第3話
「なんであなたなんか産んだんだろ」
「おい、早く飯の支度しろよ」
「何その顔、文句でもあるの?」
「その顔はなんだ、黙って言うこと聞けや」
私は、なんでこの家に生まれてきたんだろ
「んー、あれ?ここは」
そうだ、私はあのおじさんの家に泊めてもらってたんだ
おじさんは、まだ寝てるのか
「ぐーぐー」
いびきなんかかいちゃて、よっぽど疲れてたんだな
確か名前は、憲武って言ってたっけ
この人が起きたら、また今夜の宿探しが始まるのか
てっきり慣れたつもりでいたけど、まだこんな気持ち
どうせこの人も、他の大人と同じなんだろうな
そんなことを思いながら、ふと時計を見ると
昼の12時を回ったところだった。
この時間まで寝てるところを見ると、休みなのかな
お腹すいたな。勝手に冷蔵庫を見るのはダメなのは
わかってるけど、背に腹は変えられなかった
少しだけ期待したけど、案の定冷蔵庫の中は空だった
男の一人暮らしってこんなもんなんだろうか
私の財布には、お金なんてあるわけないから
憲武さん、早く起きないかな
「んー、なんだ起きてたのか」
「おはよう、ございます」
「飯は?」
「食べてない」
「そういや、冷蔵庫空だったな」
憲武さんは、そう言うと財布を持って買い物に出かけた
私の分も買ってきてくれるのだろうか
いや、きっと自分の分だけだよね
私は、ほとんど無理やり押しかけたようなものだもん
このままここにいても迷惑かけるだけだし
帰ってきたら、出ていこう
「今夜はどうしようかな」
毎日毎日、その日暮らしを続けているがそろそろ限界
なのも事実である。
「ただいま」
「おかえりなさい」
案外早く帰ってきたな。近くにコンビニがあるんだ
いい所に住んでるんだな。
「ほら、お前のだ」
そう言って、憲武さんは私に温かいおにぎりをくれた
「ありが、と」
「お前、この後どうするつもりなんだ」
「食べたら出ていくよ」
「あてはあんのか」
「そんなの、ないよ」
あるわけないじゃん。私には、帰る家がないんだもん
「しばらく、ここにいたらいい」
「え」
私は、何を言っているのか分からなかった
「なんて言ったの、今」
「ここにいたらいい」
「そんなことしていいの」
「本当は、ダメだろうな」
「じゃあ、どうして」
「お前のあんな顔見たら、ほっとけないんだよ」
油断した。誰にも見られないようにしてきたのに
あの時は、色々思うところがあってそれどころではなかった
「バレたら捕まるよきっと」
「そうだろうな。」
「それでもいいの?」
「ああ。お前はどうしたいんだ?」
「私は」
ここから出て行ったら、私はまた同じことの繰り返し
苦しい毎日が待ってるだけ。
少しでも、今の状況が変わるなら
「ここに、いてもいい?」
「お前の好きにしたらいい」
「私はお前じゃない、雪菜だよ」
「そうだったな。悪かった」
「じゃあ、これからよろしくね憲武さん」
「ま、色々ルールは決めるけどな。よろしく、雪菜」
こうして、私と憲武さんの共同生活が始まった。
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