第12話 半天使の天使

 俺は眼の前で繰り広げられている戦闘を見ていた。


 スキル【超感覚】を発動させていた。


 それは周りの感覚に敏感になり、親しい人の思いや気持ちを理解する事が出来る事だ。


 最下層のドロップアイテムとして登場した死神リナには謎が多すぎた。


 ここまでやってくるのに死神リナは尋常じゃないオーディン先生の修行を受けた。


 ルシフィルは彼女の事をガブリエルと呼んでいた。


 そして天使でもあるとも言っていたし、彼女は天使長ミカエルを見返してやりたいとも言っていた。


 後は死神になるのが夢だとも言っていた。


 それ以外は本当に何も知らなかった。




 なぜ彼女がそこまで必死になるのか、なぜ本気になるのか。


 だから俺は死神リナの事を理解する為にスキル【超感覚】を発動させていた。




 眼の前では武帝のドラゴンのような爪での攻撃に、全身を鎌だらけにして防ぎきる死神リナがいた。


 彼女は真上に吹き飛ばされながらも、回転しながら武帝の追撃を許さなかった。




 床石に着地するとそこに大きな振動が生まれた。


 武帝による爪拳も床石に激突して床石が破壊された。


 その衝撃で死神リナは吹き飛ばされる。


 何度も吹き飛ばされ、何度も全身を鎌だらけにして武帝の攻撃を防ぎきる。


 武帝はにこにこ笑っている。




 武帝は女性なのだが、ロングヘアーをたなびかせて、今はポニーテールにしている。


 両目には大きなクマがあり、眠たそうにゆらゆらとファイティングポーズを決めている。




「ったく、あんたしつけーわね、この拳を喰らって生きてるとは」




「あら、わてはあなたの攻撃を一度も喰らっておりませんわよ」




「だな、だが衝撃波でも結構なダメージになるんだけど、あんた何者だ?」




「さぁ、どこかの死神なんじゃなくてえええ」




 死神リナは地面を蹴り上げて跳躍して見せた。


 武帝は地面を破壊して空中に舞い上がり、2人の攻撃と防御は見えない速度で展開されていた。




 俺は理解していた。


 少しずつ、死神リナが消耗している事に、恐らく一撃でも武帝の攻撃を喰らったら死ぬのは必然であった。




 その時だ死神リナの両足がねじれた。


 恐らく武帝のドラゴンの爪により空間が捻じれて、死神リナの足が当たったのだろう。


 彼女は回転しながら床に叩きつけられ、転がっていた。


 彼女は俺の眼の前でゆっくりと立ち上がる。




「手だすんじゃないわよリュウちゃん、これはわての戦いなんだ」




 その時超感覚が何かを感じた。


 女の子が泣いていた。


 それは魂の記憶のようなもので、おぼろげな記憶だった。


 その空間で女の子が泣いており、背中からは白い翼が生えていた。


 女の子の周りには天使達がいっぱいいた。


 彼らには2枚の翼があるのに、その女の子の翼は1枚だけしかなかった。


 片方の翼がなかったのだ。




【おめーは呪われた天使だ】


【何が天使長になるだ。お前には無理に決まってんだ呪われた天使】


【お前は天使でもなんでもないただの化け物だ】


【どこかにいなくなってしまえ、諦めて死ね】




 大勢の天使達が彼女を見て笑っていた。


 1人の少年が手を差し出した。




【ガブリエル、お前、隠れてろっていったよな】


【う、うん、ミカエル、悪いわ】


【ガブリエルはさ、天使長になれない、僕が天使長になるんだ、そういう事だからサポートしてくれ】


【うん、ミカエル】




 その光景を見せられ、次の光景を見せられた時、ガブリエルはただひたすら涙を流していた。




【力が欲しい、もっと強く、もっと最強に】




 すると何かがガブリエルの下へと近寄ってきた。


 俺はそれを見た時全身から寒気を覚えた。


 黒いフードを付けており、背中には翼が無かった。


 その代わり大きな鎌状の2本の翼があった。




【お嬢ちゃん、力をあげよう、これは死神の力といってな、ただしお嬢ちゃんが地上の世界に行かねばなるまい、次元を超えて】


【あなたは、誰だ?】




 お嬢ちゃんと呼ばれたガブリエルは、今の死神リナそのものであった。


 彼女の背中には翼が1枚しかない。




 でも今の死神リナに翼はない。 


 それがどういう意味を表すのか俺には理解出来る。




【お嬢ちゃんの翼が欲しいんだ。その代わり死神の力を与えよう】


【死神?】




【そうだ。相手を殺す力だ。お嬢ちゃんが天使長ミカエルに裏切られた事は知っている。そして他の人達がお嬢ちゃんの事を化け物だと言っている事も知っている。地上で最強になり見返してみないかい? その代わり僕はお嬢ちゃんの翼を得る訳だ】


【本当にその力は絶大なのだろうな?】




【もちろんだともお嬢ちゃん】


【いいだろう、この翼くれてやる】




【交渉せーりーつ】






 すると空間がねじ曲がった。


 ピエロの仮面を付けた死神は小さな声で笑っていた。


 次の瞬間翼を失ったガブリエルがいた。




【君は今日から死神リナだ】


【うん、そうだね】




 そうして彼女は時空に飛ばされた。


 地上に行くために。


 そして俺がドロップアイテムとして拾うために。




 そして現在に戻る。 


 時間はゆっくりと動き出す。




「足が、動かないけど、わてには足が必用なんだ」


「足がないと戦えない、あなたは終わりよ」




「なぁ、死神リナ、いやガブリエル、あなたには足ではなく翼がある」


「わてには翼はない、そして足も動かない、終わりだけどを諦めない」




「本当に君には翼がないんだろうか?」




 俺が感じた真実。


 それはガブリエルの魂を感じて、超感覚のスキルを感じて。


 出した結論。




「ガブリエル、君にはもう翼があるんだよ」




 俺はそう囁いていた。


 死神リナはガブリエルとして立ち上がった。


 その右手には黒い鎌ではなく光の鎌が展開する。


 背中には死神に譲ったほうの翼ではなく、存在していなかった白い翼が光っている。




 死神リナの過去を見ても他の天使達はガブリエルの翼ほど光っていなかった。


 それは天使長ミカエルも同じ事であった。




「うそ、これがわての翼、そうこれがわての光の翼よ」




 死神リナの翼が一回羽ばたくと、軽く死神リナの体を持ち上げた。


 何度も羽ばたくと、死神リナは空中に浮いている。


 右手と左手から光の鎌を出現させる。


 それも数えきれない程だ。




「ふ、ふふ、それがあなたの力なのね、やっぱり生きている事は素晴らしいわね」




「無駄口はいいわ、さぁ光の死者達あいつを殺しなさい」




 光の鎌から光の翼が生える。


 それは超速を超えて、光速になり、無数の光の螺旋となり。




 武帝はそれを弾き返しながら笑っている。




「あーはっはっは、面白いわね、面白くて面白くていつ死んでもいいわ、さぁ、あなた、死んでみる? 死にさらせないこんな小さな眷属の鎌なんてね」




「あら、わての本気はそんなもんじゃなくてよ」




 死神リナが解き放った小さな鎌たちは囮。


 本命は巨大な光の鎌にあった。


 その鎌の大きさは40メートルくらいを超えていた。


 まるで大陸そのものを破壊するかのように、だが死神リナは笑って叫んだ。




【エンジェルインパクト】




「う、うそおよおおおおおおお」




 武帝の叫び声。


 武帝の力は圧倒的であった。


 圧倒的なスピードであったと俺は超感覚を通して感じていた。


 死神としてのスピードなら死神リナも負けていなかった。


 なにより死神リナは頑丈であった。




 巨大な白い鎌が、防御する武帝に叩きつけられた。


 爆風が巻き起こり。頑丈な床石など粉砕してしまった。


 瓦礫が吹き飛び、まるで爆発物を爆発させたような音が響き渡った。


 そこには死体となった武帝がいた。


 武帝の体から魂が出てくると、俺はさっそくそれを吸収していた。




 俺は笑いながら、死神リナの所に手を貸そうとした。


 死神リナは力が抜けたように地面を座ると。


 彼女の事は少し放っておこうと思った。


 なので向かった先は勇者テニーと知帝の戦いの場であった。




 とはいえ広大に広がる床だけの地帯。


 真ん中にはテーブルがあり麻雀とやらが置いてある感じだ。




 なので知帝と戦うテニーも見える、魔帝と戦うオーディン先生も見える。




 俺はさらにスキル:超感覚を発動させていた。


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