第11話 剣帝、武帝、魔帝、知帝の優雅な遊び

 俺達は100階層にいた数億の巨人達を倒しつくした。


 彼等の魂を俺は全て吸収した。


 もちろんレベルだって上がった。


 スキルだって習得した。


 他にも習得する事が出来た。




 そこは99階層。


 とても広すぎる空間であった。


 何もない無の空間。


 ただ見たこともない石材で作られた床が無限に広がっていた。


 1つの大き目のテーブルが真ん中に設置されていた。


 その四方を取り囲むように、男が2人、女が2人いた。


 彼等はボードゲームを楽し気にやっていた。




 俺達は彼等がモンスターのような敵だと疑っていたから。


 慎重に歩を進める事にしていた。




「オーディン先生、あいつらは?」


「うむ、未知の魔力じゃ、1人だけありえん魔力をもっている、神を超えるぞあれは」


「寒気が正しいわね、とんでもない気力を感じるわ」


「あの女の人普通じゃない」




 オーディンが震え、死神リナが震え、勇者はきょとんとしている。




 1人の男がこちらを振り返った。


 腰には10本くらいの剣が鞘に収まっていた。




「おお、ここに人間がくるとはな、ふむふむ、ところで、お前何者だ?」


「うるさいわねぇ、剣帝、異界の世界で流行ってる麻雀で決めるんじゃないのぉ?」


「ふふ、武帝のいう通りだ。この知帝とは暇ではないのよ」


「剣帝、知帝、武帝、魔力のねぇ、若造がいきがってんじゃねー、麻雀で決めるんだろ、外の世界に出て世界を亡ぼすかを」




 俺はその発言で凍り付いた。


 彼等は人間なかんじゃない、化け物だ。


 その強さに俺は震えていた。




「さてと、聞いてるんだがな、小僧、お前は何者だ? そこにいる幽霊もか」




「お、俺は、俺は、幽元師、幽霊を救済し、最強の冒険者になる男だ」




「はん、ならここで死ね、俺達は麻雀で忙しいんだよ」




 2人の男と2人の女は優雅に立ち上がった。




「これは、まずいですぞリュウフェイ殿、本気をださないと死にます」


「あ、魔眼を見て、俺は震えてるぞ」




 俺の魔眼には4人のレベルが表示されている。




【剣帝:レベル∞】


【魔帝:レベル∞】


【武帝:レベル∞】


【知帝 レベル∞】




「どうやらここからレベルは測定不能という事らしいな、伝説のジャック、俺達は地上に出るぞ、こいつらを倒して」


「御意でござる」




「魔帝とやらはこのオーディンに任せよ」


「まったく、何あんた1人で戦う気になってんのよ、死神リナさんが武帝を相手にしてやるわよ」


「あたしも強くなったと思う、もっともっと戦って強くなりたい、あたしバカだけど知帝とやりたい」




「お前達、うん、そうだな」




「どうやら決まったようだな」




 剣帝が口を釣り上げて呟いた。




「4対4のデスマッチ、同時にやるぜ」


「おう」




 俺が叫ぶと、殺し合いが始まった。


 4人が同時に床石を蹴り上げると、空間のひずみが生まれ、衝撃波がはじけ飛んだ。




 俺がターゲットとしたのは剣帝だ。


 彼は無骨そうな顔をしていた。髪の毛はロン毛でありながら、物腰は柔らかい。


 年齢的には人間の30代前半という所だろう。


 衣服は風にたなびくような布で出来た着物のようなそれであった。


 なぜ着物の事を知っているかというと図鑑で見た事がある。


 ある特定の国では着物を着る事が普通とされている所があるのだ。




 彼は跳躍しながら、1本の剣を腰から引き抜いた。




「第一段階解放、拙者参るでござる」




 剣帝が突然話方を変えると。剣を振り落としたかに見えた。


 剣が振り落とされる前に、既に斬撃が来ていた。


 俺の体は普通なら真っ二つになる。


 しかし魂の鎧を発動していたので、俺の体はその衝撃に耐える事が出来た。


 残念な事に魂の鎧は砕けてしまいしばらく発動出来なくなる。




「うみ、拙者の第一段階を防ぐとは、お主、人間を超えておるのう、では第二段階じゃて、わしゃー第二段階、わしゃの剣を受けて見よ」




 いきなり老人のようにしゃがれた声になると、剣帝は2本の剣を掴んでいる。


 二刀流という事なのだろう。


 移動スピードが遅くなった。


 それを観察しながら、魂立体化を発動させる。これは取り込んだ魂の記憶を元に自分の体の細胞を変化させるという力だ。




 体の中でめぐっている無数の魂の中から、信頼のおける魂を選ぶ。


 それが伝説のジャックだ。


 俺の体が伝説のジャックそのものに細胞を変形させる。


 そこに立っていたのは俺であって俺ではない、体の形や能力は剣豪であり伝説のジャックなのだから。




「ふ、ジャック、やるぜ」


「御意でござるぞ」




 俺達は剣帝の眼の前に跳躍していた。




「笑止! 第二段階をなめちゃーあかんでー」




 剣帝の二刀流はとてもゆっくりであった。俺は余裕をもって巨大化した魂の剣を構えている。


 現在、魂の剣の長さは8メートルと言う所であった。


 魂の剣と二刀流の剣がぶつかり合った時。


 その振動に心臓が震えた。


 まるで電撃が走ったように俺の体は後ろへと吹き飛ばされた。


 何もない無の広間でどこまでもどこまでも飛ばされ続ける。


 それを追尾するのが剣帝であった。




「お主つよいな、もう出し惜しみはしねー十段階発動だぜ」




 剣帝が突如として若い男性の声に切替わると。


 剣帝の周りには9本の剣がふわふわと浮いていた。


 1本の剣だけを構えている剣帝は若若しくて、とても元気そうだ。


 なにより圧倒的な強さ、圧倒的な威圧を感じる。


 ちょっとでも気を抜けば、俺は死ぬだろう。


 自分自身の心が折れないように、ゆっくりと立ち上がったとき。


 それは起きた。




「既に斬り終えた。死んで散れ、小僧」




 俺の全身は斬り刻まれた。


 人が認知できる遥か向こう、次元を超えた斬撃に、普通ならバラバラになって死ぬはずであった。


 しかし俺がここまで来るのに色々と覚えたスキルとレベルが俺を死にさらさなかった。


 俺は全身を斬り刻まれ、血溜まりの上に立ちながら、ただ、悠然と立っていた。




「また助けられちまったなイヴ」




 俺の真上にはイヴという10歳の少女が微笑んでいる。




「ああ、俺はイヴと一緒に冒険してーんだよ、こんなところで終われるかよ」




「小僧、お前、人間なのか?」




「剣帝さんよ俺は人間だ。ただ普通を超えた人間だ」




「ふふふ、はーっはっはっは、最高だ。生きていて最高だぜ、別に外の世界に出て世界を滅ぼさなくてもおめーみてーなのを待ってた。やりあおうぜ」


「あんた1人でやってろ」




 次の瞬間剣帝の左肩が落ちた。




「な、え、どういうことだ。次元を超えただとお前は」




 次は右肩から先が落ちた。




「あ、えええ、や、やめてくれええ、そ、そんなの、おまえは、神を超えてる、創造主を、あえええ」




 次の瞬間、剣帝はバラバラになりながら肉の塊となった。




「いいのですか、その力を使って、リュウフェイ殿」


「ああ、いいんだ。俺はもっと強くなりたい、魂を消費したのだからな」




 そう魂とは体内に蓄え、世界を構築し、俺の世界は魂達の楽園になっている。


 しかしその魂達をこの世界から消滅、つまり消費すると尋常ではない力を発揮する。


 それを発動すると魂はこの世界から消滅、つまり本当の死を迎える。




 俺は彼等を幸せにしたい、でも強くなり最高な冒険者になるには、犠牲も必要。


 だから俺の世界で犠牲になってもいいやつを集めて、何度も相談しあって。


 彼等を犠牲にした。




 気づくと俺の瞳から涙が流れていた。




「もっと強くなって犠牲にしてはいけない、そう思う、さて、死神リナを見学しにいこう、彼女も強くなったからな」


「御意でござる」




 俺は天井を見上げた。


 魔法のような光でこの世界は昼になっている。


 それでも血のように濁った床を見ていた。


 もちろん剣帝の魂を喰らい。剣帝は俺の世界の住民となった。




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