第11話 愛の告白
「―――これで第47回卒業式を終わります。これより卒業生が退場します。拍手でお見送りください。」
2時間にも及ぶ卒業式がようやく終わった。長かった……
小学校の入学式みたいに30分で終わんないかな?
しかしここからが本番だ。この先に担任の話というイベントが待っている。帰らしてくんねえかな?転校してきたばっかで、そこまで先生のこと知らんのよ。
そう思いながら、歩いているとある人物が目に入る。
後輩の女子から熱い視線を送られ、笑顔で手を振っている男―――豊西だ。
やはりモテモテだな。作中ヒロインは、玲羅と八重野だけでなく、多くのサブヒロインが登場する。まったく、あの男のどこがいいんだ?……別に妬んでないぞ?
なんやかんやあって、俺も退場するのだが、後輩の知り合いなど妹以外存在しない。なんと悲しきか。―――まあ、玲羅以外の評価なんてクソ程どうでもいい。
いや、盛ったな。友人くらいからは心象よくありたいな。
時刻は経過して……
担任の涙ぐましい話も終わり、下校まで自由時間が出来る。その時間の中で、俺は蔵敷に話しかけられる。
「いやー、担任の話も終わったな。翔一、お前は天羽さんを打ち上げに誘うのか?」
「それは本人の意志だろ?天羽だって、自分のクラスがあるんだし。」
「お前、自分の事を信じてくれないクラスの打ち上げなんか行くか?」
「行かねえな。じゃあ、誘ってくるわ。」
「おう、そうしとけ。予約人数も、天羽さん入れてあるからな!」
「準備いいなあ。」
ほんっと、いい奴だよ、蔵敷は。あの時も、俺の突拍子の無い話を真っ先に信じてくれた人たちの一人だからな。知ってたんだけど。
蔵敷との話もそれなりに終え(どうせ高校同じだし別れの言葉なんかいらないだろ?)、俺は屋上に向かう。
無論、玲羅に呼び出されてるからだ。
しかし、半分答えが分かってるものの返事を聞きに行くのは、ウキウキと恥ずかしさで感情が迷子になるな。
馬鹿なことを考えていると、屋上に出るための扉の前に来るが―――
「滅茶苦茶嫌な予感がするのはなんでだ?」
あまりの違和感に、そんな独り言が出てしまうが、意を決して扉を開ける。するとそこには言い合いをしている玲羅と―――主人公豊西が言い合いをしている姿があった。
しかし、俺の登場によって玲羅は顰めていた表情を明るくさせる。あ、可愛い……
「わりぃ、担任の話が長くてさ遅れちゃった。」
「いや、いいんだ。でも来てくれてよかった。来なかったらどうしようかと……」
「HAHAHA、俺が約束を反故にするわけないだろ。」
玲羅、口ではああ言ってたが、かなりのストレスが表情に出てるな。
しかし、
「玲羅、この男はとんでもないクズなんだ。知らないのか?この男が、毎日女を自宅に連れ込んでる話を!」
「だから、それは私だと言ってるだろう?もうこれ以上お前と話すことは無い。早く佳奈と一緒に過ごしたらどうだ?それと私のことは、二度と名前で呼ばないでくれ。」
「なっ!?前は名前で呼んでほしいと言ってたじゃないか!それをなんで!」
チッ、これだから馬鹿は。玲羅は純粋で、いい子なんだよ。名前を呼ばれたいと思う相手はどんな奴か、分からないのか?
「私は、もう恋人以外の人間と名前を呼び合うのはやめにする。さようなら、豊西。これからは名前とまでいかず、話しかけてすら来ないでくれ。」
「クソッ……」
酷い捨て台詞だな、あいつ。自分の周りのヒロインがいなくなったことで、人格崩壊してねえか?
そんなことを考えていると、豊西が俺に、吐き捨てる様に耳打ちをしてくる。
「寝取り野郎の結末は、破滅って相場が決まってんだよ。嫌だったら玲羅を返せ。」
「マジなに言ってんの?頭沸いてんのか?」
あいつ本当に主人公だったのか?―――どうでもいいか。
「翔一、来てくれてありがとう。ただ、もう少し早く来てほしかったな。」
「フッ、ヒーローは遅れてやってくるんだよ」
「ふふっ、なんだそれ」
「言ってみたかっただけだ。それとも、俺みたいなヒーローは嫌か?」
「嫌じゃないな。それに、お前は私を救ってくれた。本当に私のヒーローみたいな男だ。」
「お、おう……」
なんだか、俺だけ恥ずかしくなったみたいじゃないか。
でもなあ、玲羅相手だとなんでも嫌に感じないんだよなあ。
「それで……だな。もう何のことかはわかってると思うんだけどな……告白の返事をしたくて……」
「恥ずかしいならゆっくりでも良いから、玲羅の答え聞かせてくれないかな?」
そう言うと、玲羅は深呼吸をしてゆっくりと話始める。
「翔一、好きだ。翔一さえよかったら、私と付き合ってくれ!」
「おっと、俺が告白したはずなのに、今の構図は玲羅が俺に告白してるように見える!でも、滅茶苦茶嬉しい!喜んで付き合います!」
「~~~っ!?」
お、自分で恥ずかしがってるな?可愛い奴め。
「翔一は良いのか?はっきり言って私は面倒くさいぞ。嫉妬とかもするだろうし、束縛もしたい。とにかく翔一に負担をかけるかもしれないんだぞ。」
「はあ、俺がそんなこと気にすると思ったか?むしろ俺の方こそ玲羅を束縛しようとするかもしれん。……考えたけど、それはねえや。玲羅の私生活を不自由にしたくないからな。でも、束縛はどんと来いって感じだ。そもそも、一緒の家に住んでんだ。嫌になるほど一緒にいてやるよ。」
「翔一……ありがとう。私を好きになってくれて、私を救ってくれて。」
そう言いながら泣き始める玲羅。俺そんな泣くようなこと言ったかな?
「翔一、抱きしめてもいいか?」
「え?」
「そ、その付き合って早々にこんなことを言うのは気持ち悪いか?」
「あ、びっくりしただけで嫌じゃないよ。ほら、おいで。」
俺が両手を広げて迎え入れる姿勢を作ると、俺の胸の中に玲羅が控えめに入ってくる。
「んぅ……」
くっ……可愛すぎる……
持ってくれよ、俺の理性。卒業式の日に、推薦取り消しは食らいたくないだろう?
しかし、俺の葛藤をよそに玲羅はヒートアップする。
「ふふっ……翔一……好き……ぎゅー」
「れ、玲羅さん?」
「どうした翔一?私たちは恋人なんだ。これくらい……ぎゅー」
クソッ、可愛いが限界突破した。ある意味でメンタルが持たない。どうする、オレェ!?
でも、こんな状況を良いと思ってる自分がいるんだよなあ。
―――なんだかんだ幸せだ。
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