第8話 差別
そこは昔の記憶だった。
あの頃の俺は弱虫でいつも泣いてばかりだった。
そこに何も語りかけない幽霊が俺の周りには集まっていた。
彼等はただひたすらこちらを見続けるだけだった。
何かを話たいという気持ちだけが伝わった。
村人達は俺の事を異常だと言った。
何もない空間に話しかける俺は村人達にとって異常そのものだった。
いつしか父親も母親も俺の事を化け物のような眼でみるようになった。
神父さんがいつも俺の事を悪魔に魅入られた化け物だと言った。
親友なんて1人も出来なかった。
友達なんてまさか仲間なんて出来なかった。
それでも幽霊達は俺の事をただひたすら見るだけであった。
君達は何が話したいの? と問いかけても彼らは無言だった。
中には口を動かす幽霊もいた。
でもその言葉は俺には伝わる事が無かった。
今の俺なら理解出来る。職業幽元師としての力が未発達だったのだろう。
だが今、幽元師としての力を開放している。
ああ、そうだ。今俺は地上に出ようとしていたんだ。
何を過去の事にこだわっているのか、笑っちまう。
仲間だってできたじゃねーか、幽霊だけど伝説のジャックに死神だけどリナと言う少女に、勇者だけど記憶があいまいなテニー。声だけしか聞いたことのない謎のゴースト。
俺には今大切なものが転がっているじゃないか。
上を見渡す。そこは光に溢れている世界がある。
俺は地獄の底へと落下し続けている。
それは俺の魂なのだから。
どこまでもどこまでも地獄に落ちていく。
「お主は何を求めるのじゃ」
はっと気づくと、そこは大勢の戦士達が殺し合い続けていた。
首が落下しても首が生えてくる。
腕が両断されても腕が生えてくる。
戦士達は相手を殺し、相手に殺され、永遠と殺戮が続いている。
その数は数えきれず数億と言う数だった。
「ここは戦士達の楽園、ヴァルハラだ。地獄の1つだがな、お主はこういう世界は好かないか?」
気づくと俺は空中に浮いていた。
目の前を1人の老人が浮いていた。
黒いマントを羽織り、髭もじゃの顔に白髪の長髪。
左目には眼帯を付けていた。
右肩には黒いカラスが左肩には白いカラスが止まっていた。
2羽のカラスはげらげらとこちらを見て鳴き声をあげていた。
「あなたは?」
「わしか? 通りすがりのジジイじゃ」
「通りすがりにしてはただならぬ気配を感じますが」
「まぁそんなもんだ。勇者テニーがわしの所に死にかけているお主を連れてきた。じゃが肉体は回復したのじゃが、魂が地獄に行ってしまっていた。お主は別に悪いことをしていないし、地獄に行く理由もない、お主は罪悪感の塊だから地獄に行くようだ」
「そうですか」
「お主の過去を見てみた。そんなにあの女の子大切か」
「ああ、彼女だけが俺を理解してくれた」
「その女の子は殺されてしまったようじゃな」
「ああ、でもあの子の魂は見つけられなかった」
「そうじゃな、見つけられなくて当然じゃ、幽元師はあほだと言う事だ」
「それは、どういう」
「お主の守護霊になっとるぞ」
「なんだって?」
「お主は自分の心を閉ざした。そして自分の守護霊となったあの子を見る事をしなかった」
「嘘だ、あの子は成仏したとばかり」
「そうだ。お前を守って成仏した。そしてお前の守護霊となった、もっと心を開放せよ幽元師よ」
「一体……」
俺の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
あの女の子とは俺が村人達から差別されている中、かばってくれた少女だ。
当時は俺も彼女も10歳だった。
いつしか魔女狩りだと言って、女でもない俺を魔女扱いして処刑しようとした。
しかしあの少女は身を挺して俺を守ってくれた。
俺は村から飛び出て今の所にやってきた。
そういえばあの子の名前を思い出す事が出来ない。
俺は守る事が出来なかった。守られて死なれた。
命なんて簡単に朽ち果てる。それでも彼女は俺を守る為に守護霊となってくれた。
今前を見ないでどうする。
俺は生きたい。俺は彼女と誓った最高な冒険者になるんだから。
こんな地獄でたむろしている場合ではない。
「なぁ伝説のジャック」
俺の意識は周りを見据えていた。
そこはすでに地獄ではなくなっていた。
伝説のジャックが鼻水を垂らしてこちらを見ていた。
「おおおおお、リュウフェイどの、よくぞお目覚めくださった。このわし、悲しく死にそうでした」
「大げさだなぁ」
辺りを見回すと、どこかの洞窟の中にいるようだ。
天井から水滴がぽつりぽつりと垂れている。
死神リナと勇者テニーはこちらを見て見た事もない素晴らしい笑顔を見てくれた。
だがそれだけではない、俺の周りには無数の幽霊たちがいる。
彼らはマグマによって燃え続けていた魂であった。
「して、幽元師よ、彼らをお前の世界に入れてやれ」
「世界?」
「幽元師の体内はある種の天国、幽霊にとっては最高の場所だ。いつまでもこの地獄の階層にいたくはなかろう」
「なるほど」
俺は口を大きく開いた。
そして魂を喰らった。
まるで小説で呼んだブラックホールのように、幽霊達の魂は次から次へと吸い込まれていく。
それは俺の力となるのであった。
「さて、爺さん、あんた何者だ」
「さてな、人はわしの事を神と呼ぶ、神はわしの事を魔眼のオーディンと呼ぶ、わしは旅が好きだ。このダンジョンに入って旅をしていたら、ちと力を使いすぎてな、あまり戦えん、援護くらいなら出来るだろう、お主の仲間にしてくれんかのう、そろそろ地上に出たいんでな」
「俺は構わないよ、オーディンというのも小説で読んだことがある、その隻眼は生贄に使ったのですね」
「まぁ絶愛なる魔法を得る為じゃがな」
「リナとテニーは問題ないか?」
「わては問題ないわよ」
「うん、あたしは問題ないよ」
「ひどいでござろう、わしには聞かないのですか」
「きっとジャックなら許可してくれると思ったよ」
「それは嬉しいです」
俺の体は思った以上に回復していた。
ケガすら治癒されている。
オーディンの回復魔法の恐ろしさを体が体験したのだろう。
それはきっと神秘的な物だったに違いない。
「さて、リベンジといこうか、あのルシフィルにさ」
「その前に、お主は過去と向き合わねばならぬ、その魔眼で自分の右手を見て見ろ」
「ああ、そうする」
俺はスキルの魔眼を発動させる。
これは相手のレベルを鑑定するスキルだとばかり思っていた。
そもそも魔眼というスキルなのだ。そこには色々な意味が含まれているに違いない。
右手を見た瞬間、そこは壮大なお花畑であった。
辺りを見回すと、誰も存在せず。
お花畑が一瞬の風によって舞い上がった。
そこには彼女がいた。
「イヴ、久しぶりだな」
「そうね、リュウフェイ、わたしはいつだってあなたを見ていた」
「それに気づかずごめん」
「そんな事はいいの、あなたのお人よしにはほとほと嫌気がさす。そのせいであんな奴らに騙されて、死にかけてる。でも今はそれに感謝ね、そのおかげで、あなたは強くなれる」
「それは面目ないよ」
「わたしの力を使って、膨大なエネルギーを貯めたのよ、あなたが喰らった魂を上手くコントロールできるのはわたしのおかげなの、わたしがあなたの守護霊だから、あなたは膨大な魂をコントロールできるのよ、神を超える事だって簡単なんだから、それが幽元師なのよ」
「その幽元師って職業がいまいちわからない、ただ幽霊と干渉出来るだけなのかと」
「ふふ、それは自分で見つける事よ、幽元師とは可能性の塊で発現者はあなた1人だけ。あなただけのオリジナル職業なの、でも遥か昔には幽元師はいたのよね、あなたの遺伝子が語ってくれる」
「なぁイヴ、君は俺の中から出る事は出来ないのか」
「いつか、出て助けてあげる。でも今はあなたに力を供給する源になる事を許して」
「うん、ちょっと寂しいけど」
「何を言うのあなたには沢山の仲間がいるじゃない、さぁ、戻ってルシフィルを倒しなさい」
イヴは後ろを向いていなくなる。
心がとても冷たくなって寂しくなって、俺の手は彼女の手を握る事は出来ない。
彼女はもう生きている人間ではない。
それでも俺はイヴの手を取った。
「嘘、触れる訳がないのに」
「ああ、触れる。きっと俺の思いが届いた。見ててくれイヴ、俺は最強になるぞ」
「ふふ、あなたは最初から最強へ」
次の瞬間、俺は天井に向かって右手を差し出し、何もない空間を握ろうと必死だった。
そこはかつてイヴの手があった所だった。
俺の右目と左目から涙が流れ、立ち上がった。
「天使狩りだ」
俺はにやりと笑って見せた。
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