4話

僕の浮つき事件から1週間がすぎた頃。

僕になりに君島さんに似せたアバターが完成したので君島さんに実際に動いてもらうことになった。


「これ、ここにセットすればいいんだよね?」


「うん、そのはずだけど…」


スマホスタンドにスマホをセットする君島さんは少し緊張した様子。


「君島さん、緊張してる?」


「え、」


「あー。うん!ちょっとだけ緊張してるかも…」


君島さんに似たアバターを作ったアプリ『Duality』

このアプリは、スマホの内カメラ機能を使ってリアルタイムでアバターと連動させて動かすことができる。


「君島さん」


「ん、なに?」


「変に緊張しないで。カメラの中にいるのは君島さんなんでしょ?普段鏡見るような感じでリラックスしていきましょ」


君島さんには申し訳なくて言えないけれど。

僕は先に試しに動かしてしまった。


君島さんじゃないけど、君島さんになってしまった。

我ながら君島さんによく似ていて。

勝手にルーチンを妄想して、鏡を見て化粧をするふりをしてみたり。

僕の好きな、バーチャルタレント『ユキ』さんがするような可愛い動きも、このアバターで出来る範囲で真似したりした。


一通り満足した後、ふと我に返って洗面所にある鏡を見つめ、僕の顔が自信のなさに溢れていることを改めて自覚した。君島さんは毎朝、毎晩自分の顔と向き合っているはずだ。その時、どういう気持ちなのだろうか。僕は考えてしまった。

初めから美人だと慣れてしまうものなのか。

でも、君島さんは自分で自分を可愛いと言っていたし…


だから、君島さんが普段鏡を見てリラックスしている様子が見てみたかったんだ。こんな理由で許されるはずはないけれど。


「う、うん。わかった…よし。こんな感じ…ぃ。かな」


………。


画面の中にいる君島さんとにいる君島さんは、まるで同じだった。向き合っても、変わらず。

クラスの人気者で男子にも人気な美人『君島茉希』だった。リラックスしているか否かなど当の僕は忘れていて、ただそのシンクロ感に圧倒されていた。


僕が作ったアバターは、僕の思う『君島茉希美人

向き合っているのは、ただの『君島茉希きみしままき』だった。

ただいるだけで、完全に絵になっていた。


「おー、ちゃんと動いてる。すごーい」


「あー、顔だけなんだ。なるほどなるほど」


「変顔したら反応しないの笑っちゃうんだけど…ふははっ!」


君島さんは笑っていた。


だから、きっと、家でもこうなのだろう。

君島さんは君島さんだ。どういう気持ちとかそんなんじゃないんだろうな。僕はとことん失礼なやつだ。

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