5話

「めっっちゃ、いい!めっっっちゃ、私だ!これ!」


「喜んでくれて何より、です」


あの後、君島さんは色々アバターで遊んでいた。

時折、僕に設定を尋ねてきて僕が教えて君島さんがまたはしゃぐ。こんな繰り返しの時間が30分は続いた。

もう外は、夕日が沈みそうになっていた。


「君島さん」


「ん?どしたー?」


「外。暗くなってきたので、そろそろ帰りません?」


「いいよ。一緒に?」


「え…?あー、え?」


何の冗談だろうか。


「…ぷっ、冗談だってば!そんな、冗談でしょ?みたいな顔しないでよ!もー」


「思考盗聴しないでください…」


「思考盗聴?なにそれおかしー。君、顔にめちゃくちゃ出るタイプだよ。分かりやすいもん」


そうなのか…初めて言われた。


「例えばさ、ほら!君と最初にお話ししたあの日!私の手伝いしてって、お願いした時の君の顔。あれすごーく嫌な顔してたじゃん」


「いや、あれは…嫌な顔というより急な出来事すぎて消化できてなかったというか」


「急に話しかけちゃったもんねー。今更だけど、ごめんね」


帰り支度を終えて教室を出た僕らはいつの間にか下駄箱まで来ていた。


「じゃ、また明日ね!なんかあったらLINEする」


「はい。また明日、です」


「うん。また明日…」


君島さんはまだ何か言いたそうだった。


「あのさ、さっき最初に話した日の事で続きあるんだけどさ」


僕と君島さんしかいない下駄箱は少し重たい空気に包まれているようだった。


「初めて話しかけた時、何言ったか覚えてる?」


君島さんは僕にそう言った。


「えーっと」


「あー!覚えてないな!その反応!」


初めて2人で放課後の教室で話をした日はよく覚えている。でも、あの時の君島さんは絵画みたいだったから。何を言っていたのかは覚えていないんだ…。なんて言えるわけもなく。


「私がバーチャルな私になりたいって言った時、理由聞いたの私不思議に思ってたんだよねー。最初に言ってたのに。納得、そもそも聞いてなかったわけだ」


君島さんは僕に背を向け、先へ行ってしまった。


「君島さん、ちがっ…」


僕は急いで後を追う。

覚えていないけど聞いてなかったわけじゃない…

酷い言い訳だけど、そう伝えたかった。


「君島さん!!!」


先に出た君島さんとの距離は然程離れていなかった。


「何?」


「あのさ。聞いてなかったわけじゃないんだ」


「じゃ、なんて言ってたか言ってみてよ」


「…」


「ほら。」


恥ずかしいとかそういうのよりも、この瞬間を、

君島さんといる瞬間を、汚したくなかった。


「初めて2人きりになった教室で君島さんが話してくれた時、あの。えーと、とても綺麗で…見惚れたと言いますか…あー。はずっ…」


言い終わる頃には、僕は地面を見つめていた。

熱を持った顔を頑張って持ち上げ、君島さんを見る。


………


「君島さん?」


君島さんは固まっていた。


「おーい」


返事がない。ただのしかばねのようだ…?

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