第30話 バオウ・ザケ……

 「せーのっ!」

 「「「「退院おめでとー!」」」」


 現在、退院した俺の快気祝いとして、俺の家でどんちゃん騒ぎが始まったしだいだ。

 だが、これだけは言わせてくれ。


 快気祝いならな……俺をいたわるのなら……


 「なんで俺が料理作んなきゃいけねえんだよっ!こういうことしてくれるのは、嬉しいけどもっ!」


 そう俺が文句を垂れると、俺の料理を食べたことのある4人が、口をそろえて言う。


 『だって、翔一「椎名君」「お兄ちゃん」の料理が一番美味しいんだから』

 「「そんなに美味しいの?」」


 こいつら……。褒めてくれるのは良いのだが、それとこれとでは話が違うだろうに。


 今回、俺の退院祝いのために家に来てくれたのは、内藤を除いた生徒会メンバーと、蔵敷と矢草だ。

 そして、玲羅と結乃がいるのは自明だ。


 「いやー、こいつの飯は本当に美味しいんですよ、会長」

 「ほう、そんなにか。なら、ここは期待させてもらおうじゃないか」

 「おい、元ヤン。ぶっとばすぞ!」

 「ああ!?やってやろうじゃねえか!」

 「あ、あの、二人共喧嘩は良くないんじゃ……」

 「「マロカーで勝負だ!」」

 「「「…………」」」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 マロカー

 言っちゃえば、ゲームシステムはマリカーだ。シンプルなレースゲームだ。ちなみに俺は、このゲームのレートは4万を超えてる。


 蔵敷もこのゲームの経験者で、こいつもレート4万を超えてやがる。


 「ルールは簡単。星杯の成績が良かった方の勝ちだ。ミラーでいくぞ!ミラーで!」

 「上等だ。叩き潰してやるよ、蔵敷さんよお!」


 俺たちはほかのメンバーをよそに白熱していく。


 「なあ、蔵敷と翔一は仲が良いのか?」

 「そうだね。蔵敷君は、椎名君の転校初日に殴り込みに行ってたからね」

 「それとなんの関係が?」

 「椎名君、たまたま現場を通りかかってね。しかもその時、蔵敷君やられかけてたんだよ。でも、椎名君は気まぐれで助けたんだ。そこから紆余曲折あって、あそこまでの仲になったんだ」

 「そうか……あいつらの仲のいい姿を見ていると、少し妬けてくるな」

 「アハハ!そりゃないよ!椎名君は、良くも悪くも天羽さんしか見てないから」

 「そ、そうか……」


 矢草と玲羅が何かを話していて、玲羅の顔が赤くなっていたが、なにがあったんだろうか?


 そんなこんなで、もうすぐレースが始まる。


 「へっ、翔一、お前は絶対にビビンバしか選らばないんだな!」

 「ふっ、ク〇パだけにビビンバか……」

 「クッパ……?焼肉でも食っとけ!」

 「わけわかんねえよ」

 「こっちのセリフだよ!」


 俺が選んだのは、重量級のビビンバだ。スリップストリームは拾いづらいが、体当たりに強くなる。

 対して、蔵敷が選んだのは、マルオ。マリオだよマリオ。超バランス型だ。


 そしてレースが始まる。ちなみに、ネット対戦ではない。今回の対戦は、俺と蔵敷の一騎打ち。他人は必要ない。


 初期配置は―――チッ、蔵敷が前か……


 「この勝負もらったぜ、翔一」

 「初期配置が勝負を分けるようなゲームじゃないの、お前もわかってるだろ、蔵敷」

 「いつになったら、俺の名前を呼んでくれるんだ?」

 「呼びたかねえよ」

 「悲しいねえ」


 3 2 1 スタート!


 俺たちは、スタートと同時にスタートダッシュを決める。すごい日本語が終わってそうだが、その通りにゲームは進んでいく。


 スタートダッシュを決めた俺たちは、CPUに目もくれずに最初のアイテムボックスのところに到達する。


 この時点の順位は、蔵敷一位、俺が二位という感じだ。

 だが、序盤など前戯に過ぎない。ここからが勝負だ!


 「だー!ここでバナナはいらねえよ!」

 「ふっ、こっちはコインだ」

 「クッソ―!三位のCPU赤甲羅投げろ!」

 「運に頼んなや!」


 そのまま、レースは進んでいき、最初の均衡は保たれて、順位は先ほどと同じだ。


 蔵敷のやつ俺が前に出ると、とんでもないコントロールで甲羅を当ててきやがる。


 「はっはー、この勝負もらったあ!」

 「それはどうかなっ!」


 俺は、必中の赤甲羅を蔵敷に当てる。しかし、アイテムブレイクされてしまう。


 「残念でしたー。ケツガードしてるんですー!」

 「でも、一発しか防げねえだろ!もう一発!」

 「なにぃ!?」


 見事に、二発目の赤甲羅はヒットして、マルオをダウンさせる。その隙に俺はゴールした。


 「クッソオオオ!」

 「フハハハハハ!俺の不敗神話は止まらないぜ!」

 「お前、俺に何回も負けてるだろ!」

 「知らないなあ!」

 「ぐぬぬ……」


 そんな俺たちの姿を見て、一同は呆れている。


 「マロカーで、高校生がこんなに盛り上がってる初めて見たぞ……」

 「そうですね。やっぱりあの二人だから盛り上がれるみたいなところもあるんですよ」

 「でも、会長。あの二人、とても楽しそうです」

 「六道、お前は良いと思うのか?」

 「当たり前です。あんなに楽しそうに、笑顔で楽しんでるの、羨ましいです」

 「そうか……天羽はどうだ?彼氏があんなにはしゃいでるのを見て」

 「へ?私ですか?」


 突然話を振られた玲羅は少々戸惑うが、すぐに答えを出す。


 「翔一が楽しんでる。それだけでいいことなんですよ。私も翔一が笑顔な方が良いですから」

 「そうか……そういうものなのか?やはり、椎名は【ショウ】の印象が強くて、ゲームに対してクールな姿しか知らないからな」


 そんなことを話していると、翔一たちの第2レースが始まった。


 第2レースは何もなく、順当に翔一が1位になったが、蔵敷は凡ミスで4位に順位を落としてしまった。


 「これは俺の勝ちかな?」

 「いいや、まだ分かんねえ」

 「いやー、がんばるねえ!」


 続く第3レース、出だしこそは順調だったが、最後の最後で問題が発生した。


 「あ!?誰だよ、青甲羅投げたの!」

 「おっしゃラッキー!1位はもらったあ!」

 「くっそ、でもこのままならポイント的にはまだ俺が勝ってる」


 そう言って、体勢を立て直してゴールしようとすると、キラーに跳ね飛ばされる。


 「ああああああああ、コンピューターアアアアアアアア!」

 「うおっしゃああああああ!」


 最終的な順位は、蔵敷一位、俺九位。総合得点も抜かされてしまった。


 すると、途端に蔵敷がイキり始める。


 「あれれー?さっきまでの威勢はどうしたのかなあ?」

 「うるせえ!そこまで点差は開いてない。ていうか、俺が一位を取れば俺の勝ちだ!」

 「ざんねーん。次は俺の得意なコースだ」


 そうだった。忘れてた。こいつ、星杯のファイナルステージだけ異様にうまいんだ。


 俺も、このコースだけは一度も勝ったことがない。


 「ま、まだ分かんねえだろ!」

 「へっへー、勝ちはもらったぜ!」


 むかつく!


 そして始まったファイナルステージ。また、俺が一位に躍り出て、先ほどとは違ってキノコで青甲羅も回避した。


 「翔一……」

 「んだよ」

 「俺は決めたよ。マルオを王にする……」

 「は?」

 「もう、こんな戦いが起きないように、マルオを優しい王様にする」

 「お前、まさか……」


 あいつの順位は二位。そんな当たるはずがない。いや、ストックか!


 確かにこいつはさっきまで下位をウロウロしてた。

 今、当てられたらまずい。こいつの変態テクで距離を大分詰められてる。


 「消費するエネルギーもあれば、溜まっていくエネルギーもあるんだよ!」

 「お前、思いっきりパクッて……」

 「バオウ・ザケ……」

 「言わせねえよ!」


 蔵敷がゴールギリギリでサンダーを使ってくるが、俺も負けじとキノコを使って加速する。


 すると、コンマ何秒かの差で、俺のゴールの方が早かった。


 「よっしゃあああ!」

 「なんだとおおおおお!」

 「アハハハハ!俺の勝ちだ!」


 というわけで、俺は蔵敷との勝負に勝利し、副賞としてジュース一本が贈呈されましたとさ。


 それから俺の退院祝いは続き、俺の料理に舌鼓を打ってもらったところでお開きとなり、解散した。


 「じゃあ、椎名。」

 「はい、会長。次の登校日で」

 「ああ、寂しくなるよ。お前と会えなくなるのが」

 「ハハ、冗談を」

 「本当かも知れないぞ?」

 「からかおうったってそうはいかない。会長が、男としては俺に興味持ってないのは分かりますよ」

 「アレ?そこは勘違いするところじゃないのか?」

 「俺、そこまでどんくさくないですよ。玲羅一筋だし」

 「そうか。本当に大事にしろよ」


 それだけ言い残して、会長は帰っていった。


 だが、俺達の休校期間はまだ始まったばかりだ。

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