大炎上中の推しがなぜか家に住み着いて色々と困っています。誰か引き取ってください。【元推しはプロデューサーにNTRのようなので乗り換えます事案】
月平遥灯
#01 彼を罵りなさい。先生はそう言った。
推しのユニットが解散の危機で泣きたいくらい死にたい。
ボカロPがニューチューバーの歌の上手い子を三人集めて作ったユニット、『
それを知ったのが一週間前。死にたいくらいに泣きたくなった。
理由を調べたら……メンバーの一人オータマこと
その前提があって、ずっとモヤモヤしていたんだけど、目の前でその氷雨秋乃が物理的にも精神的にも上から目線で俺を見下しているわけ。
っていうか、なんでお前がここにいるんだ。
俺の推しの敵で——絶対悪!!
氷雨秋乃……気取りやがって。
長いオリエンテーションが終わって、いよいよ噂の転校生の登場か。
浮足立つクラスメイトは今か今かとその時を待っている。ふっ。馬鹿め。まさかアイドルが転校してくるわけでもあるまいし。
そんなに期待しても仕方のないことだろう。
さっき廊下で後ろ姿を見ただけで恋に落ちたとか。言っていた奴がいたな。
ふっ。笑わせてくれる。
そんなラノベのような話があってたまるかっていうの。
「入って」
担任の教師は淡々とそう言って開きっぱなしのドアの方に手招きした。
……おい。
おおおおおおおおおいッ!?
な、な、なんだと……。
オータマ……じゃねえか。
オータマっていうのは、氷雨秋乃の秋のオータムをもじった名前で、俺にとって一番聞きたくない名前。テンションが上がるどころか、怒りのボルテージがみるみるうちにマックスに。
校内規定よりも短いスカートが
大きく硝子玉のような瞳はまるでこちらを
憎い。憎すぎるーーーーッ!!
視界にも入れたくねぇぇぇぇッ!!
「氷雨秋乃さんです。余計な詮索はせずに仲良くしてください」
女教師の何の感情も伴わない言葉でそう告げられると、氷雨秋乃は席に着いた。
まさか俺の隣とか。ふざけんなって。
なんの陰謀だよ。誰の差し金だ。
よりにもよって、この俺の半径一メートル以内に配置するとは。
絶対に許さねえからな。もし運命とかだったら目論んだ神だって殺してやる。
そう。俺は神殺し。唯一崇拝するユッキーこと花月雪様に敵対するモノは神でも殺してくれるぅぅぅぅぅッ!!
っていうかさっきからクソ豚の男子どもがうるせえ。ぎゃあぎゃあ
うるせえんだよ。
なにがアーティストだ。なにが氷雨様だ。
こんなやつ、俺は認めねえからな。
毎日隣で呪いを掛けてやる。氷雨秋乃よ。せいぜいその重圧に耐えて苦しむがいい。
衰弱してその細いウェストが棒になり、風に煽られて転んでポキっと折れて死ぬんだ。
せいぜい、その可愛らしい唇を震わせて、俺に
推しを苦しめてすみませんでした。どうかお許しを、と。
土下座をして額を汚い床にスリスリすれば許してやるよ。
俺は寛大だからなっ!!
「……
「あ、ああ」
横目でちらっと見て、氷雨秋乃はそう言って
くっ……この甘い匂いはシャンプーか。くそ、俺の脳を麻痺させて捕縛した後に殺す作戦か。
上等だよ。ほら、もっと
今の俺に精神攻撃は効かねえからな。
その手には乗らんぞ。
推し……花月雪様の屈辱は絶対に果たしてやる。覚えとけ。
あれ、そういえば俺……名前なんて教えたっけ……?
放課後は真っ直ぐ帰ることとなっている。帰宅部の俺だって
今のうちに頭にインプットしなければいけないラブコメやファンタジーという名の神聖なるバイブルを
正門から下る坂道の向こうに見えるのは海。そして
ああ、田舎最高だよ。寄り道するにもなんにもねえ。
いや、唯一イオンが見えるが、放課後そんなところに行くのは青春という名の恥に
大人ぶって彼女なんて作ってバカじゃねえの。そのままトラックにはねられて異世界でも行け。二度と帰ってくんな。
……いや、むしろ俺を異世界に連れ——。
こほん。
全体の七割ほど潰れた商店が両脇に建ち並ぶ駅前通りを抜けて、ようやく着いたのが我が家。昭和レトロな洋館のような、そう、とんでもなく
って、一応ヨイショしてあげないとな。
実は、懐古主義はあまり得意じゃない。
カビ臭いし。まあ、生まれたときからこの家だから慣れっこだけど。
「ただいま」
「おかえりなさーい。
「……なにこれ?」
「鍵よ。合鍵。渡しそびれちゃったから」
母さん——
だから、学校の行事に来られると恥ずかしい。
しかも、父さんと仲が良くて、それがすげえ見ていて腹が立つ。子供の前でイチャイチャするなって何度言ったら分かるのか。
ああ、イライラする。
「ん……待って。誰に? 誰か友達でも遊びに来てるの?」
「……まあ。そうね。ねえねえ春くん」
「なに?」
「春が来るといいね。ふふ」
「は? なにそれ。現在進行系で春だけど? 四月だし。ついに頭のネジ飛んだ?」
「こらぁ。お母さんに向かって失礼でしょ」
「……だって、意味分かんねえよ」
意味深だ。
母さんはこれから仕事に行くんだろうけど、今日は随分とゆっくりだな。
母さんと父さんは同じ職場……と言っても二人で開いたダンススクールを経営している。割と繁盛していて、うちの高校の女子が何人か通っている。
二人して帰ってくるのは夜の一一時とか。
さすがに腹減っちゃうから自炊して……その残りを両親が食う。っていうのが週に三回ほど。残りの四回は俺の伯母に当たる、父さんのお姉さんが作ってくれる。
ああ、そうだ。今日はみんないない日か。
玄関の上がり
ん〜〜。
なんでローファーが並んでいるんだ。明らかに女子じゃん。
いったいいくつなんだよ。母さんの友達は若作りの人多いから目のやり場に困るんだよな。
離れは父さんや母さんの友達が遊びに来たときに、泊まれるようにと一通りの家具は置いてある。平屋で母屋に比べればプチ洋館といったところ。
そういえば昨日二人して掃除していたな……。
「すみませーん。母さんからの合鍵? 預かったから置いてお……は?」
「あ、倉美月くん?」
「な……なんでお前がここにいるんだッ!?」
「……充希先生が居ていいっていうから」
「は? 聞いてないし。っていうか、お前なに? いきなり人の家に入って?」
「……感じ悪ッ!!」
ツンとしてこちらを見ようともせずにそっぽを向く氷雨秋乃は、形の良い胸の前で腕を組んで横を向く。
こいつ……ここは俺の家なのに、なんで俺より高い位置から見下してんだよ。
せめて上がり
「俺の推しは……泣いていたぞ……悲しいって泣いていたぞ」
想像の中だけどな。こんな性格の悪そうな女の
という想いのもと。ぽろっと口から漏れ出たのが、俺の推しが誰かに言って欲しいであろう言葉。
ユッキー様の言葉を俺が今、代弁してやった。
さあ、泣いて詫びろ。ユッキー様は
「キモッ!! それ置いてとっとと出ていってくれる?」
「なっ!! キモいとか言うな。第一、俺は認めないからな」
「あなたに認められなくても構わないわ。充希先生がいいって言えばそれでいいのっ!」
こいつ……確かに見た目はいい。それは認める。
だが、性格はクズじゃねえか。
決めた……全面戦争だッ!!
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