第35話 お兄ちゃんは非……

 シュルルル


 ショッピングなどで、色々なところを歩いたことで、疲弊した玲羅は、風呂に入るべく脱衣所にいた。

 一糸纏わぬ姿で、玲羅は鏡の前に立つ。


 「少し太ったか?」


 そう言いながら、玲羅は自身の腹の肉をつまむ。


 しかし、そう言うものの玲羅の体はしっかりとした体つきをしているだけだ。

 女性的なラインをしっかり保った、その体系はもはや芸術といえよう。


 「太ってなんかないと思うよ。玲羅さん、元から色々と大きいから」

 「わひゃあ!?―――急に背後に立つな!」

 「ごめんなさい。でも、結構深刻そうに自分の腹をつまんでるもんだから」


 玲羅の背後から、突如音もなく現れたのは、翔一の妹の結乃だ。

 彼女も彼女で、いつ着替えたのか、一糸纏わぬ姿で立っている。


 「玲羅さん、一緒に入ろう!」

 「べ、別にいいのだが、次からは少しくらい声を掛けてくれ……」

 「あはは、気を付けるよ」

 「本当に気を付けるのか?」

 「信じるか信じないはあなた次第です!」

 「……」

 「さ、入ろう入ろう」


 そうして、玲羅と結乃は久しぶりに一緒に風呂に入った。


―――洗身中―――


 二人はひとしきり体を洗った後、湯船に浸かる。


 浴槽は、二人が入っても大分ゆとりがある広さだ。


 「何度見ても玲羅さんのおっぱい大きいなー」

 「な、なにを見ている!」


 玲羅は、結乃の言葉に対し、自身の腕で胸を隠そうとする。しかし、そんなもので隠せるほど玲羅自身の胸は小さくない。


 「結乃は私のを大きい大きいとは言うが、結乃も大きいのではないのか?」

 「たしかに結構ある方だけど、みんな私のお腹を見ると、そっちに注目するから……」

 「ああ……でも、いい体だと思うぞ?」

 「こんなに腹筋割れてても?」


 玲羅の視線は、結乃のお腹に注がれる。その先には、しっかりと割れた腹筋があった。

 結乃も、武術宗家の家の出身。体を鍛えているのは、なんら不思議ではない。だが、一般の人達からすれば、結乃の筋肉量は異常なのだ。


 「私は努力の証だと思うし、引き締まったいい体だと思うぞ?」

 「玲羅さんにそう言ってもらえるのは光栄かな?」

 「なぜだ?普通にほめているだけなのだが?」

 「何故って、こんなに立派なものを持っているのに?」


 フニュ


 結乃は突然、玲羅の胸を鷲掴みにした。


 当然、玲羅は飛び跳ねる様に驚く。


 「うひゃあ!?なんだ急に!?」

 「うーん、これは前より大きくなっている。これ以上戦闘力が上がるだと?」

 「も、揉むな!や、やめろ!やめてくれえ!」

 「この感触は癖になってしまいそうだ……」

 「ぅん……もうやめてくれ……」


 結乃に胸を揉みしだかれた玲羅は、しばらく再起不能になってしまった。


―――玲羅再起動中―――


 しばらくして玲羅が復帰し、落ち着きも取り戻せるようになってきた頃


 「さて、ここからは真面目な話をしようと思います」

 「急にどうしたんだ?」


 まだ胸に感触が残っている玲羅からしたら、結乃のこの変わり身の早さには全然ついていけない。


 「玲羅さん、お兄ちゃんのどこが好き?」

 「は?質問の意図がわからないのだが?」

 「そのまんま。お兄ちゃんのどこが好き?」


 その質問は玲羅にとって難問だった。

 なぜなら、翔一の好きなところと言われてもピンとこないからだ。


 別に玲羅が薄情というわけではなく、玲羅は翔一の全てが好きなのだ。だから、どこが好きかと聞かれたら困ってしまうのだ。


 「私はどこが好きとかではなく……」

 「それじゃダメ。明確に一つでもいいから答えを出して」

 「―――時には優しく。時には激しく私を抱きしめてくれるところ。ここが翔一の一番好きなところだ。翔一は私の求める抱擁ハグをしてくれる」

 「70点」

 「は?」


 結乃の採点に、玲羅は戸惑ってしまう。それが70点「という微妙な点数となればなおさらだ。


 「その答えは70点」

 「な、なんで他人に好きなところを採点されなければならないんだ!」

 「玲羅さんは、豊西先輩にフラれて、割とすぐにうちに来ましたよね?」

 「それはそうだが?」

 「それから2か月でお兄ちゃんと付き合った。でも、お兄ちゃんを好きになったのってもっと前、フラれてから1か月も経ってないよね?」

 「―――っ!?それはそうだが……」

 「私はね、お兄ちゃんに良い人と結婚してもらって幸せになって欲しい」

 「そ、それなら私が翔一を幸せにする!」


 ここで、力強く結婚相手に名乗り出ることのできる玲羅。賞賛に値する行為であるし、翔一が本気で好きであることの表れだろう。


 しかし、結乃は口撃は続く。


 「私は、そんなに早く心変わりする人が浮気しないだなんて思えない。ちょっと夫婦関係が上手くいかないからって、他の人が好きになるんじゃないかって」

 「わ、私はそんなことはしない!」

 「でも、豊西先輩から乗り換えるのは早かったですね?」

 「そ、それは……」

 「私は恋人関係くらいまでなら笑ってみてられます。でも、契約という形を挟んだ結婚は、そうはいかないよ。多分、浮気なんかされたら、お兄ちゃんは立ち直れなくなっちゃう」

 「私は……浮気なんて……」


 浮気なんてしない。それを言い切れるくらい玲羅の気持ちは強いものではあるが、結乃の意見はそれらを無意味にするほどの正論。


 玲羅は何も言い返せずに、委縮してしまう。


 「玲羅さんが浮気しない。そういうのは分かってるし、今の状態ならしないと思う。でも、間違いが生じるのが人間。お兄ちゃんを裏切らないと誓えますか?裏切ったらどうしますか?」

 「誓う。私は一生涯翔一を愛し続けることを誓う。もし裏切ったらなんていらない。そんな未来は無いから」

 「―――そう……。なら、最後。お兄ちゃんは非童貞です」

 「―――っ!?ど、どういう事だ?」

 「相手は姫ヶ咲彩乃。あや姉が自殺する直前の夜、体を結びました。質問です。あなたはそれでも彼を愛せますか?」


 正直、玲羅にとって翔一が童貞じゃないことは驚きだし、ショックでもあった。だが、気持ちが覚めるなんてありもしなかった。


 「だからなんだ。私は翔一が童貞だから好きなのではない。私は私を救ってくれた王子様の翔一が好きなんだ。愛するに決まっている」

 「その言葉信じてもいい?」

 「ああ、絶対に裏切らない」

 「じゃあ、信じるよ玲羅姉れいらねえ


 玲羅ははっとした。自分が試されていたこと。ここで翔一を裏切るようなことを言っていたら、玲羅自身に居場所がなくなっていたかもしれないと。


 「あ、玲羅姉。お兄ちゃんがあや姉とセックスした話は、他の人に知られてないと思ってるから、ふれないでね」

 「ああ、わかった。翔一は私が支え続ける」



 こうして、二人の話は終わり、入浴時間は終了した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「翔一」

 「ん?どうした、玲羅」


 翔一はテレビを見ている。翔一は日々、アニメだけではなく、世界情勢や内政にも興味を向けている。

 だから翔一はテレビを見ていることが多い。


 「翔一は私のことは好きか?」

 「愚問だな。愛してるぞ」

 「私もだ」


 そう言うと、玲羅は翔一の胸に飛び込んだ。


 「私はずっとお前のもとにいる」

 「じゃあ、俺も玲羅の隣に居座り続けるよ」

 「お互い、支え合っていこうな?」

 「ああ、一緒に愛し合って生きていこう」

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