第34話 キモい厨二が考えたような意味わかんないクソキモい展開

 「お会計3万4507円です」

 「…………」

 「あの、お客さま?」

 「あ、すいません。これでお願いします」


 俺は、そう言うとデビットカードで会計を済ます。


 俺たちは、別に服の買い物をしていたわけではない。昼飯を食べていただけなのだ。なんだよ昼飯で3万って


 この間も行ったが、結乃がここが良いと言ったので、回転寿司のチェーン店に来たのだが、玲羅、結乃の両名が爆食い。

 合計金額が、3万を超えた。大事なことだからもう一度言う。3万を超えた。


 「はあ……」

 「そ、そのすまない……。食べ過ぎてしまったな。私も少し熱くなってしまった……」

 「そうだよ、お兄ちゃん。玲羅さんは悪くないよ」

 「じゃあ結乃、お前が全ての罪を背負うのか?」

 「い、いやあ……それはあ……」

 「二人共、次から外食は夕飯だけ。それも食べ放題のみで」

 「うぅ……わかった」

 「じゃあお昼ご飯はお兄ちゃんが作ってよ!」

 「わがまま言うな。このままじゃ金が無くなって倒れちまう」


 大会の賞金などで預金はまだまだあるが、あまり無駄遣いはしたくない。だから自炊してるんだ。こんなところでブッパしてたら、無一文になっちまう。


 なんやかんやで、今は昼下がり。どうするか


 「これからどうする?」

 「んー……玲羅さんは行きたいところとかある?」

 「今すぐ帰りたい……」


 結乃の問いに玲羅は消え入りそうな声で答える。その姿はなにかを恥ずかしがっているようだ。


 それもそうだ。彼女の今の格好はゴスロリファッション。普通の人がしても人の注意を引くが、人より容姿の優れた玲羅がしてるんだ。そりゃあ注目される。


 現に、今玲羅はお人形さんみたいなどと言われて、かなり注目されている。


 「うーん。玲羅がそう言うなら帰るか?」

 「そうだね。これ以上可愛い玲羅さんを見てたら、こっちが恥ずかしくなって死んじゃう」

 「お、おい!訳の分からないこと言うな!」

 「ほら、二人共帰る―――


 バァン!


 ―――ぞ?」


 銃声?この国で?おかしいだろ?


 「お兄ちゃん!」

 「銃だ。音からはハンドガンってことしかわからなかった。そもそも俺、そんなに銃に詳しくないしな」

 「私も。でも、これって……」

 「ど、どうしたんだ?い、今の大きい音と何か関係があるのか?」

 「モノホンだ。しかも、音の方向から、同じ階の北側からだ」


 俺は音のした方向を向くと、なんとも奇怪な光景がそこにはあった。


 銃を持った男が、女を抱える形で銃を突き付けて男を脅迫していた。


 「は、早く明美と別れろ!」

 「弘人ぉ~、助けて~!」

 「くっ、おい、聡美を離せ!」

 「お前に交渉権はない!今すぐにお前が俺から寝取った女と別れろ!」

 「知らねえよ!あいつはもう使えねえから捨てたよ!あとは本命と一緒に過ごすだけだよ!」

 「す、すてた……?」

 「ああ、そうだよ。あの女は、お前を裏切った罪悪感に耐え切れず。壊れちまったからな」

 「ふっざけるなあ!」


 バァンバァン


 今度は、銃を持っている男から二発の弾丸が放たれる。

 しかし、男は使い慣れていないのか反動で軌道が逸れる。


 「しっかし聞いてると、どっちの味方をすればいいのかわかんねえな」

 「はい、お兄ちゃん」

 「ゆ、結乃、翔一になにをさせるつもりだ?」

 「ヒーローごっこ」

 「は?」


 そう言いながら、結乃が出してきたのは、帽子と俺がいつも大会でつけていた仮面。


 「いや、結乃。俺はやるなんて……」

 「よく見てお兄ちゃん。あの撃たれてる方の男」

 「ん……?あ、あいつ」

 「どうしたんだ?」


 俺は弘人と呼ばれた男の顔をよく見ると、あることを思い出した。


 あいつ、詐欺容疑のある鎹尚樹かすがいなおきじゃね?


 「鎹尚樹?」

 「翔一、それは誰だ?」

 「シンプル。子育てとか、家事で疲れた人妻をターゲットにした詐欺師だ」

 「え?」

 「やり口もかなり滅茶苦茶で、女を夫から奪ったうえで、貢がせる。貢ぐ能力を失ったら捨てる。そういうことを繰り返してる疑いのあるやつだ。ほぼ証拠は出てるから、9割9分黒だろうけどな」

 「そんな男がなぜここに?」

 「お兄ちゃんにそんなことわかるわけないじゃん。あいつとお兄ちゃんなにかもが違うんだから」


 どうする?今この場で、どちらの味方をするべきか


 俺の心は、銃の男を救いたいと言っている。だが、世間的には銃を持った時点でアウトだ。という事は、あいつを助けなきゃいけないのか?人間の屑を?


 いや、そうじゃないな。


 「決めた。結乃、一式全部くれ」

 「わかった。と言っても、数えるほどしかないんだけどね」

 「まあいいよ。言いたいだけだから」


 逆転の発想。救うのを止めよう。どっちもボコボコにする。


 俺は結乃からもらった、マスクをつける。マスクと言っても、ペル〇ナで出てくるようなアイマスクじみたものだ。


 それでどう顔を隠すんだと聞かれるともうが、そこは大丈夫。


 「あ、あれ?翔一……だよな?」

 「ああ、このマスクから妨害波が出てて、認識を阻害してくるんだ。知り合い相手なら違和感に。知らない人なら、知らない顔として違和感がない。そして何よりもすごいのは、カメラに映らなくなることだ」

 「おお、すごい」

 「録画映像を見ると、顔の周辺にモヤがかかったようになって、認識が出来なくなる」

 「凄いな。これはどこで売ってるんだ?」

 「非売品だ。欲しいなら条下院に頼むといい。これは、美織が無理をして作ってくれたものだからな」

 「そうか。なら、諦めよう。その代わり、コスプレしてもらうからな?」

 「ああ、分かったよ。じゃあ行ってくる」

 「翔一!」


 俺が行こうとすると、玲羅に袖を掴まれて止められる。

 一つ一つの動作が可愛い


 「死なないでくれ……」

 「安心しろ。俺は無敵だ。それに、キモい厨二が考えたような意味わかんないクソキモい展開をさっさと終わらせたい」


 そうして俺は、奴らのもとに走っていった。

 まあ、不意打ちだし。多少の怪我はあっても、死にはせんだろ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「な、その銃を下ろせ。暴力は何も生まない、な?」

 「うるさい。お前みたいなゴミは死ねばいいんだ」

 「やめて、思い直して!弘人を殺さないで!」


 銃を持った男は今にも、鎹を殺しそうな勢いだ。しかし、俺は背後から忍び寄り、踵落としで脳天を打ち抜いた


 「がっ!?」

 「は?」

 「え!?」


 銃男は、気絶。他二人は、素っ頓狂な声を上げる。


 「一枚抜き……」

 「ははっ、ははは!ざまあみろ!お、俺に歯向かうからだ!あ、兄ちゃん助けてくれてありがとうな」

 「クズがよ」

 「は?聞き間違いか?クズってきこえ―――ぐふっ!?」


 ゴタゴタうるさい鎹を強烈な右レバーで黙らせる。


 「こいつは銃刀法で裁かれることになる。でもな、お前も一緒に捌かれるんだよ。―――さあ、お前の罪を数えろ」


 こうして、あまりにも呆気なく事件は幕を閉じた。

 俺はその後、早々に立ち去り姿をくらました。俺のいとを汲み取ってくれたのか、玲羅と結乃は、家の前で待っていてくれた。


 後日、銃刀法違反と詐欺の二人を同時検挙が話題になり、その二人を倒した仮面の男について話題がもちきりになることはまた別の話。


 「今のって……」

 「ああ、椎名の野郎だ」


 そしてこの顛末を見ていた二つの人影。この二人が目撃したことは、後に大問題を呼び起こす火種となってしまうのも、また別のお話

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