第39話 責任

 時刻は放課後。俺は、生徒会の業務を進めていた。


 その中で、会長が話しかけてくる。


 「条下院を篭絡したのは本当か?」

 「……それ、誰から聞きました?」

 「聞いてどうする?」

 「消す」

 「怖いな!」


 まあ、冗談だが。


 なんでも、このタイミングで―――いや、どのタイミングでも結果は変わらなかっただろうが、急に美織が意見を覆したことによって、俺が美織を手籠めにしたという噂が立っているようだ。


 俺って、そんな噂されるような滅茶苦茶なことやってないよね?デマとはいえ、広がり過ぎだと思う。


 その噂の発生源は、すでに美織たちが特定して火消しに走ってはいるがな。


 「俺ってそんなに信用ないっすかね?生徒会副会長ですよ?」

 「肩書がどうであれ、椎名の印象として、初日に埋め込まれた『レイプ魔』が大きすぎるんだろうな」

 「はあ、許したとはいえ、美織はとんでもないことをしてくれたな」


 もう気にしてないからいいのだが、状況はあまり芳しくない。

 俺は、この先の学校生活で『レイプ魔』のレッテルを貼られたまま生きていくことになる。それだけは嫌だ。


 「会長、噂の火消ししてくださいよ」

 「断る。我が生徒会は噂の一つに構っていられるほど暇ではない。それどころか、これから体育祭があるのだから、一層業務以外にかまけてられない」

 「そりゃそうですけども」


 そう、俺達生徒会には、体育祭という行事が近づいている。


 体育委員の仕事だと思われがちだが、生徒会も仕事が多い。


 体育委員の補助、各委員会の連携指示、予算。その他にもたくさんの業務がある。


 しかも、うちの高校はなぜか、競技場で体育祭をやるので、競技場の確保も生徒会の仕事だ。


 体育祭の日程は、競技場の取れた日によって変わる。

 マジで学校のグラウンドでやれよ


 そんな感じで、生徒会はこれから中々多忙なのだ。


 そんな中、会計の計算を終えた六道先輩が向かってくる。


 「椎名さん―――副会長。予算の計算終わりました」

 「わかりました六道先輩。―――ここ、間違ってますね」

 「はやっ!椎名君って、どうしてそんなに計算速いの?」

 「多分、持って生まれたものですよ。昔から、頭の中で式を完結させるのが得意だったからさ」

 「そう……才能なのね……」

 「なんかすいません」

 「いいです。どの道、ミスは直さなきゃいけないので」

 「じゃあ、よろしくお願いします」


 俺が指摘したミスを直すために、六道先輩は自分の席に戻って行った。

 その背中が少しだけ残念そうに見えたのは、俺だけじゃあるまい。


 今、会長は体育祭の開始時にする、会長祝辞の台本を考えている。。おそらく、生徒会が表立って仕事する数少ないもののうちの一つだろう。


 「やはり、ここは祝辞らしく長い方が良いのだろうか?それとも、短い方が生徒たちにとってはいいのだろうか?」

 「会長は気負いし過ぎなんじゃありませんか?尺なんて、自分がしてほしい程度の長さにすればいいんですよ」

 「そうか。わかった、もう少し筆を進めてみる」


 そう言いながら、会長は祝辞の筆を速めていく。


 よし、俺もがんばるか


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 生徒会の作業もひと段落が過ぎ、学校の最終下校時刻7時をまわっていた。


 「それじゃあ、私は迎えがあるから」

 「私も家はこっちだから」

 「俺も家はこっち側だ」

 「そうですか。では先輩方、お疲れさまでした。また明日」

 「ああ、さよなら椎名」


 みんなが帰る方向が、違うので帰るときはいつも玲羅と一緒だ。


 「さ、帰ろうか」

 「ああ」


 そうして、俺と玲羅も帰路につく。そこからしばらくと言うほどの時間がすぎてない頃。ふと、玲羅が俺の手を握る。


 「玲羅?」

 「手を繋いじゃ、ダメか?」

 「ダメじゃない」


 『ダメか?』と、言ってきた玲羅のウルっとした目は、破壊力が尋常じゃなかった。俺は、ほぼ反射、何も考えずに答えてしまった。


 そこからも、静かながらも心地よい時間が過ぎていく。


 いつものような、なにか言い合って、玲羅が赤面するのもいいが、こういう居心地のいい空間にいるというのは、また違った良さがある。


 そう思っていると、ある公園が目に入る。


 玲羅も同じことを考えたのか、その公園お前で立ち止まる。


 その公園とは、俺と玲羅が出会った場所だ。


 「翔一、ここで話をしないか」

 「いいけど、話ってなんだ?」

 「いい話だ」

 「そうか、なら、聞かないとな」


 何やら、玲羅が大事なことを話そうとしているみたいだ。

 ひとまず、俺達は公園に入ると、玲羅の座っていたベンチに腰掛けた。


 俺がなにを話すか気になっていると、玲羅が喋り始める。


 「翔一、憶えてるか?私とお前が出会った時のことを」

 「ああ、明確に覚えてる。雨の中、この公園で出会ったんだよな」

 「私は本当に救われた。翔一という誰よりも愛おしい存在に出会うことが出来た。私は本当に運がいい」

 「運じゃないさ。俺達は運命で結ばれてたんだ」


 この言葉は、俺の本心だ。


 俺は本来干渉できるはずのない世界に転生してきている。そのうえ、玲羅の傷付いた日に気が付けた。


 これを運命と言わずして何と呼ぶか


 「運命か……だとするのなら、私は神様に感謝しないとな」

 「どうして?」

 「翔一と出会わせてくれてありがとうって」


 そう言う玲羅は、顔を少し赤らめさせている。本当に可愛いな!


 「玲羅……」

 「なんだ―――むぐっ!?」


 俺は不意打ちで玲羅にキスをする。もちろんディープな方だ。


 あたりは誰もおらず、艶めかしい水の音が鳴り響く。


 「んぅ……くちゅ……ああ……」


 俺が、玲羅の唇から離れると、玲羅は名残惜しそうな声を出す。

 前までの玲羅なら、恥ずかしいからそう言うのは家で、とか言っていたのに


 「前みたいに怒らないんだな?」

 「もう、誰かが見てるとかどうでもいいんだ。翔一が私を求めている。だったら、私は翔一を求め返すだけだ」

 「変わったな」

 「ああ、変わった。価値観も考え方も、愛する人も全部お前に染められて、お前色に変えられた」

 「なにそのNTRみたいなセリフ」

 「大丈夫だ!私は、浮気なんて絶対にしない!」

 「お、おう……どうした?急にテンション上げて」

 「とにかくだ。私は翔一なしでは、生きていけない体になってしまった。


 責任取ってくれよ?」


 まったくもって油断してなかったし、なんならこれくらいのものだとみていた。でも、玲羅はいつも、それの上を行く。

 本当に―――


 玲羅は可愛すぎる!


 「責任、取らせてください」

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