実力主義なこの異世界で、少し本気を出すことにしてみました

78姉さん

第1話:異世界転生

毎日が嫌で嫌で仕方がなかった…。生きるのが辛かった。逃げよう、逃げようそう思っても現実からは逃げ切れなくて…。何度もこの不条理な世界を、全体を見ただけですべてを見た気でいる大人を、自らが犠牲者になるのを恐れて傍観者で居続ける薄情者を、そして何より何一つ抵抗することができない惨めな自分を恨み続けた。


そんな俺の中学校生活は転校という形で幕を閉じた。

と同時に俺は心のなかである決意を決めた。能ある鷹は爪を隠す。妬みや疑惑を持たれるよりかは、非凡でなるべく目立たないことに努めようと。自分には強大な能力があると自賛しているように感じ取ってしまうかもしれないが、事実は事実。勉強に関しては全国テスト第一位。父は脳外科医で収入が多くある。運動も県の中で名を馳せるほどだ。これだけ聞けば羨ましいの一言であろう。だが、俺は生まれてはじめて自分を好きだと感じたことがない。なぜならばこれらがすべていじめられる原因だからだ。頭がいいんだろうと宿題を10人分やらされ、お金持ちならと恐喝・暴行のうえ金を要求してきたり、体育の授業前に運動靴をドブに捨てられたりと毎日が嫌で仕方がなくなる。そこまでされて学校に行かないと行けないの母に問題があった。母は父の財産目当てに近づいてきたただの淫乱メス豚で父が仕事でいないのを言い訳に、平日も男を家に入れ込んでは、営みの開始だ。父も哀れな人間だなと思う。優秀であるが上に、いちばん大事なネジが外れているのではないかとつくづく思う。そんなわけで気づかれたくないのか俺が風邪だとしても無理やり学校に行かせる。俺はもう気づいているんだがな…。ハハハ。


まぁそんなことはもうどうでもいいんだ。俺はもう自由な世界に飛び出したんだ。俺は家を、そして家族を捨てた。酒に酔いしれている母の隙きをついて、戸棚に隠してある母のへそくり500万とぱんぱんにものを詰めたリュックサックを背負おって、ここ家を出た。目指すは大都会東京。目的はただ一つ。何にも縛られず、自由気ままに生きていくこと。俺は東京に向かって歩み始めた。


夜間バス・電車を駆使してやっとの思いでたどり着いた。真っ先に向かったのは東京の中心部よりちょっとはずれたところに位置するこれから俺が通う高校である。いじめられていた過去を払拭するためにあらたな高校生活をはじめるのだ。今度こそ自由に生活して見せる!!(フラg…。)



時が流れること一ヶ月…。静寂に包まれる自室に一言ポツリ。

「東京……。やべぇわ。()」

見事なフラグ回収である。ほんと俺おつかれ。簡単に事情を説明すると、俺のクラスである1−Aは陰と陽の二極化していて陰側は陽側のパシリ&いじめの標的にされているというわけだが、俺も今は優秀なパシリとして先輩にも使われている。こんなはずじゃなかった。思い描いていた理想と裏切られたような最底辺な現実の差に俺のライフはもうゼロであった。やめて!!蓮理のライフはもうゼロよ!!(やりたかっただけ)


「うん、もう一旦忘れよう。」

俺はゲーミングチェアに腰を下ろし。頭にVRを装着して、ゲーム世界に潜っていった。ちなみにだが、俺の部屋は既に俺の趣味全開の魔改造がしてある。本棚には最強系の異世界転生小説を並べ、余計なものは何も置かず、自由な生活を送れるようにしている。


そして今プレイしているこのMMORPGゲーム『ソフィア・エターナル・クロニクル』通称:SECと読んだりする人が多い。俺はこのゲームこそが生きがいであり、このゲーム内に広がる世界こそが俺の理想郷(ユートピア)なのだと思っている。自由性の高いオープンワールドであることは勿論、隠し要素が複数あり、やり込めるのもこのSECの魅力であろう。ただしこのゲームの欠点があるとすれば先程言った隠し要素によって冒険者たちの実力差に大きな穴が開くというわけだ。つまりは若干運ゲーみたいな要素を含んでいるのだ。隠し宝箱や隠しダンジョンの報酬には当たり外れはあるものの地上などに生息するノーマルモンスターを倒したときにもらえるドロップ品よりも遥かに良いものが手に入るのは事実。そのため新規参入者のエンジョイ勢が少なく、歴代のシリーズも遊んだことがあり、時間を持て余した暇人のガチ勢の猛者しかいない。俺はどっちかというと後者寄りになるのかもしれない。


SECにログインするとまず最初ははじまりの街フリューゲルに飛ばされる。そこから冒険達が転移魔法を使い、各々行きたいところに移動するってわけだ。俺も今日はこの新武器を強化するために草原エリアに向かった。モンスターを倒して武器の熟練度を上げるためだ。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        


しっかりやり込むこと6時間後。

「そろそろ寝るか。。。ふわあぁぁ〜〜、。」

俺はベットに飛び込み、眠りに落ちた。


翌日、俺はいつも通りの時間に起床し、いつも通りの身支度を済ませ、家を出た。


ーー学校にてーー


校門の前に立ち尽くしていると、ある一人の女の子に声をかけられた。


「おはよう!蓮理くん!今日は暑いね〜」

手を仰ぐようにして自身に風を送り続けている彼女の名は、白華瀬奈(しらはなせな)。クラスのマドンナ的存在で俺のような陰側の奴らとも気さくに接してくれて、まじで神のような存在である。おまけに顔も可愛いと来たら、男どもの注目の的である。実際に好意を寄せている人は指では数えられないほどだ。


「あぁ、おは…よう。」

「なんでそんなに緊張してるみたいなの?笑」

クラスのマドンナを目の前にして、引けを取ってしまった。だが、俺は白華さんに変に思われたことよりも、周りからの視線が痛い。耳をすませば『なんであんな奴が白華さんと…くっそ。』、『モブキャラのくせに』などの妬みや罵声の言葉で溢れ、目を凝らせば、今すぐにでもその場所を変われと言わんばかりの冷ややかな視線が俺を包みこんでいた。


「まぁ…そのーなんだ…。とにかく教室へ行こう。」

「やっぱり変だよ笑」

俺は白華さんとの距離を少し開けてから歩き始めた。《目立たないこと》それが今の俺にとって最も大事なことなんだ。それなのに…。それなのに…。なんで、。


「あのーどうして近づいて来るのでしょうか…?」

「!?。んーなんとなく〜。気にしないで、気にしないで!」

「あ、そうですか」

そうは答えたものの彼女が隣に来ることによって、目立ちすぎて嫌だということは本人には言わないでおこう。


教室に入ると、教室内は騒然とした空気に包み込まれていた。


「おい、なんだよこの花?一人ひとりの机の上においてあんぞ!!」

「今日ってなんか、お祝いごとみたいなのってあったけ?記念日?」

「今確認してきたけど他クラスにはそんなもの一つとしてなかった!!」

「じゃあ何なんだこの花!?先生も知らねーみたいだし」

「みんな一旦落ち着け!冷静になるんだ。一回席につくんだ。」

俺らは、委員長である神林大樹(かんばやしだいき)の指示で席に座った。あんなにざわついていた教室も一瞬にして静けさを取り戻した。そこには、大樹の皆から得ている圧倒的な信頼が絡んでくるのだと思う。


「この花について知っている奴はいるか?」

大樹がクラスメートに呼びかける。すると一人の男が手を上げた。皆の視線が一点に集る。手を上げたのは博士(はかせ)くんこと井野山泰造(いのやまたいぞう)である、彼は基本的にどんな事も知っている知識王である。


「この花をおいた犯人を知ってるわけじゃないけど、この花の名前はコルチカム。別名イヌサフランとも言う。主に欧州・中東・北アフリカなどの地中海沿岸地域に自生している花だよ」

「それがどうしたっていうんだよ!!」

クラス1の問題児である大西魁聖(おおにしかいせい)が水を差した。


「本題ここからさ。問題なのはこの花の持つ花言葉にあるんだ。花言葉は『私の最良の日々は過ぎ去った』、『危険の美しさ』なんだ。こと言葉が何を指すのかはわからないけどいいことではないのはたしかだよね」

周りの空気が凍りつく。先程の静けさとは違う更に深い深い静けさに教室は覆われていた。何メートルも離れた他人の心音でさえ鮮明に聞こえるほどに。

その刹那、クラスメートの一人が青光りの炎に包まれ、姿を消した。そして次々と消えていった。

最後には、俺の目の前が真っ暗になった。


目を覚ますと、なんとも言葉ではいいあらわせないような空間にクラスメート計31名は漂っていた。死後の世界を連想させるようなこの無気力な空間は一体どこなのだろうか。

クラスメートの動揺や叫び声、泣き声、失望顔が自然と俺の中に入ってくる。なんとも嫌な空間である。

その時時空が歪み始め、空間の狭間から、神を彷彿とさせるかのような人が出てきた。


「我が名はジェネシス。第一級王国の主にして、創設神ウラノスの眷属である。我らの目的はお前らを神の末裔とし、この国を魔神族の手から守り、ゆくゆくはこの世界に存在する魔人族共を一人残らず抹殺してほしいのだ。」

「そんなことはどうだっていいんだよ。早く家に帰らせてくれよ!!」

「生憎だが、お前らは現段階、元の世界への帰還は不可能だ。我々が召喚した以上我々の願いを受けるか死ぬかの二択しかない。」

「なんでだよ。おかしいだろ!!俺らがなにしたってんだよ!!」

沈黙が続く…。

クラス全員がやっと自分たちの置かれている状況に察しがつき、発言するのをやめた。

その直後委員長の口が開いた。


「それでは、俺たちに対するメリットがない。俺たちを神の末裔とやらにするには流石にきつすぎるんじゃないか?神というくらいなら、俺たちを納得でもさせるための条件でもあるのではないか?」

「お主、随分と頭が切れるな。その通り、もし魔人族を全滅させ、この世界に平和と平穏をもたらしてくれたあかつきには元の世界に戻るとき、金・権力・名声・地位。なんでも好きなものを送ろうではないか」

俺たちには死か転生かの二択しかない。今、ここで死ぬくらいなら抗い続けたほうがいいに決まっている。言葉にはしなかったが、 俺はこの条件を飲むべきだと思う。そしてみんなもそう思っていることだろう。


「わかった。俺たちはその魔人族を倒すためにお前らの世界で生きてやるよ。」

「ありがとう。お前らに当てられる力は以下の3つだ。これを駆使して一刻も早く魔人族を倒してくれ。」


*敵モンスターから得られる経験値が2倍になる

*人それぞれ違う固有魔法を一つ覚える。

*すべての言語が理解できる

                           以上3つ


俺たちは再び青光りの炎にさらわれ、気がつくとどこかで見たような景色が広がる街の中にいた。皆は、一体ここは何処なんだと言わんばかりのしかめっ面で周りを見渡している。だが俺はこの場所を知っていた。そうである。ここはSECの始めの街フリューゲルと瓜二つなのである。俺は確信した。ここはゲーム内のオープンワールドと一緒であること。


後に広がる俺の冒険譚の1ページ目の始まりである。

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