第29話 サイン
朝10時
さわやかな朝の平穏をぶち壊す、女が一人、現れる。
「おい、椎名!これはどういう事だ!」
見舞いOKの時間になった瞬間に生徒会長が、奇声を上げながら俺のいる病室に入って来た。
そして、会長の手にはスマホがあり、その画面にはあるネットニュースの記事が映っていた。
「どういう事も何も、そういう事ですよ」
「お前、ABAXのゲーマー【ショウ】だったのか!」
「まあ、そうですね。身バレがめんどいんで仮面被ってたんですけど、あれも邪魔なんで次出る時はつけなくていいかな?」
「そう言う話をしているんじゃない!」
ちなみにABAXは、前の世界での通称【エペ】のこの世界版だ。
俺ことゲーマー【ショウ】は、狙撃だけなら世界一と言われるプレイヤーだ。何度か、国内の大会で優勝経験があり、国際大会でも入賞経験がある。
自分でいうのもなんだが、ぶっちゃけゲームで食っていける。
ジジイからの仕送りで、今は生活しているが、今後結乃の高校や大学の費用はあるに越したことは無い。
それに、金があるならその分、結乃のやりたいこと。そして玲羅と過ごすための余裕ができる。
まあ、玲羅と過ごすことが多かったから、最近は全く活動してないんだけどな。
俺の部門は【ランダムマッチ】
即席のチームでどれだけの成績を残せるかを競い、全部で10試合行い総合成績で結果を決めるもの。故に俺には、チームメイトがおらず、迷惑をかける相手もいないため俺は休みたい放題という事だ。
俺が、脳内で説明をしていると、会長がわなわなと震えている。
なんかやばいことした?
「そういう事は、早く言ってくれ……」
「会長……?」
「さ……さ……」
なんだ、会長って暴力系……?ヒス系……?いや、そんなキャラ設定はなかったはず
じゃあ、なんだ?
「ささささ……サインくださいっ!」
ポク ポク ポク チーン
「は……?」
俺は、唖然として言葉が出ない。え、サイン?
「サインをください!ファンなんです!」
「!?」
「なにをそんなに驚いている?あんな華麗にライフルで狙撃を決める姿。見惚れてしまうじゃないか!」
「!?」
「というわけだ。サインをくれ!」
「どういうわけだよ!」
俺は、あまりの展開に困惑していると、六道先輩が遅れてやってきた。
「会長、落ち着いてください。椎名君、ごめんなさい。会長は、結構ゲーム好きで大会とか見てるんです。そんな中でも、椎名君の【ショウ】って言うプレイヤーの狙撃が鮮やかだ!って、いつも言ってるんです。」
「それは嬉しいですけど、ぶっちゃけ狙撃プレイヤーってあの手のゲームで嫌われるんですよね。なのになんで俺なんですか?」
「嫌われても、自分のプレイスタイルを変えずに華麗な狙撃をする姿。カッコいいではないか!」
「「会長落ち着いて」ください」
まさか、会長がこんなにも熱狂的なファンなんて思わなかった。でも、悪い気はしない。
俺は渡された色紙(どこからか出てきた。四〇元ポケット?)に、サインを書いて会長に渡す。
「ありがとう!宝物にする!」
「なんか嬉しいですね、こういうの」
ツンツン
会長に色紙を手渡したら、後ろから肩をつつかれる。誰かと思い、振り返ると六道先輩だった。
「私にもサインをください」
「え、ファン?」
「いえ、売れそうなので」
「あんた最低だな。普通言わないよ、本人の前で」
「冗談です。あなたと知り合いという証拠が欲しいんです」
「なんか変な感覚だな……はい、大切にしてくださいね。売られてたらちょっとだけ傷付くかもしれないですよ」
「大丈夫です。私、フリマアプリとか使ってないので」
なんやかんやでそれから1時間ほどが経過した。というか、暇なのだろうか?この二人は朝早くから俺の病室に来て。
そう思っていると、今顔を見たいランキング1位が病室にやってきた。
「翔一……ずいぶん楽しそうだな……」
「な、なんで急にヤンデレ風味!?」
「冗談だ。見舞いに来たぞ、翔一」
そう言って笑う玲羅。ああ、天使はここにいる。滅茶苦茶可愛いじゃないか。
「じゃあ椎名。あと二人でごゆっくり」
「椎名君、さようなら」
「あ、二人ともありがとうございました」
玲羅と入れ替わるように、会長たちは帰っていった。
「翔一、体は大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。心配してくれてありがとうな」
「よかった……」
胸に手を置いて安堵する玲羅。超エモい!超かわいい!超天使!
「そう言えば結乃は?」
「結乃は、矢草と一緒に遊びに行った」
「そうか。ならいいか」
「あの二人は仲が良いのか?」
「仲が良いどころか、両思いだぞ?」
「えっ!?」
その言葉に驚きを隠せない玲羅。そりゃそうだ。恋とは無縁みたいな性格をしている結乃が、恋をしているかもしれないという話だ。まず、驚かない方が凄い。
「矢草が結乃に惚れた感じだな。結乃もなんだかんだ矢草だからこそ惹かれたって感じ」
「そうか……妙に仲が良いと思ったが……。両思いか……実ると良いな、その恋が」
「実るさ。両思いだぜ?俺達みたいにラブラブになれるさ」
「ら、ラブラブだなんて……」
ラブラブ、その単語に恥ずかしくて赤面してしまう玲羅が可愛い。
実際、言い逃れが出来ない程、俺達はイチャイチャしている。俺があらぬ疑いを掛けられなければ、学校公認になれたかもしれないレベルに。
そんな俺も、真っ赤な顔で照れる玲羅を見ると、シたくなってきた。
「玲羅、髪の毛にほこりがついてる」
「えっ!?どこだ?」
「ほら、こっちに来て。取ってあげる」
そう促すと、玲羅は頭を俺に近づけてくる。テンプレみたいな動きだが、玲羅は思惑通りに動いてくれる。
「これでとれるか?」
「ああ、これで思う存分できる」
「え?……あっ……」
俺は近づいてきた玲羅の頬に手を添える。すると、俺の思惑を理解したのか、目を閉じて口を少しだけこちらに差し出してくる。
「んぅ……しょう……いち……」
「れい……ら……」
しばらくは唇を合わせるだけのキスだったが、次第に過激になり、最終的に舌まで入れてディープキスにまで発展した。
それから、俺達は10分も唇を重ね合っていた。とても気持ちよく、心地よい時間だった。
しかし、顔が至近距離になったからだろう。俺は気付いてしまった。
「玲羅、寝てないな。いや、寝れてないのかな?」
「気付いてしまったか……。実は、お前が心配で最近は全く寝れていないんだ」
「ふーん……。じゃあ、おいで」
「わひゃぁ!?」
俺は、玲羅をベッドの中に引きずり込む。すると、びっくりしたのか玲羅が素っ頓狂な声を上げている。
引きずり込まれた玲羅は、俺と向かい合うように寝転がる。
「本当に良かった……。翔一が死ななくて……」
「大丈夫。俺は死なない。もう、玲羅を残して死んだり、死のうとしたりしないから」
「約束してくれるか?」
「ああ、約束する」
俺は、玲羅に約束のキスをした。それで安心したのか、だんだんと玲羅の瞼が閉じられていく。
それに追い打ちをかける様に、玲羅の頬を撫でる。
「んぅ……気持ちいい……すぅ……」
「おやすみ……玲羅……ちゅ」
それからしばらくして、見舞客が来た。
「やっほー翔一。見舞いに来たぜー!」
「来るな」
「は!?」
俺はやってきた蔵敷を俺は、来ないようにする。なぜかって?
俺は、玲羅の寝顔を見る。
「―――この寝顔を見ていいのは俺だけだぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます