第2話

「申し訳ございませんでした」

このセリフ言うのもう何回目だろうか

ミスして、上司に謝って、修正して同じことの繰り返し。

この不景気の中、就職できてるだけまだありがたいけど、

いいかげんうんざりする。

「やめたい」

ほぼ毎日のように思う。けれど、やりたいこともないし

この世の中、転職したところでどこも同じだろう

「お先失礼します。」

自分の仕事を片付けて、職場から出たのは定時の2時間後

定時に帰ったのは、最近いつだっけ

そんなことを考えながら、駅前に着いた

「電車まで時間あるし、なんか食べていくか」

今の時刻は、22時。この時間だと、牛丼屋が無難か

駅前の牛丼屋は、よくあるチェーン店。

牛丼屋に向かおうとしたその時

「今日時間ありますか?」

そう俺に声をかけてきたのは、一人の女の子

見たところ女子高生だろうか

こんな時間に何してんだと思ったが

今時の高校生が、この時間にうろつくのは普通なのだろう

「何君?高校生?」

「はい、お兄さんかっこいいから声かけちゃった」

そう言ってきた、その子の目はどこか悲しげだった

こんな時間に、俺みたいなおっさんに声をかけてきた

嫌な予感しかしなかった。

「今日はもう遅いから、帰んな」

早く牛丼食べて帰りたかった俺は冷たくそう言った

「私家出してて、帰る場所ないんだ。だから、泊めて」

家出か、親と喧嘩でもしたのだろうな

だが、高校生が野宿ってのも危険だし

「これだけあれば十分だろ」

そう言って、その子に一万円手渡した

「いらない」

その言葉を吐いたその子は、見たこともない悲しい顔で

俺の前から逃げ出すように、去っていった。

「なんだあいつ」

雪が降る中で湿っていく一万円札。

それをポケットに入れ直し、俺は牛丼屋に向かった。

でも、あの顔が頭から離れなかった。

「なんだよ、あの顔」

気づいたら俺は、その子を探していた

名前も知らない。初めて見たその子

助ける義理なんて、俺にはない

でも、あんな顔をされたら心配にもなる

「どこだ、どこにいる」

さっき離れたばかりだから、そんなに遠くには行ってないはず

10分ほど走り回り、駅から外れた路地に座り込む一人の女性がいた

「見つけた」

凍える体をさする震えた手。こんなところにいたら風邪引くだろ

「なんでここにいるの」

とても驚いた顔を見せたが、一瞬であの悲しい顔に戻った

「今日、俺んち泊まるか?」

「今日はここに泊まるからいい」

無理してそんなこと言って、本当は泊まりたいはずなんだろうが

この子の中に、何かトラウマじみたものがあるのだろう

じゃなきゃ、あんな顔はしない

だから

「これは命令だ。今日のお前のホテルは俺の家だ」

我ながら、ダサいセリフを吐いたと思う

「じゃ、、じゃあ、お願いします」

少し、安心した表情を見せたその子。そういや名前知らないな

「君、名前は?」

「雪菜」

雪菜か。この季節にぴったりな名前だな

「おじさんの名前は?」

「おじさんっていうな。俺は、坂本憲武だ」

「のり、、たけ」

「なんか変か?」

「ううん、そんなことないよ」

「じゃあ帰るか」

ギリギリ終電には間に合う時間だが、家に着いたらどうしようかな

そんな不安の中、俺は雪菜を連れて家に向かった。


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