第2話 伝説のジャック

「わしか? 伝説のジャック様だ。知らぬのか」


「え、えと遥か昔にそのような人がいた気がします。あるダンジョンに入ったきり戻ってこなかったそうです」


「そいつだなわしは、さて、お前変な力があるなぁ、わしの事も見えるし」


「俺は昔から幽霊は見えていましたよ」


「ほうほう、わしは幽霊か、そうだな、最後のボスを倒せる所まで来て腹が減りすぎて力尽きたのだからな」


「それって恥ずかしくないですか、ちゃんと準備すればいいのに」


「まぁそれはこちらの責任じゃがな、さて、久しぶりに人と話をしたら気分がよくなった、若造、あの扉を開けてはくれんかのう、どうやら幽霊の姿では行けないようでな」


「いいけど、あっちには何が?」


「ここのダンジョンボスがいるんじゃよ、わしはそいつを倒すのが夢じゃったんじゃ」


「あなたは死んでもなおその夢を叶えようとしているのですね」




「その通りじゃ、それが生き別れた息子との約束じゃった。わしは伝説になると誓ったのじゃ」


「伝説になってますよ」


「ちがーう、わしはこのボスを倒して伝説となる、さぁ若造、扉をあけい」


「はい」




 俺は慌ててその巨大な扉を見上げた。


 相当重たそうな扉は、俺の筋力では開ける事など不可能に思えた。


 しかしその重たそうな扉は軽々と開いた。


 中に広がる景色は真っ暗闇の中であった。


 相当広い場所だと言う事は分かる。




「うむ、ご苦労若造よ」




 俺と幽霊のジャックは中に入るときょろきょろと見回した。


 すると壁に設置されていた松明が魔法の光のように光出した。


 それも順番に光出すので、薄気味悪いの一言であった。


 玉座があった。とてつもなく大きな代物だった。


 そこには一人の巨人がいた。


 俺の体の10倍はある巨人はにやりとこちらを見た。悪魔のような兜をかぶり、にやにやしている。


 なぜか相手のレベルが分かった。それは1000レベルとかの単位ではない10000レベル程あったのだ。




「ふ、地獄王ハデス。このダンジョンのボスだ。我が聖剣にて成敗してくれるわあああ」




 伝説のジャックが走り出した。


 地面を思いっきり蹴り上げると、跳躍して見せた。


 そのまま背中から引き抜かれた聖剣を振り落とした。


 だが地獄王ハデスの体には一切触れる事すらできなかった。


 それどころか地獄王ハデスの攻撃は伝説のジャックを通り越して俺の方角へと向かってくる。


 俺は思わずとんでもないスピードで避けていた。


 これがスキル【疾駆】の力なのだろう、相手のレベルを見る事が出来るのも【魔眼】の力だろう。




 俺が転がった先には地面を何度もたたいて涙を流している伝説のジャックがいた。


 彼はとてつもなく悔しいのか鼻水と涙を膨大に流していた。




「なぜだ。この時までどのくらい待ったとうのだ。死んでいては相手を倒せないだと、そして相手の攻撃を喰らう事も出来ないだと、なんと情けない、なんと情けないのだあ。出発する前に食糧検査しとくんだったわいいい」




 俺は何も出来なかった。目の前で苦しんでいる人を、いや幽霊を助ける事が出来ない。


 俺は人を助けたかった。ダンジョンを一杯攻略して大勢の人が裕福になればいいなんて、夢物語を描いたりした。


 助けられる人と助けられない人がいる。


 俺はきっと人を助けられない人なのだろう。




 心の中に悔しさが積もり重なっていくと。


 ふと声が聞こえた。




【どうでしょう、幽元師の力を使ってみませんか】


「それはどうすればいい」




 その時だけ時間が不思議とスローになった気がした。


 地獄王ハデスはこちらを見ているが、動きがとてつもなくスローだし、伝説のジャックの鼻水はスローに揺れている。




【ただ喰らえばよろしいのですよ魂を】


「俺が伝説のジャックを喰らうのか?」




【その通りです。魂を喰らえば喰らった程強くなりますよ】


「でも幽霊として初めて話をした人なんだ」




【そうですね、喰らってもあなたを主人とするだけで肉体から出る事は可能ですよ、いわばあなたの体は大勢の魂を貯蓄できる格納庫、まぁあなたの体だけで百鬼夜行です】




「それはすごいな」




【では健闘を祈ります】




 ゴーストの声がなくなると、俺は疾駆で移動した。


 そこには打ちひしがれた伝説のジャックがいた。


 彼はこちらを懇願するような眼で見ていた。




「伝説のジャック、力を合わせよう」


「ふ、小僧よ何が出来る」


「何が出来るじゃない、何かをするんだ」


「なら、わしの思いを受け取れ」




 その時俺の頭の中色々なイメージが沸き上がった。


 煙を吸い込むように伝説のジャックの魂を飲み込んだ。


 イメージはどんどんと立体化を伴った。


 1人の子供がいる。




【父上、父上はきっと神をも殺せる伝説になるのですね】


【そうだ。息子よ、わしが返ってくるまで母じゃを頼むぞ】


【お母さんの事なら任せてよ】


【ならまた会おう】




 そしてイメージが現実に戻る。


 俺は俺でなくなりつつある。俺の脳内の思考パターンが高速で展開していく。


 右手に現れた魂の剣を構える。


 とてつもなく長い刀であった。


 巨大な木1本はあるだろう。


 次に出現したのは左手に収められた盾、これも魂の盾だろう。


 盾は巨大であり、まるで騎士のようだった。




 地獄王ハデスはようやく虫けらに気付いたかのようにこちらに突進してくる。


 レベル差は歴然、叶うはずはない、そんなこと俺は知っている。


 いつも思う、決められた運命、流される運命。


 そういったものは嫌だ。




「俺は俺の未来を切り開く」




 地面を蹴り上げた。


 蹴って蹴って蹴りまくった。


 疾駆が連続で発動する。


 もはや俺の移動スピードは人でも神でも追い付く事が出来ない。


 風のようになっていた。




「喰らえ、これが幽元師の力だあああ」




【一撃必殺】




 気づいた時には地獄王ハデスの背後に立っていた。


 ゆっくりと地獄王ハデスの体が真ん中から両断されていく。


 ずるっと地面に落下していく。


 気づいた時には地獄王ハデスのいた所にはドロップアイテムがあった。




【経験値5倍が発動しました】


【レベルが100になりました】


【ステータスが上がりました】


【スキルを覚えました】


【魔眼スキルがあるので説明も加えます】


【地獄門:あの世とこの世を繋ぐ門を召喚してそこからさらに召喚する。血の契約が必要】


【剣術レベル100:剣術を上手く使える】


【盾術レベル100:盾術を上手く使える】


【伝説のジャックを仲間にしました】




【幽元師の影響で以下のスキルも習得しました】


【魂喰らい:魂を喰らって色々な力を得る】


【魂盾:自らの魂で盾を形成】


【魂剣:自らの魂で剣を形成】


【魂弓:自らの魂で弓を形成】


【魂分裂:魂を分裂させて実体のある分身をつくる】


【魂の眼:魂を使っていたるところに目を配る】




 その時だ。お腹の中がむずむずしてきたと思ったら、口から魂が飛び出てきた。


 そいつはこちらを見てお辞儀をした。




「小僧、夢であった地獄王ハデスを討伐できたことお礼を申し上げる」


「いいよ、あそこで俺も力出さないと死んでいた」


「折り入って相談があります。この伝説のジャック、あなたの配下または仲間にしてほしいのです」


「なら仲間になってよ、俺さ仲間に裏切られてさ」


「そのような奴らはこのわしが成敗していたそう」


「それは頼もしいな、じゃあさ、上がってみない? 地上へ?」


「御意でござる」




「とはいえ今の俺はレベル100なんだけどね、あと君の攻撃は俺の体に入らないと伝わらないから、いっちょやってみる?」


「御意でござる」




「ならあのドロップアイテム見てこようぜ」


「そのようにいたそう」




 俺はドロップアイテムを拾ってみた。


 とても長い黒々しい鎌であった。


 地獄王ハデスの持ち物というよりかは死神のような奴の持ち物だと思ったほうがしっくりする気がする。




 一応持ち上げてみた。




【リュウフェイは呪われました】




「は、はい???」




 死神のような鎌が爆発した。


 そして目の前にいたのは白髪の女性であった。


 彼女はこちらを下から上から見て、ふむと頷く。そしてまた寝る。




「寝るな、そこは地面だぞ」


「何をおっしゃる、わてはとてつもなく暇なのじゃぞ」


「俺は暇じゃねーぞ」


「わてはお主を呪ったのだから、わての世話をするがいい」


「嫌だいてえててて」


「そうだ。このようにしてわての命令を聞かなかったら、ほっぺたをつねる呪いをかけてやろう」


「とんでもなくしょぼい呪いだな」


「ふ、気にするな、褒めてもお菓子は出ぬぞ、いやお菓子をだしてくれ」


「そっちかい」




「ところですまんのうコントでもしとるのか?」


「伝説のジャックね、あなたも大変ね幽元師なんかに目をつけられて、てかこのわてもじゃない」




「はて幽元師? リュウさんの事かい」


「そうですよ、はぁ、なんか色々残念だから寝るわ」


「だから寝るなああああああ、それとおめー全裸だぞおおおお」




「あら破廉恥ね」


「おめーがなあああ」




 俺は取り合えず、アイテムボックスから予備の服を着せる事にした。




「なによこの色気のないおっさんみたいな服は」




「わりーかよ、この白髪美少女でばんきゅばんの変態娘が」


「あらありがとうだね」




「それは褒めているのではないのだぞおおおお」


「さてリュウ殿よ」


「いつから俺はリュウ殿になったんだよ」


「坊主よりリュウ殿じゃろう?」




「了解だ。さて、まずはお前のレベルみるぞ」


「あら女性の全てを見るのね」




「るせー」




 俺の眼にうつったレベルに絶句していた。




【死神リナ;レベル340】




「てかおめー死神だったんかいい」


「だて媒体が鎌でしょ? うふふ」




 かくして1人の幽霊と1人の死神が仲間になりました。


 この絶望的な場所で3人は笑っていた。




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