第33話 ショッピングだ!ゴスロリだ!

 ある町のショッピングモールで、誰もが目を見張るような、美男美女のカップルが、腕を組んで歩いている。


 「お、重い……」

 「ほらー、だから言ったじゃん。色々荷物があるから来ない方が良いよ、って言ったじゃん」

 「いや、来させてくれ。これは彼氏として当然だ。それに二人の方が楽しいだろ?」

 「そ、そんなことないし!」

 「そうか……」

 「で、でも嬉しいのは確かだし……」

 「え?なんだって?」

 「も、もう!なんでもない!ほら行くよ!」

 「あ、待って、佳奈!」


 二人は、ショッピングモール内を駆けていくかのような速さで歩いていく。


 男の方の名前は、豊西直樹。帝聖高校で―――いや、この町で―――いや、この世界で誰よりもモテる男だろう。

 顔立ちも良く、身長も高い。スポーツ万能で優しい。おつむが弱いところと鈍感なところが玉に瑕だが、そんなのは些細な問題だ。


 女の方は、八重野佳奈。帝聖高校で、最も男子から胸を哀れられている。先の会話でもわかるように、典型的なツンデレ。

 顔が良く、テニスをする姿は部内でも一番美しいとされている。豊西が彼氏でさえなければ、男など引く手数多だっただろう。


 そんな二人は、店の位置を確認するために、一度案内地図のある場所に戻ってきていた。


 「うーん、そろそろお昼だしご飯食べようか」

 「そうだな。俺も腹減ったよ」

 「じゃあ、どこ行く?私はパスタ食べたい!」

 「うーん、俺はうどんが食べたいかな」

 「パスタ!」

 「いや、俺は……」

 「パスタ」

 「い、一回話し合ってもいいんじゃないかな」

 「パスタ」

 「分かりました」


 こうして、八重野のごり押しで昼食はパスタに決まったようだった。

 だとしても、うどんというチョイスも少し突っ込みどころを感じるがそこは良いだろう。


 二人はよほど空腹なのか、 お店への移動も心なしか足早だ。


 そんな移動をする二人は、ある人物が目に入る。

 人混みの中にいる少女にだ。


 その少女は、全身黒色でフリフリが付いた服。賊にゴスロリ―――地雷系ファッションに身を包んでいた。


 しかも二人にはその人物に見覚えがあった。


 「あれって……」

 「玲羅じゃない?」

 「だよなあ……。でも何でこんなところにあんな格好で?」

 「そうだよね……」


 しかし、そんな疑問はすぐに解消される。

 その少女に近づく存在が二つ存在したからだ。


 「ほらお兄ちゃん早く来て!」

 「お前、この荷物の量を見てからものを言えよ」


 二つの存在とは、快活に笑う女の子に連れられた翔一たちだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 同刻より少し前


 俺は現在、ショッピングモールにいる。


 なぜいるかと聞かれたら、荷物持ちだ。俺だけがショッピングモールに来るなんてまずありえない。なにか理由が無ければ。


 今回は、結乃と玲羅の二人がいる。


 今日ショッピングモールに来たのは、結乃の欲しいものを買いそろえるためだ。

 彼女は、なにかと物を欲しがらないが、なにかをきっかけに欲しいものが決まると、なぜか芋づる式に他のものも買ってしまう。だから、荷物の量が膨大になるため、俺がついてきた。玲羅は、結乃に連れられて服を選んでいたが、先ほど結乃が戻って来た時に、いなくなっていた。


 「結乃、玲羅はどうした?」

 「お兄ちゃんがびっくりするような格好で待ってるよ」

 「びっくりするような格好?それより、玲羅を一人にしたのか?」

 「……?なにか問題だった?」


 玲羅を置いてきたことをすこしも悪く思っていないそぶりを見せる結乃。こいつ……。


 「あのなあ、俺が惚れてることを抜きにしても玲羅は可愛い」

 「そんなことわかってる」

 「そんなかわいい娘が、一人でいたらどうなる?」

 「スカウト?」

 「違う。いや、あってそうだけど違う。ナンパだよ」

 「はあ……」


 ナンパという言葉に、結乃は呆れたかのように溜息をする。

 なんだ、この妹は。喧嘩なら買うぞ。あ?こら。


 「お兄ちゃん過保護すぎ。玲羅さんだって、お兄ちゃん以外眼中にないよ。それにお兄ちゃんが思ってる以上に玲羅さん、筋が良いから」

 「だとしてもな……」

 「はい!お兄ちゃんの恋人を信じる。信用の無い恋人関係はすぐに終わっちゃうよ!」

 「うわっ、それは嫌だ」

 「じゃあ信じる!いい?」

 「オーケー」


 信頼関係―――というより、俺のは玲羅を縛り過ぎていたのだろうか?

 これからは自重しなければ。


 俺がそんな決心を決めると、結乃が玲羅を見つけたのか、少女を指さして俺に伝えてくる。


 「いたいた。お兄ちゃんあれが玲羅さんだよ」

 「ん!?地雷系!?」

 「そうそう。お兄ちゃん好きでしょ?オタクだし」

 「お前、俺を何だと思ってるんだ?」

 「嫌いなの?」

 「玲羅に限って大好きだ」


 そう言って俺たちは、玲羅のもとに来た。


 うわ、近くで見るとさらに可愛い。なんだこの破壊力は!?

 地雷系を身に纏って、隈などのメイクを施せば、一気にそれらしさが増すのだが、玲羅は違う。血色も良く、元気な感じだ。

 それに、地雷系は別名ゴスロリ。そう、ロリ系がいるイメージだが、玲羅は大人的な体つき。つまり、胸も尻もある。

 それらのアンバランスさが、とにかくいい!


 「やっほー玲羅さん!お兄ちゃん来たよ」

 「し、翔一……。どうだ?……やはり、こう可愛いものは私にはにあ「超にあってる」わな……へ?」


 俺のつぶやきに玲羅は意表を突かれたようだ。ボケっとしてる。


 「遠目でもよかったけど、近くだと超やばい。なにがやばいって聞かれたら全部よ、全部。もう、筆舌に尽くしがたいですな、結乃プロデューサー?」

 「そう!くぅあわいい!この一言に尽きます!」

 「気持ち悪い発音でしたが、その通りです。写真いいですか?」

 「へ?い、いや写真は……」


 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ


 「そういい!そのアングル素晴らしい!」

 「玲羅さん!そう!その恥ずかしそうな顔!いい!萌えだわ!」

 「そう!下から!恥ずかしそうな顔で見下げる!なんていい画だ!」

 「ふ、二人共いい加減にしろ!」

 「「―――!?」」


 俺と結乃は、一気に静止する。こんなに玲羅が必死で訴えようとしているのは初めてだからだ。

 やばい、怒らせたか?


 俺はとりあえず土下座の準備だけしとく。


 「二人の評価がいいのは嬉しいが、そういうのは家でしてくれ。私も家なら多少の無茶も聞けるから」

 「「ああ……尊い……」」


 ドタ


 「ど、どうしたふたりとも!?」


 俺たちは、ほんの数秒だけ気絶した。仕方ないだろう?玲羅がこんなに可愛いのがいけないんだ。俺達は悪くない!

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