青春と野球とチームプレー

第21話 再臨

 「野球?」


 俺と会長の仕事がひと段落したころ

 話は、これから訪れる最初の行事についての話だった。


 「ああ、うちの学校は毎年球技大会、もとい野球で親睦を深める。球技大会とは言うが、毎年野球をやっている。」

 「野球ってことは、女子は違うスポーツをやるんですか?」

 「なに言ってるんだ?」


 あ、野球=男のスポーツ。どこかでそう思っている自分がいる。とても失礼なことだ。よく思い出せ、中学野球では、女子のメンバーがいることも不思議じゃなかったろ?


 「女子は応援だ。」


 おっと、想像していない方向の回答が来たぞ。なんだ応援って。


 「は?え、女子も野球をするとかじゃなくて?」

 「いいや、女子は応援だ。」

 「駄目だ。日本語が理解できなくなった。」

 「なにを言っているんだ?お前だって、天羽に応援されたら、嬉しいだろうに。」

 「そりゃ嬉しいですけど。」


 なぜ、女子はスポーツで戦わない。いや、漫画の世界だからか?この世の不条理は全てこれで通るというのか?


 「そういえば、椎名は野球は出来るのか?」

 「まあやってましたし人並み以上にできるかと。」

 「へー、ちなみに大会ではどこまで行けたんだ?」


 この質問、よくあるラノベの主人公なら、「やれやれ、僕は目立つのは好みじゃないから、あえて本当のことは隠そう」とかのたまうんだろうが、俺はちゃんと、正直に答える。

 隠すことに意味はない。そもそも、ひけらかす機会もそうそうないから問題ないだろ。


 「まあ、最後の大会で全国優勝しましたね。」

 「す、すごい。ちなみにお前は出場していたのか?」

 「まあライパチっすけどね。」

 「いいや、試合に出ているだけで十分すごいぞ。」

 「そうなんだけどなあ。やっぱり、人は立たされている状況のさらに上を求めるというか、なんというか。」


 自分でいうのもなんだが、基本何処でもできたと思う。ライトとかの外野だけじゃなくて、ファーストとかの内野もなんだかんだ出来たと思う。


 ピッチャーは、あの時のエースの方が圧倒的に適任だったと思ってる。


 でも、釈然としないなあ。せめて打順上げて欲しかったなあ。


 それにしても、球技大会か……。久々に、ジョギングでもするか。体がなまるといけないし。


 そういえば―――


 「野球ってどこでやるんですか?うちの学校のグラウンドだけじゃ、試合できないでしょ?」

 「そこは大丈夫だ。近所の市民球場を借りて、3日にわたって開催するからな。」

 「規模、どうなってんだよ。」

 「こら!生徒会で年上にため口を使わない。」

 「あ、すいません。」


 にしても球場か。胸が高鳴るな。久々に野球をするという感覚もしかり、初心者と上級者が入り混じってる試合なんて、面白くなる予感しかない。


 ん?待てよ。男子は野球。女子は応援。


 これって、露骨な運動神経だけ主人公あからさまヨイショじゃん!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「翔一、一緒に帰ろう!」

 「ああ、一緒に帰ろう。」


 生徒会の仕事も終わって、すっかりあたりも暗くなり、最終下校時刻をすぎたころ。ようやく俺たちは、生徒会から解放されて帰路につくころだった。


 その時、流れる様に手を繋いできた玲羅は非常に機嫌がよかった。


 「ふふーん♪」

 「どうしたんだ、玲羅?」

 「ん~?それはだな、翔一、お前の活躍を見れるからだ。お前、野球得意だろ?」

 「まあな」

 「だから楽しみなんだ。好きな人が輝いてる姿を見れるのは。」


 そう言いながら、玲羅は腕を絡めてきた。最近の玲羅はスキンシップが激しくなってきた。

 いや、嬉しいし、なんなら色々高ぶってくる。そんな欲望は絶対にぶつけちゃいけないんだけど。


 「二人共、そこまでだ!」

 「「こ、この声は!?」」

 「二人してノリが良いな……。本当に仲が良いな。」


 やっぱり、同じノリが出来るっていいよね。なんかこう、あれだから。


 「白銀会長、私たちは付き合ってるんです。仲が良いのは、そういう意味では当然です。」

 「でも、天羽。お前、見てる感じ、椎名に与えられてるばかりじゃないか?」

 「え、それはどういう?」

 「誰かに何かをもらうのは、嬉しいことだ。でも、与えられてるばかりじゃ、相手は冷めてしまうぞ。」

 「そ、そんな。翔一!」


 そ、そんなに涙目になることか?


 「会長、ちゃんと俺はもらってますよ。俺の作った料理をいつも『おいしい』って言ってくれながら食べてくれるし。誰も傍にいないのに、玲羅だけは傍にいてくれる。これだけで十分ですよ。」

 「で、でも翔一。私は住むところまで提供されている。それに見合ったものは返せていない。」

 「だから、玲羅がそばにいてくれる。それだけで幸せなんだ。それでも、玲羅が足りないって思うのなら、毎晩、1日1回でいいから抱擁ハグしてほしい。」

 「そ、そんなことでいいのか?なら今日からしよう。」

 「ちょっと待って、なんであなたたち、ナチュラルに同棲してるの?」


 会長が、俺と玲羅の甘々な空間を壊しやがった。無視だ、無視!


 と、そこに最近は忘れかけていた奴が話しかけてきた。


 「そうですよカナメ先輩!玲羅に言ってあげてください。騙されてるって。」

 「豊西……。」


 さあ、主人公の再臨だあ。


 「玲羅、その男はクズだ!幼馴染をレイプして、自殺に追い込んで、あまつさえ玲羅を騙してる。」

 「お前が翔一の何を知っている?」

 「レイプ魔」


 パァン!


 瞬間、あたりに乾いた音が響いた。


 「れ、玲羅?」

 「名前で話しかけるな。というより話しかけるな。お前は八重野と過ごしていればいいだろう?なぜ、私に構う。」

 「それは、大切な友達だからだ!友達だから助けるのは当然だろう?」

 「誰が助けてくれと言った!」

 「それは……!恋は盲目って言うだろ!騙されてることに気付いてないんだよ!聞いてるだろう、その男が幼馴染をレイプしてっていう事は。」


 恋は盲目?笑わせるな。一番物事が見えてないのはお前だよ、豊西。


 「翔一は、人をだますような低俗な人間じゃない。それに、今なら私は翔一に襲われてもいい。それで、翔一の心の穴が埋まるのなら!

 もう、私に関わるな!もう、私の恋を邪魔するな!」

 「ぐっ……。玲羅、分かったよ。君が目を覚まさないのなら。―――椎名翔一、決闘だ。」


 は?何言ってんだ?本当にこいつ、奇行しか起こさないな。


 「ヤだよ。犯罪者にはなりたくないから。」

 「は?何言ってんだよ。」

 「知らないのか?なら教えてやるよ。かなり古い法律だが、明治時代に決闘を禁止する法が、刑法で定められている。常識だぞ。しらないのか?」

 「ふざけんな!」

 「なんでそうなる。俺はふざけてないし、いたって真面目だ。お前がどう思おうと知ったことじゃないが、決闘する場合、お前はなにを賭けたんだ?」


 条件によっては考えよう。法に抵触しない方法を。


 「俺が勝ったら、椎名が玲羅に近づかないこと。お前が勝ったら、今まで通りにすればいい。」

 「馬鹿なのか?」

 「なんだと!」


 俺になんのメリットがあるんだ、これ。なぜ、こいつはノーリスクで決闘が行われると思ってるんだろうか?


 ああ、俺と玲羅が付き合ってること自体が、リスクだと思ってるのか?

 頭お花畑かよ。


 「そこまでだ。」

 「カナメ会長……。」

 「豊西、お前は帰れ。とっくに下校時刻は過ぎている。後の話は私がしておこう。」

 「じゃ、じゃあお願いします!」


 おお、鶴の一声とはこのことか。会長の一言によって、豊西が帰っていった。豊西、お前はアホの権化だ。


 アホの権化……バカ息子……どこかで同じことを言ったような……。


 ああ、それよりも


 「会長、助かりました。」

 「いや、どうという事はない。それよりも大変だな。あんなのに付きまとわれて。」

 「そうですよ!翔一との時間があいつのせいで、嫌な時間になってしまう。翔一、手を繋いでくれ。」

 「はいはい。」

 「む、めんどくさいと思ったろ?」

 「思ってないよ。可愛いと思ったんだよ。」

 「そ、そうかー?えへへ、可愛い。」


 チョロい


 おっと、これを本人に聞かれるのはまずい。めんどくさいとは思っていない。今の玲羅はとても愛らしく見えた。本当に、大好きだ。愛してる。


 「ふぅ、私はもう帰ろう。これ以上お前達と一緒にいると、砂糖を吐きそうだ。」

 「あ、そういう病気?お大事に―」

 「椎名、お前分かって言ってるだろ?」

 「はは、何のことやら。」


 会長がジト目で見てくる。マニアにはたまらないだろう。


 それから、会長はすぐに俺たちの目の届かないところまで消えてしまった。


 「帰るか」

 「そうだな、翔一。」


 俺達も、家に帰ることにする。早くしないと、結乃が腹を空かして倒れてそうだ。


 「翔一」

 「……ん?」

 「愛してる」

 「~~~っ!?」

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