第20話 生徒会メンバー

 ボクシング騒動が幕を閉じ、俺達は今生徒会室にいる。


 「では、最初に言った通り、君には生徒会副会長を務めてもらう。仕事内容は主に生徒会長である私の補佐だ。」

 「あ、改めてだけど強制なのか……。」

 「取り敢えず、生徒会メンバーたちに、それぞれ自己紹介をしてもらう。六道、お前から自己紹介をしろ。」

 「分かりました。」


 会長に自己紹介をするように言われた六道と言われる人は、一歩前に出る。


 初見での第一印象は、しっかり者。紫色の髪をショートで揃えたメガネっ娘。ヒロイン候補かな?それくらいに容姿が整った女子だ。


 「生徒会会計の六道真奈美りくどうまなみ。趣味は読書。」


 …………


 ―――え、それだけ?


 「コラ六道、もっと喋らんか。」

 「でも、これ以上喋ることなんてないですよ会長。」

 「あるだろ。なにか捻りだせよ。」

 「アバウト過ぎませんか?」


 会長が六道先輩の自己紹介に文句を言ったために、やり直しとなる。同情するぜ。


 「では、仕切り直して。私は六道真奈美。趣味は読書。生徒会の会計をやっています。昔から敬語で喋ってたので、後輩が相手でも敬語で接します。」

 「よろしい。では次に行くぞ。」

 「俺には一言増えた様にしか聞こえなかったんだけど?」

 「次は、内藤。お前だ。」

 「無視すんなや!」


 次に内藤と呼ばれた人物が、前に出て喋り始める。


 「僕の名前は内藤大翔ないとうはると。生徒会の書記だ。僕は生徒会に不適格な人間は不必要だと思ってる。だから、僕が不適格だと思ったら、この生徒会から出て行ってもらうからね。」


 そう言う彼の目は、ずっと俺を見ている。


 俺に言ってんのか?だとするなら、感じ悪いな。


 こうして、内藤大翔という人物は、ひそかに俺の中のブラックリストに入った。ブラックリスト言っても、嫌いな奴が入ってるだけで手を出すつもりは無い。

 本当に憎い相手は、レッドリストに入ってる。ちなみに2人ほどいる。


 内藤はひたすら俺を睨みつけた後、完全に空気に徹していた玲羅に視線を向ける。瞬間、玲羅は少しだけ、俺の背中に隠れた。


 「まあ、生徒会にとって必要な人材はどんどん取り入れていかなければならない。僕がそう感じたら、僕はその人を歓迎するよ。」


 そう言いながら、内藤は玲羅に微笑みかける。


 「(なんだ、あの気持ち悪い男は。しかも、翔一の悪口を……)」

 「(コラ、人のことを気持ち悪いとか言っちゃいけません。せめて気色悪いにしなさい!)」

 「(それって、あんまり意味変わってないんじゃ?)」


 「内藤、お前にそんな権限を与えたつもりは無い。ただお前に役員の管理を任せるとは言ったが、クビにするかどうかは、私と校長が決めることだ。」

 「わかってますよ、会長。僕が言いたいのは、人を自殺に追い込むような輩は生徒会にふさわしくないと言ってるのですよ。」

 「お前っ!翔一の悪口を―――」

 「玲羅、いい。言わせておけ。ああいう馬鹿が泡吹いてるのを見るのが面白いんだ。泳がせとけ。」

 「翔一がそういうのならわかった。」

 「…………」


 俺たちのやり取りを見て、六道先輩は無言だ。無言でこちらを見てるだけだ。


 そこで空気を変える様に、会長が喋り始める。


 「さあ、二人共自己紹介を。」

 「天羽玲羅。一応、無理を言って会計補佐を任されるようになりました。仕事内容にはなれない日々が続くと思いますが、ご指導のほどよろしくお願いします。」

 「椎名翔一。男。黒髪黒目の高校生だ。なぜか生徒会の副会長に任命され、ここにいる。」

 「なぜラノベ風?」


 そうしてつつがなく自己紹介パートは終わったのだが、ここである問題が発生する。


 「じゃあ天羽さん。仕事を教えるから、付いてきてくれ。」

 「内藤、話を聞いていたか?天羽は会計補佐だ。基本的に教育係的なものは、六道にしてもらう。お前は、会議内容のまとめをしておくんだ。」

 「じゃ、じゃあ椎名、こっちに来るんだ。お前に仕事というものを教えてやる。」

 「はあ?会長の話聞いてました?書類精査をやれよ。話をまともに聞けない人が、人にまともな教育は出来ると思えないですけどね。」

 「なんだと!?」


 あ、こいつのことがなんとなくわかった。あまりこういう事は言いたくないが、漫画で言う「クソ陰キャ童貞」というやつだろう。コミュニケーションがなっていない。話しててここまで嫌悪感があるとは。


 それにすぐ怒る。すぐに感情的になるのは、人との会話に慣れてない証拠だ。


 「内藤、早く仕事をしろ。私も椎名に仕事を教えなければならない。あまり手を煩わせるな。」

 「ちっ、―――分かりました。」


 会長に軽く怒られ、イヤイヤそうに書類精査を始める内藤。なんであいつ生徒会にいるんだ?


 「天羽さん、こっちに来てもらえる?これから、部費の計算とかするから手伝ってくれる?」

 「はい、わかりました。」


 玲羅と六道先輩は、また別で仕事をするみたいだ。でも、あの二人が内藤に向けていたゴミを見るような視線は傑作だった。


 「椎名も、こちらに来てくれ。仕事内容を教えるから。」

 「分かりました。」


 そして俺も、生徒会の一員として活動を始めるのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「天羽さん、椎名君ってどんな人なの?」

 「優しくて、カッコよくて、私の大好きな―――いや、愛する人だ。」

 「そう……。あなたは椎名君が幼馴染をレイプしたって話を聞いた時、どう思った?」

 「ありえないと思いました。だって翔一は、そんな卑怯な人じゃないからです。いつだって堂々としてて、私のために、自分のクラスの人を説得して。そんな翔一だから、私は心を許せたんです。」

 「そう、ですか。私は正直、あの人のことが分かりません。噂で聞いた彼は、極悪非道で自身の欲望が、思考に直結する人物だと思ってました。でも、先ほどのボクシングの試合で鬼頭さんにかけた言葉。あの言葉は、人をレイプするような人の言葉じゃない。そう思いました。私はどちらを信じればいいのでしょう?」

 「これから見定めればいいんじゃないですか?」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 会長は一通りの仕事内容を俺に説明した後、なぜか謝罪をしてきた。


 「本当にすまない。」

 「え、急になんですか?」

 「内藤のことだ。お前のことを不快にしてしまっただろう?」


 どうやら、内藤のことについて謝っているらしい。


 「それは会長が謝ることじゃないですよ。監督不行き届きとか言うんでしょうけど、上がどれだけ有能でも、下が底抜けのボンクラなら、どうしようもないですよ。」

 「しかし生徒会長として指導ができていないのは事実で……。」

 「だから、会長は何も悪くないですよ。俺は会長に怒ってなんていませんよ。俺を副会長にしようとしたのも、俺の名誉回復か、それに準じた何かでしょう?」

 「わかっていたのか。」


 はあ、当てずっぽうだったけど、そうだったか。


 ま、会長の厚意だ。受け取っておく。上から目線キモいな。受け取らせていただきます?そもそも、受け取るのが前提だったりするのか?


 わっかんねえ


 「取り敢えず、内藤書記がなんかするようだったら、俺も容赦なく潰します。」

 「ああ、そうしてくれ。君なら間違った選択はしないだろう。」


 なんで俺はこんなに会長に信用されているのだろうか?不思議だ。


 そんなこんなで俺は、内藤書記に警戒を配るようにした。


 しかし、俺は舐めていた。ここが―――いや、この世界が漫画の世界であるという事を。

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