第14話 制限された魔法使い

 俺は魔帝と戦うオーディン先生を見ていた。


 魔帝と互角に見える魔法の攻防戦では、明らかにオーディン先生が負けていた。


 それには理由がある。オーディン先生は力をいくらか制限されている。


 それも封印みたいなものらしい。


 なぜそのような事になってしまったのかは詳しくは知らない。




 しかしオーディンはそれを乗り越える方法を見つけている。魔法魔眼だ、これは失われた左目の所に魔眼を入れ替えて魔法として使うというものだ。




 それでもオーディンは劣勢であった。


 俺はオーディンの事をもっと知りたかった。 


 だからなのかもしれない、スキル超感覚を発動させていた。




 魔帝とオーディン先生の激しい戦いがゆっくりとぶれていく。


 空間がまるで別空間に切替わると、そこは遥かな空の真上であった。


 そこには城が広がり、文明が築かれている。




【ここは天空都市アスガルドです。オーディンの故郷でしょう】




「ゴーストの声よ、そこまでわかるのか」




【もちろんですとも】




 その時だ天空都市アスガルドの真上に信じられないくらいの大きさをしたドラゴンが現れた。




【あれはヨルムンガンドです、自分の尻尾を食べられるくらいこの惑星をぐるりと回れます】




「そんなものが」




 次に街に火が放たれた。


 灼熱の炎が天空都市アスガルドを覆った。


 沢山の神々と人々が死んでいった。


 ヨルムンガンドの頭の上には一人の青年がいた。


 彼はけらけら笑って爆笑していた。


 俺はそこへ意識を飛ばした。




「ぎゃーっはっはは、オーディンの爺、俺様の最強最大のいたずらをどう思うかなぁあ、なぁヨルムンガンド、ん? 来たって? ジジイはヴァルハラだろうがよ、あっちって色々忙しいってさ、ん、トールだって、あのガキかよおおおお」




 1人の子供が空を飛翔していた。


 両足にはハンマーを装備している。


 両手にもハンマーを装備している。




【あれは伝説のハンマーミョルニルでございます】




「でも4つあるぞ」




【あれはトールで、彼は勝手にミョルニルを分解したのでしょう】




「そんな事が出来るとは」




「ロキ、またお前か、どれだけの人々とどれだけの神々が死んだと思っている」




「んなもん、知るかよ、あのくそ爺がびっくりする姿がみてーんだよ」




「それならこの俺が相手しよう」




「ガキは引っ込んでろ」




 ロキはけらけら笑っている。 


 上半身裸で、魔法の杖を構えている。


 緑と赤のローブを身に纏い、見るからに魔法使いであった。




 トールは軽装備型の鎧を身に纏っている。


 赤と白の皮製の鎧でもあるようだ。




 その素材は恐らく、そう簡単に手に入れる事が出来ないものだろう。




 四本のミョルニルはぐるぐると回転しながら、ヨルムンガンドの腹を連撃でタコ殴りにした。 


 ヨルムンガンドは空高く飛び上がり、ぐるぐると宇宙へと消えていった。




「あちゃーヨルちゃんまた呼ぶのかよ、宇宙って広いんだぜっと」




 ロキはふわふわと空を飛んでいる。


 なぜか雲の上に乗って。




「これな孫悟空っつう猿と同盟組んだ時にもらったんだ。キントーン? なんだっけまあ雲だな」




【あれは西遊大陸と呼ばれる所で暴れている猿、つまり孫悟空の力の一つだと】




「なんかすごいな」




【すごいってもんじゃありませんよ、北欧神話と西遊記が合体してるんです】




「その伝説なら俺も知ってる、何度も小説で読んだ。オーディンがいる時点で、あの話達は本物だって気がしていたんだ」




【そのとおりですよ】




「それにしてもあのロキという青年からは殺意が感じられませんね」




「やっぱりジャックもそう思うか」




【彼は子供のような思考パターンで殺すつもりが無いんですが殺しちゃうんです。とても厄介な神でして】




「それは恐ろしいな、ある意味、人は生き物を殺す時恐れを抱く、それを感じないとなると、史上最強の青年ではないか」




 伝説のジャックが上手く語ってくれている。


 その間にロキとトールの戦闘は激しくなり、天空都市アスガルドの建物が次から次へと崩壊を辿る。


 トールはロキの圧倒的な魔法にさらされ、必死で戦い続けている。その為、自分の攻撃が自分の都市を破壊すると言う事になっている。




 ロキは全然余裕だが、トールは地面にひざまずいている。




「あれ? これで終わりなの、おもろくないなー、もっと楽しくわくわくしてよーよ」




「それはお主だけでよかろう、ロキ」




「あちゃーオーディン来ちゃったよ」




 ロキの眼の前には空間魔法を使って、瞬間移動していた隻眼のオーディンがいた。




「お前、自分が何をしているか理解しているか、ロキ」




「それはお互い様でしょ、オーディン」




「ロキよ、お主はいつも和解だと言っても、数百年後にはこうやってバカをする」




「だってつまんないんだもーん」




「はぁ、お主をなんとかしたいんだがな、なんともならん」




「でしょー」




「お主は不老不死を手に入れてるからな、殺せん」




「でしょでしょ」




「だから封印する事にした。お前の力を!」




「できっこないよーだ」




「知ってるか、呪いの魔法がある。これは効力が強くてな、確実に当たる方法がある。わしの体にはお主の遺伝子があると言う事は」




 オーディンがにやりと笑った。


 ロキはようやく事の次第を理解した模様だ。




「や、やめろくそ爺」




「わしはわしを封印するぞおおおおおお」




「や、やめてください父上えええ」



 思わず息子トールが叫んでいた。

 その時世界が爆発してしまうのではないかと言うくらいの白くて黄色い光が放たれた。


 オーディンは自分の心臓に剣を突き立てた。 


 その剣は魂のような存在のようだ。




「スピリットソード、魂の剣だ。これでわしの魔力の根源を呪う、そしてお前もだ、ロキ」




「あ、あああ、魔法が使えないいい」




「ロキよ、生き地獄を味わえ」




「ちっち、俺の呪いもあんたが受けてくれるってさ」




「な、なにぃいい」




「神はほぼ不老不死に近いとされている。しかーし、殺せば死ぬし、しばらくしたら転生もする。俺様は不老不死を手に入れたから何があっても死なない、しかーし、呪いの効果はあんたにもいく。オーディンあんたは死ぬことが出来ないぞ、うひいい、おめーも魔法使えない生き地獄を味わうんだな」




「ろおおおおおきいい」




 宇宙から戻ってきたヨルムンガンドが人間の形をした。


 その人間は男なのか女のか分からなかった。




「父上行きましょう、その呪い魔法を解く方法を見つけようでございませんか」


「そだねーヨルちゃんはいい子供だね」


「父上の子供でございますから」




「じゃ、くそ爺、次やる時は最終決戦だといいな」




「それはお互い様だ、ロキ」




 それから場面が切り替わる。


 天空都市アスガルド、それが突如として崩壊を辿る。


 城は爆発し、民家も崩壊を免れなかった。


 生き残った人々は天空船に乗って各地に散っていった。




「父上、我らも」




「いや、わしはここで朽ちていこう」




「あなたは死ぬ事が出来ませんが、朽ちる事は出来ません」




「いやいいんだ。ここには沢山の思い出があってな、おめーが赤ん坊の頃だって」




 隻眼のオーディンの眼はうつろであった。


 そしてトールは歯を食いしばって空へと飛び立った。


 オーディンは崩壊していく天空都市アスガルドと一緒に朽ちていく。


 城が崩壊し、オーディンは1人だけで地上へと落下を辿る。


 その時1つの光を見つけたオーディン。


 そこに吸い込まれると、出た場所はあそこ堕天使ルシフィルで地獄王サタンの眼の前であった。




 後は色々とあったようだ。




 世界は切替わり、オーディンが魔帝と向かい合っている。




「わしゃの魔法を制限された魔法で弾き飛ばすとは何者じゃおぬし」


「じゃから隻眼のオーディンじゃて」




「はむはむ、そんな神は知らんぞ」


「わしもお前みたいな魔帝は知らん」




「じゃが楽しいな」


「それは同意見じゃ」




「じゃあ、これでしまいじゃ」




 魔帝は真上に太陽を召喚してみせた。


 それも小さな太陽。


 辺りの温度が急上昇して、干上がるようであった。


 魔帝はにこにことしているし、オーディンは爆笑していた。




「太陽魔法だと、使えるやつがいたのか、これは光栄だ。さて魔力の使わない魔法を教えてしんぜよう、ルーン魔法、無限文字!」




 俺はその魔法を見ていた。その見た事もない魔法に、心がときめいた。


 そして一番驚愕したのは制限されている魔法じゃないから使える魔法。


 魔力がいらない魔法、それは魔法と呼べるのだろうか?


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