェイ殿、1つ頼みがあるのですが」


「うん、わかってる、家族を見たいんだろ」




「やはり、お察しがよく」


【伝説のジャックの家族ならこちらです】




 ゴーストの声は全ての村範囲の事なら把握する事が出来る。


 なので伝説のジャックの家族を見つける事などたやすい事であった。


 俺達は、はやる気持ちを抑えながらその家に向かった。


 その家はとても立派な家で屋敷のようでもあった。




 執事らしき人物が椅子に座って空を見ていた。


 もちろん伝説のジャックは実体化しているので、執事はそれを見て、絶句していた。




「だ、旦那様、帰ってきたのですね、この爺はお待ちしておりましたぞおおおおお」




「ああ、帰ってきたんだが死んでしまった」




「そ、それは、どっきりでしょうか」




「爺、お前目が悪いな」




「は、はい」




「わしは死んでしまったよ、妻と息子はいるか」




「今お呼びにいってきます」




 執事は靴を履いたまま、屋敷に上がり込んだ。屋敷の中が土で汚れる事など構わずにだった。


 それから少年とその母親らしき人物がやってくる。とても小さいが女の子までいた。




「あ、あなた、死んでいても戻ってきたのですね」


「ち、父上ではありませんか」


「ぱぱー」




「一体どういうことだ。娘がいたのか?」


「あなたが旅に出た後に生まれた子です、どうやら授かっていたみたいです。あなたの子供を」


「そ、そうか」




 伝説のジャックは涙を流し続けている。


 無限と思えるその透明な涙は、実体化する事により、妻と息子と娘を抱きしめる事が出来た。


 俺はその光景を難しい表情で見ていた。


 本当に死んでしまった伝説のジャックを彼女達へ合わせる事が正しい事なのか。




 俺はそこで苦悩していたが。


 その家族には暖かい空気が流れている。


 あれがきっと本当の家族って奴なのかもしれない。


 俺の家族のように俺を化け物のような眼で見ない。


 化け物を化け物のように見ないのが家族なのだろうか。




 俺はまだまだ人生の入り口にいるようだと気づいた。




「では家族とはお別れの挨拶が出来ました。この伝説のジャック、リュウフェイ殿の武器となりて、戦う所存でござる。あなたがいなかったら、家族と再会できず。あのダンジョンでずっと彷徨っていました。次はこのわしがあなたに恩を返す番でござる」




「恩とかいいよ、俺と君と皆は仲間だ」




「御意で」




 伝説のジャックの家族達の視線を感じて、俺達は俺の村へと向かった。


 

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