2話

「どう?これ可愛くない?」


初めて言葉を交わしたあの日から2日経った日の放課後、僕はLINEで彼女…君島茉希きみしままきさんに教室に残るようお願いされた。

誘いにのったはいいけれど、君島さんはさっきから同じ言葉を繰り返してはスマホの画面を僕に見せてくる。


「き、君島さんが作ったの?そのアバター」


「うん。作ったから君に見て欲しくて、見て、評価?して欲しくてさ」


「あー。うん。」


「なにその気の抜けた返事、この前了解してくれたじゃん!」


…君島さんの圧に負けたんだよ。


「ごめん。まじめに見るよ」


そういって、君島さんが作ったというアバターを見ていく。


「君島さんはどういう子になりたい。とかあるの?」


「んーとね。どういう子…?うーん」


君島さんは顎に手を当て考えていた。

その姿が様になっていて、綺麗な人はどこまでも綺麗なんだなと当たり前のことを思った。


「考えてみたけど…しっくりくる言葉が見つからないや。強いて言うなら…私みたいになりたい。かな」


?????


「あ!困惑してる!今、君めっちゃ困惑って感じの顔してるよ!」


君島さんに僕の困惑顔が笑われている。

僕は、君島さんの『わたしになりたい』が理解できずにいるというのに。


「いつまでその顔してんの〜?私、そんな変な事言った?」


「えーっと。君島さんみたいになりたいっていうのはつまり具体的に…」


「それが分かってたら苦労しなーい!」


「ですよね…」


「でもなんとなくはあるの。イメージ像がね」


「私って、ほら。可愛いじゃん?」


おっしゃる通りです…。


「でも、いつも可愛いわけじゃなくて。その日の体調とか、とか。とかで、変わるじゃん?」


きっと、今の『とか』には色んな意味があったんだろうけど僕にはさっぱりだった。


「でも、バーチャルになれば保存したものがずっと続くわけじゃん?それってめっちゃいいじゃん!」


「なるほど」


君島さんは君島さんなりに悩みがあって、それは僕には理解が及ばなくて、言われて初めて理解して納得した。


「やっと、わかった!?」


「だから、誰かになりたいとかどういう…ってよりかは私はわたしになりたいの、なんかポエマーみたいだね」


「いや、とても素敵な理由だと思います。どこがと、言われると困りますけど…」


「え、」


今度は君島さんが困惑顔をしていた。

僕は笑わなかった。というかこの後の返答が気になりすぎてそれどころではなかった。


「君、いいやつだね。」


この時の、微笑みを僕は忘れることはないだろう。

この微笑みは、僕の記憶に保存されて永遠に再生されるだろう。

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