第40話 異常
「んふふ……むふふ……」
「玲羅姉、どうしたの?」
現在、リビングに玲羅と結乃がいる。
翔一はというと、今はオンラインで蔵敷とABAXをやっている。
そんな中、玲羅は自身の唇を触って、ニヤニヤしていた。
それを見ている結乃は、なにか翔一とあったことを確信するが、どうしても気味悪さが勝ってしまって、聞くに聞けない状況だったが、勇気を振り絞って質問した。
「ふふ……翔一がな、キスをしながら責任取ってくれるって」
「あ、やっぱ話さなくていい。もう全部わかったから」
「もうこれは、結婚ってことだよなあ。赤ちゃんできたらどうしよう」
「いや、玲羅姉?話が飛躍しすぎだよ」
「翔一……すき……」
「あ、聞いてないや」
顔を真っ赤にしながら、翔一への愛を囁く玲羅は、まるで酔っぱらって甘え上戸へと化した、クール系の美人そのものだった。
その姿は、女の結乃ですら見惚れてしまう姿だった。
「翔一、子供の名前はどうしようか……」
「お兄ちゃんはとんでもない人を恋の泥沼に落としたな。まあ、それは玲羅姉も同じか」
結乃は、ポンコツと化した玲羅を見ながらそんなひとりごとを言うのだった。
一方そのころ、翔一は
「なんだろう、なんかすごく幸せな気分……」
「は?なんだそれ。あ、敵いるっぽいぞ」
「あ、もう倒したよ」
「は?今スキャンしたばっかなんだけど?」
「これが幸せパワーだ」
「訳わかんねえよ」
「よし撃ち勝った!―――あ、チャンピオンだ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ある屋敷の一室。
「見つけた。俺の婚約者……。こんどこそ逃がさない」
明かりをつけずにうっすらと広がる暗がりの中で、男は一枚の写真を見ていた。
「この間は、あいつの邪魔が入ったせいで犯せなかった。というか、僕と彼女は相思相愛だったんだから、いいじゃないか」
そう言いながら、男は写真を舐めまわす。
そのような奇行は、屋敷の人間達には認識されているのだが、特に何も言われない。というより、触れた瞬間に首が飛ぶから、誰も言わないのだ。
「ああ……どの写真も可愛いよ。君はいつでも可愛いよ。その鍛えられた体に、ハリのある胸。そして決め手は、その愛くるしい目。唯一の欠点は、あいつに顔が似ていることだけだ。
だが、その顔が淫らに崩れるのがいい!」
この男は、一般的に言うのなら、異常性癖の気狂い。一般的に言わなくてもサイコ偏愛だ。もう、この男は救いようがないかもしれない。
それにこの男は勘違いしている。相手の女を犯し倒して、セックス狂いにすることを愛だと叫ぶ。そもそも、写真の女は、その男のことを好きになったことおろか、好意的に思った事すらない。
「ああ、君はどんな声で啼くんだい?」
そう言いながら、またも写真を舐めまわす男。その写真には、椎名結乃の姿が写っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あ、お兄ちゃんが降りてきた」
「ん?どうしたんだ?」
「翔一、私たちの子供の名前はどうしようか」
「!?」
俺は、玲羅から飛び出した言葉驚愕する。
子供だと……?
俺と玲羅は、子供ができるようなこと、つまりセックスはしていない。なら、俺との子供ができるはずがない。
なら、ほかの男と?いや、それは有り得ない。だって玲羅だぞ?あの、純情で一途な女の子の玲羅だぞ?
浮気なんて絶対にありえない。
「(結乃、どういう状況だ?)」
「(なんか、お兄ちゃんが責任を取るとか言ったから、玲羅姉の中では、お兄ちゃんと結婚したことになってるみたい)」
「(ああ、浮気じゃなかったのか……)」
「(そんなわけないでしょ。疑うのもおこがましいよ)」
「(それもそうだな)」
結論。玲羅は可愛い。
俺のあの一言で、結婚まで考えちゃう玲羅は可愛い。結婚から、子供のことを考えて俺に名前をどうするか聞いてくる玲羅は可愛い。
そんな一連のことも、笑顔かつ幸せそうな顔でしている姿が一番かわいい。
なんだ、この可愛いが詰まった娘は。
「玲羅……」
「ん?翔一、名前は決まったか?」
「いいや、それはこれからゆっくり考えていこう」
「じゃ、じゃあなんの用だ?」
「―――よいしょっ、と」
「うひゃあ!?」
俺は、一瞬だけ冷静になった玲羅を、素早くお姫様抱っこをする。
彼女は驚いたのだろう。物凄く素っ頓狂な声を上げた。
「翔一……お、重くないか?」
「はは、お姫様の体重なんて無いに等しいですよ」
「……そうか、私の王子様は力持ちだな」
「では、お嬢様寝室へ向かいます」
「へ?」
俺は、一言だけ告げると、そさくさと俺の部屋にやってきた。
そして、ベッドの上に玲羅を下ろしてやると
「父さん、母さん。私は今から大人になります。もしかしたら、孫の顔が見れるかもしれません」
と、言っていた。
まったく、ここまで来ても可愛いを維持し続けられる玲羅は、可愛いの天才だ。俺は、いつかかなわなくなりそうだな。
「玲羅……ん……くちゅ……」
「くちゅ……ん……翔一……」
俺が、キスをして玲羅の頬を撫でてあげると、玲羅は途端に眠そうになる。
「だめ……だ。私は翔一に大人の女にしてもらうんだ……。いっぱい愛してもらうんだ」
「玲羅、可愛くて、愛おしくて、抱きたい気分があるのは事実。でも、ちょっと早いかな。せめてお互いの責任が取れるようになってからだ」
「むぅ……私はいつでもいいというのに……」
そう言ってすねる玲羅は、口をとがらせるのだが、ただただ可愛いだけである。なんの威圧感もない。
「玲羅、なんども言うが、俺は玲羅を愛してる。だからな、そういう事は、予約済みだし、玲羅との結婚は、今は出来なくても、俺はしたいと思ってる。だから待っていてくれ」
「翔一……わかった。私は、いつまでも待とう。翔一と結婚するその日まで―――ちゅ」
そう言って、玲羅は俺の唇にキスをしてきた。
「翔一、そろそろ眠いから、一緒に寝てもいいか?」
「ああ、いいぞ」
「ほら、翔一も布団に入ってこい」
「じゃあ、お邪魔します」
「ふふ……布団より、翔一の方があったかいや」
「俺も、玲羅の方が心が休まるや」
俺たちは今日も相思相愛。お互いが大好きな関係。
俺たちは、絶対に裏切らない。玲羅は、そういう人間だからな。
俺も、玲羅だけを愛せるようにしないとな。
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