第32話 普通とはいえないカラオケ

 ガチャ


 「なんだこんな朝っぱらk「カラオケするぞ!」……おいっ!」


 学校が休みになって数日後


 あの日の夜から、玲羅は毎日俺の部屋にやってきている。まあ、一緒にアニメとかを見たり、一緒に寝たりしているだけだ。


 寝ているのを『だけだ』で済ませるのは甚だ疑問だが、ここは保留にしよう。


 今の問題は、蔵敷が退院祝いのメンバーを引き連れてカラオケをするとか言い始めたことだ。


 「お前、いきなり……」

 「高校生ってこういうんだろ?文句言うな」

 「喧嘩売ってるなら買うぞ?」

 「なんでそうなる。別にタダでカラオケができる場所があるなら使うだろ?」

 「椎名、本当にそんなところがあるのか?」

 「はあ……会長もそんな詐欺みたいな誘い文句に乗らないでくださいよ……」

 「私は椎名の友人は良い奴と認識しているからな」


 この人は、玲羅と違って、色々なことを億面なく言える。そこはすごい。尊敬する。だけど、疑ってほしかったなあ


 「まあ、来たもんはしょうがねえか。ほら、入って」

 「え?駅前とかに行くんじゃないんですか?」

 「違うっすよ、六道先輩。翔一の家の地下が、カラオケルームなんですよ」

 「「「え!?」」」


 俺は、全員を家に入れると、結乃に地下にいると報告だけして、カラオケルームに向かう。


 「翔一、私はこんな部屋知らなかったぞ」

 「そりゃ言ってなかったからな。まあ、次からは言ってくれれば好きに使っていいぞ」

 「そうか。だが、使うときは翔一も一緒だぞ。お前と長く一緒にいたいからな」

 「玲羅……」

 「はいそこイチャつかない」

 「ダメだよ。蔵敷君、釘を刺しちゃ」


 そんなこんなで、俺達は家の地下室についた。


 ここは、色々な防音機能が付いている。ここでどんちゃん騒ぎをしても問題ない。ここをクラブにしても問題ない。


 やらせねえけど


 「いやあ、半年ぶりくらいか?ここに来るの」

 「そうだね。最後に来たのが、中三の夏休みくらいだったかな」

 「す、すごい、大きいです」

 「ああ、こんな一般の住宅街に地下室を……」

 「あんまりメジャーじゃないだけで、地下室作るのは割と楽にできましたよ」

 「お前が作ったのか?」

 「そんな馬鹿な。色々あって、ジジイに頼んだんですよ」


 しかし、さすがにジジイを乱用しすぎたのか、遂に会長から質問がとんできた。


 「前々から思っていたのだが、ジジイとは誰だ?」

 「…………ジジイはジジイですよ。ちょっと金持ってて、強いだけの」

 「ただものではないのか?」

 「会長、それ以上翔一のことを詮索しないでもらえます?俺達も、その話題はタブーにしてるんです」

 「そうか……分かった。これ以上は聞かない」

 「ありがとうございます」


 蔵敷の助言によって、会長の言及は止まった。こういうところはなんだかんだ友達なんだと思う。


 元ヤンだとは思えない。いや、元ヤンだから筋を通そうとするのだろうか?


 ほとんど俺のせいで空気が重くなってしまったので、まずは俺が歌い始める。


 「ほら、辛気臭いつらしてないで、カラオケだ。思いっきり歌うぞ!」

 「フォオオオオオ!」

 「「「!?」」」


 俺のコールに、蔵敷の奇声のレスポンスでどんちゃん騒ぎが幕を上げた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 カラオケ大会(仮称)が始まってから約2時間ほど経過したころ


 翔一の家の前に帝聖高校の女生徒三人が、集まっていた。


 「ここ……かな?椎名の家」

 「そうだな。ったく、カラオケとかやるなら誘えってんだよな」

 「まあまあ、途中からでもこうやって呼ばれたんだし、カリカリしないのよ白ちゃん」

 「……レンがそう言うのなら……」


 釈然としないながらも、式部白はインターホンを押す。


 ピンポーン


 しばらくして、玄関のドアを開けたのは、翔一に似た雰囲気を纏った女の子だった。


 「どちら様ですか?」

 「あれ?ここって椎名の家じゃなかったのか?」

 「白、明らかに妹さんでしょ?」

 「ここって椎名君の家でいいのよね?」

 「もしかして、お兄ちゃんの友達ですか?」

 コクコク


 家から出てきた翔一の妹―――結乃の質問に全員が頷く。


 「お兄ちゃんなら、地下室にいるんで案内します」

 「地下室なんてあるの?」

 「もしかして、そこでカラオケをやってるんじゃない?」

 「だとするならあ、すごいわねえ」


 そうして全員が、結乃についていく。


 そして、少し歩いた先に地下室の部屋の扉らしきものが現れる。


 「この部屋に入ったらそのうち慣れると思いますけど、耳を塞ぎながら入った方が良いですよ」

 「どういうこと?」

 「茉奈ちゃん、ここは郷に入っては郷に従えよ。一応耳を塞いでおくべきよ」

 「わかった……」

 「じゃあ、覚悟してくださいね」


 そう言って、結乃が扉を開くと


 「「ダ――ビ―エ――ス!!!!!」」

 「「「フォオオオオオ!」」」


 部屋の中から響く音は、今までの空間は無音じゃなかったのではないかと疑うレベルのうるささだった。


 「み、耳が……」

 「なにか歌ってるけど、うるさすぎて聞き取りきれない……」

 「情熱的ねえ」

 「なんでレンは大丈夫なのよ!」


 それから数十秒程度で、音楽は止まり、一気に静かになる。


 すると、三人が来たことに気付いた玲羅がステージを降りて近づいていく。


 「三人とも来てくれたのか」

 「ああ、来た……来たけどなあ!」

 「ど、どうした?」

 「耳がつぶれるかと思ったわ!」

 「まあ、そう言わないの。早く参加するわよ。このお祭りに」

 「あ、待ってよ白、レン」


 菊島レンに連れていかれた白に続いて、茉奈もそれについていく。


 取り残された玲羅のもとに、翔一が近づいてくる。


 「三人も呼んだのか?」

 「ああ、友達は楽しみを、恋人は幸せを共有するものだろ?」

 「ふふっ、なにその名言?」

 「なんか、カッコいいだろ?」

 「それもそうだな。俺を大事にしてくれるのもいいけど、友達も大事にするんだぞ玲羅」

 「当たり前だ。そんな私だから、お前は私を好きになったんだろう?」

 「たしかにな」


 そんな二人は、手を繋いでステージに戻る。そしてそのまま二曲目に続く。


 「えー、今の曲は最近玲羅と一緒に見たドラマの主題歌です。続きまして、私たちの友人三名をさらに客席に向かえまして歌うのは―――」


 そこから三曲ほど、翔一は玲羅とのデュエットをして、聴き手側のメンバーを沸かせた。


 こうして、とてつもなく騒がしい一日は、あっという間に過ぎず、またしても翔一が料理を作って全員にふるまって、全員が翔一の家に泊まっていった。

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