第15話 無限文字魔法発動

 オーディンの頭上には灼熱の炎に包まれている球体が浮いていた。


 その球体はオーディンの体目掛けて落下を始めた。


 俺はごくりと生唾を飲み込んで見守る事にした。




 オーディンはげらげらと笑いながら、体中から文字が出現していった。




「知っとるかのう、無限文字魔法はな、己に刻んだ文字の数だけではない、己が経験した文字の数だけ力となる。そこには魔力など必要がない、だが魔法と呼ばれているのは、わしのような使い手がいるからじゃて、のう、考えてみてくれ、魔法の達人が使う技を魔法と呼ばずしてどうするかじゃ」






 その時、超感覚のスキルによりオーディンの苦悩が景色として見えた。


 オーディンは子供の頃から文学を学び続けた。


 魔法書を紐解いて、魔法を習得していった。


 それは神になる為、否、既に神であった。




 大勢の神々と話をして知識を蓄えていった。


 沢山の犠牲の経験を経て、今のオーディンとなった。


 そして血の繋がりのあるロキに故郷を滅ぼされた。




 オーディンは燃え盛る故郷と一緒に朽ちるはずだった。


 しかし自分が仕掛けたはずの呪い魔法が自分に返ってきて、不死身となってしまった。




「死にたくても死ねない体とは、とても不便じゃのう、まぁ神と言う存在はほぼ不死身じゃが、それでも死ぬときは死ぬんじゃ、さて魔帝よ、お主の太陽魔法はとても素晴らしいものじゃ、わしとしては人間がそれを使うのはびっくりぎょーてんじゃ、しかしのう、太陽は神には勝てんぞ、神がいて太陽があるのじゃ」




「たわけえええ、ここで朽ち果てる不死身の神よ」




「ふふふ、はーっはっははははは」




 オーディンは爆笑していく、その度に沢山の苦しい日々が景色となって俺の瞳に焼き付く。


 1人ぼっちになって歩き続け、歩き続け、子供の頃から神となっていたオーディン。


 オーディンはストレスを和らげるために体に文字を刻む事をした。


 自分が学んだことを体に刻み付ける事によって、ちゃんと体に染みついたと思うようになっていた。




 オーディンは誕生しながらにして既に神であった。


 そして子供であることを許されなかった。


 だから自分の子供達には自由に生きて欲しかった。




 沢山の思い出が1つずつ消えていく中で、オーディンは腕組みをして笑っていた。


 彼の周りには数えきれない文字が浮いていた。


 太陽魔法の太陽を文字で包み込むと、そこに太陽は存在しなくなった。




 文字で埋め尽くされ、文字が世界を支配してしまっているようだった。


 オーディンはただ腕組みしているだけだ。




「このジジイがああああああ」


「うるさいのう、ハエはとっとと死にやがれってんだ」






 オーディンが怒声を上げると、魔帝の周囲に文字が動き出す。


 まるで虫の大軍のように文字が魔帝を包み込む。




「わしはお主を理解した。お主の存在は必要ないとな」




 そう呟くと。魔帝はそこから消滅していた。


 そこには魂しか存在しておらず、俺はすかさず遠距離から吸収した。




 敵である剣帝、武帝、知帝、魔帝がいなくなると、その場がしばらくの間沈黙に包まれた。




「ふう、皆上へ行こうか」




 俺は何も語らない、仲間達の過去を知ろうと仲間である事は変わらないのだから。


 俺の脳内で、当たり前のようにいつものゴーストの声が響いていた。




【モンスターの魂を喰らいました。経験値5倍の効果が発動します】


【おめでとうございます。レベルが100000になりました】


【伝説のジャック:魂レベル10000になりました】


【剣術レベル5000になりました】


【盾術レベル1000になりました】


【跳躍レベル7000になりました】


【度胸レベル5000になりました】


【防御力レベル6000になりました】


【攻撃力レベル6000になりました】


【称号:帝王の覇者を習得しました】




「未だに俺は信じられないよレベルが100000になるなんてさ」




 俺の唐突な疑問に、死神リナは振り返って微笑んだ。




「それはわて達も同じことさ、ここまで到達するのにどれだけの時間をかけ、どれだけの修羅場をくぐり抜けたかってことさ」




「そうね、それでもまだまだ上はあるのよね」




「はん、若造共が弱気になっとんじゃないわい」




 死神リナが真剣に呟くと、勇者テニーが真面目に答え、オーディンがそれを笑い飛ばす。


 俺ははっと気づいたんだ。


 これが本当のパーティーメンバーなんだなって。


 あの俺を騙した奴等とは全然違うんだって。




 俺達の前には悠然と次なる扉が行く手を阻む。


 俺達はこのダンジョンから脱出して、それぞれの夢を叶える。 


 それが絶望の先にあろうと、希望の先にあろうと。


 俺達は立ち続ける。




 そこは98階層。


 巨大な扉を開き、先に進む。




 そしてすべてが覆った。


 一体何が起きたのか理解に苦しんだ。




【おめでとうございます。ここが最上階の1階層になります】




「どういう事なんだゴーストの声」




 俺達は唖然としていた。


 そこは98階層のはずであった。


 しかしそこに広がっていたのはぐちゃぐちゃになった世界だった。


 1人の男が立っていた。


 そいつの背中が見えた。


 漆黒のマントを身に着け、ゆらりゆらりと揺れながら、こちらに振り替えった。




「余はどこにゆけばよいのじゃ、余の名前は織田信長じゃて」




 黒い甲冑、独特な髪形。


 そいつは織田信長と名乗った。


 そいつの後ろには無数の死体が転がっている。


 そして俺達は理解する。




「ふむ、余を敵視するのか? しないのか?」




 俺と織田信長の力の差は歴然。


 俺が小さな星なら、織田信長は太陽を超えている。いつしか見た小説のブラックホールだ。




「余は上にゆく、さらばだ。若造共」




 織田信長は階段を上っていった。


 巨大な扉を開くと、織田信長の姿は消えていた。


 織田信長は青年といういで立ちであったし、なによりものすごい殺意であった。




 世界がまた複雑に絡み合い崩壊を辿る。 




 気づいたらそこには1つの椅子が置いてあった。


 その椅子に全身が鎖付けにされている男性が縛り付けられていた。


 白髪の頭に、白い髭。衣服はぼろぼろになり、瞳は灰色。


 彼はこちらをじっと見ている。




「よくぞ参った。リュウフェイよ」




「そうか、そうだだったのか」




 俺は全て理解した。


 このダンジョンの本当のボス。


 それは。




「あんただったのかゴーストの声」




「さよう、わたくしがゴーストの声であり、わたくしがこのダンジョンの本当のボスだ。先ほどの織田信長はわたくしを倒した。わたくしはこのダンジョンがある限り不滅だ。織田信長は本当の意味でわたくしを倒していない。まぁクリアじゃが、わたくしはリュウフェイに期待する。わたくしを殺せ」




 俺は魂の剣を引き抜いた。


 次に魂立体化を発動させる。 


 これは取り込んだ魂の記憶を元に自分の体の細胞を変化させる。


 伝説のジャックに剣帝、武帝、知帝、魔帝を融合させる。


 その他にも名の知れた魂を再現し複合していく。


 次に沢山の魂を消費する。




 俺の中にある世界から彼等が消滅していくのを感じる。


 魂を消費すると言う事は幽霊を殺す事に等しい。




 全身が燃え上がる。細胞が燃え上がる。


 自分の髪の毛が赤くなっていくのが分かる。


 体の筋肉がものすごいスピードで成長していく事が分かる。


 15歳の少年から一時的にはせよ30歳の成熟した体へと変貌する。




「リナ、テニー、オーディンは手を出すな、死ぬぞ」




 3人の仲間達は言われる前から後ろに避難していた。




 次に鎖につながれたゴーストの声が鎖をぶちぶちと引き抜いていた。


 まるで亡霊のように立つゴーストの灰色の髪の毛が立ち上がる。


 体から湯気のようなものを上げながら、ずんずんとゆっくりとこちらに向かってくる。




「なぁ、ゴースト、お前は俺に色々教えてくれた」


「そうだな、わたくしはお前に色々教えた」


「それも殺される為か」


「さようだ。わたくしはもうこのダンジョンにいたくない」




「なら俺の世界の仲間にしてやる」


「ふん、それもいいだろう、このダンジョンじゃないなら、退屈な世界じゃないなら、わたくしは歓迎だ」




「ならあんたをぶっ倒して、越えてやる」


「ふん、お前はすでに超えてるさ」




 ゴーストの声の持ち主が、右手にまがまがしい槍を構え、左手にはキラキラ光る杖を握りしめていた。




 俺とゴーストの声の持ち主はにらみあう事すらせず。


 そこから跳躍していた。コンマ0.0000001のスピードで2人がぶつかる。


 こちらの魂の剣と相手の槍と杖が衝突する。


 衝撃波が辺りをめちゃくちゃにする。


 この世界はまるでぐちゃぐちゃの世界だ。 


 その世界が崩壊しようとしている。


 でも2人の化け物は笑っていた。




「あーっはっははは、たのしーなーゴースト」


「それはわたくしもおもいますぞおおおおお」




 2人の最強の結末はきっと明るい結末であってほしいと。


 俺は心から思ったんだ。


 そして俺は剣を振るい続ける。


 最高の冒険者になる為に。

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