第10話 合格祝いからの深夜3

 「玲羅、合格おめでとー!」

 「「「おめでとー!!!」」」


 「あ、ありがとう。こんな私を祝ってくれて。」


 うちの家で現在行われているのは、「玲羅の合格祝い」だ。

 4人の祝福に、照れからか玲羅の頬は、薄桃色に染まっていた。


 ちなみに今日のメンバーは、翔一、結乃、玲羅母―――そして、玲羅父だ。


 ちなみにだが、玲羅父は同居に物凄い反対しているそうだ。そりゃそうだろう。むしろ反対しない精神が疑われる。


 しかも、恋人関係ですらないのに。


 だが、この事実を、翔一には知るすべがない。

 なぜなら―――


 「翔一君、これ美味しいわね!作り方教えてくれないかしら!」

 「もちろんです!作り方さえ理解しちゃえばめっちゃ簡単っすよ、それ」

 「まあ!こんなにおしゃれな料理が簡単に!」


 翔一と玲羅母の仲が異様にいいからだ。


 (く……。玲羅が男と同居なんて認めたくはないが、沙苗さなえがここまで気に入っているんだ。癪だが、豊西とかいう男よりは優良物件だと言えるのは、私でもわかる。クソッ、だからって同居は…。)


 ―――と、何も言えない玲羅父だった。


 今日の料理当番は結乃だったが、翔一が変わり2日連続で当番することになった。


 「にしても翔一君は料理が上手ねー。将来は立派なお嫁さんになるかしら?」

 「ちょっとお義母さん、そこはお婿さんでしょー!」


 なんて会話をする翔一は楽しそうだ。

 そんな姿に、玲羅は嫉妬してしまう。


 (母さん、あんなに翔一と仲良く……。私だってあんな風に……)


 そう頬を膨らませながら、2人の姿を睨んでしまう玲羅。

 しかし、そんな考えに気付かない翔一は疑問を持ち、声を掛ける。


 「どうしたんだ、玲羅?」

 「ひゃいっ!?」

 「うおっ!?本当にどうした?不味かったか、俺の料理?」


 不安そうな顔に、玲羅はドキッとしてしまったが答える。


 「い、いやそんなことはない。とても美味しい。ただ……」

 「ただ?」

 「な、なんでもないっ!気にしないでくれ!」

 「そうか?まあ、美味しくなかったら言ってくれ。結乃が全部食うから。」


 そう言って、2人は結乃の方を見る。


 すごい勢いで結乃の目の前にある料理が消えていく。結乃は目の前にある大皿を空にすると、次のメニューをせびってくる。


 「お兄ちゃん、次のメニューはよ。」

 「お前、引っ叩くぞ。もう少しゆっくり食えや。」

 「いやいやー、3人前も用意しているあたり、そうならないのを予測済みでしょ!」

 「クソッ、図星だからなおのこと腹立つ。」


 そう、結乃は物凄い大食いだ。もう食べる食べる。だから、翔一は結乃の料理だけ、バカみたいに多く作ったのだが、正直糠に釘状態のようだ。


 「結乃、凄い食べるな……」

 「だろ?玲羅も足りなかったら言ってくれよな。多くても、結乃が食うし……」

 「いや、私のは問題ない。なんだかんだ、翔一のご飯は、美味しくて満足感が凄いんだ。ずっと食べていたくなる結乃の気持ちもわかるな……」

 「そんなに俺の料理っておいしいの?正直、俺的には店の方が美味しいんだけど……」

 「それは自分で作ったからじゃないか?他人に作ってもらうのは、やはり特別に感じてしまうものだ。」

 「そんなもんか?あ、そうだ!もう一品あるから、玲羅は目を瞑ってて!」

 「え!?まだあったのか?とりあえず目は瞑るが……」


 そう言って、玲羅が目を閉じるのを確認した俺は、台所に戻って冷蔵庫からあるものを取り出す。


 “それ”をリビングにもっていくと、|玲羅の両親が騒ぎ始める。


 「翔一君、一応聞くけど、これはお店の?」

 「お義母さん、俺の自作です!」

 「くっ……家事の能力まで高すぎる……!」

 「お義父さん、なんで悔しそうなんですか?」

 「君にお義父さんと言われる筋合いはないっ!」

 「えぇ……」


 対照的に、結乃と玲羅は静かだ。

 いや、結乃は虎視眈々と“それ”を狙ってるだけだ。


 「そろそろ、目を開けてもいいか?」

 「ああ、いいよ。」


 そっと目を開ける玲羅。その目の前には、そこそこ大きいワンホールケーキがテーブルの上に置かれていた。しかも、ケーキの上にはチョコの板に書かれた「合格おめでとう」の文字が。


 「こ、これは……」

 「見たまんまケーキだよ。改めて、玲羅合格おめでとう。来年度も同じ学校でよろしくな。」

 「ありがとう。その、食べてもいいかっ!?」

 「おう!今切るから待って―――はいあ、これが玲羅の分。」

 「ふわあー……」


 ケーキを前に、目をキラキラとさせる玲羅。やはり原作知識の「甘いもの好き」は本当だったか。


 「ささ、結乃もお義母さんもお義父さんも、食べて。」

 「「「おー、すごい……」」」


 そんな感じで、玲羅の合格パーティーは大成功で幕を閉じたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その夜、翔一’sルームのベットにて


 「はぁ~、準備とか大変だったけど喜んでくれたみたいでよかったな。」


 俺は、ふと独り言がこぼれる。パーティーが成功して安心したからだろうか。しかし―――


 「甘いもの好きなのは知ってたけど、あそこまでテンションが上がるとはな。これから料理も甘めに味付けしてみるか?こんど本人に聞いてみよう。」


 コンコン


 俺が独り言をつぶやいていると、ドアがノックされる。


 「空いてるよー」

 「し、失礼します……。」

 「え?玲羅?」


 ドアを入って来たのは、玲羅だった。あまりの突然の出来事に、俺の頭はショートしかける。

 しかも、さらに追い打ちをかけるような提案を玲羅がしてくる。


 「その……一緒に寝ないか?」

 「……は?」

 「あ!もちろんHなことは駄目だ。あくまで一緒の布団で寝ようというだけで……ダメか?」


 もちろん嫌じゃない。だがなぜ?俺の知ってる玲羅(原作のキャラとして)はこういうのは恥ずかしくてあまり行動に移せないのがいつもなんだが。


 ―――だからなんだ。今目の前の玲羅は、一緒に寝たいって言ってる。本音を言えば、俺もだしな。

 好きな女の子推しキャラと寝れるなんて最高かよ!


 「別に嫌じゃない。寒いだろ?早く中に来いよ。」

 「その……お邪魔します。」

 「グフッ……」

 「ど、どうした?」


 今の「お邪魔します」。めっちゃ可愛かった。思わず吐血しそうになった。


 まあ、そんなのは有り得ないんだけど……。中ハーは古典的な反応は起きない。例えばエロ事件で鼻血とかそういうのは起きない漫画だ。故に、この世界でもそういうお約束は起きない。

 内容がちゃんとしている漫画だったから、必要なかったんだろうけど。


 そんなことを考えていると、同じ布団の中にいる玲羅が、頬を赤くしながら話してくる。


 「その……翔一は卒業式の日は時間あるか?」

 「ん?腐るほどあると思う。まあ、その日の予定は夜のクラスの打ち上げくらいだからな。」

 「そ、そうか…。なら、卒業式が終わったら屋上に来てくれないか?」

 「ああ、いいよ。でもまたなんで屋上?」

 「それは二人きりで話したいことがあるんだ。」

 「わかった。卒業式の後、屋上ね。」


 多分、告白の返事だろう。この前、彼女は俺のことを好きだと言ってくれた。これはワンチャンあるのでは?そういうことを考えてもいいだろう?


 「あともう一つあるんだ。いいか?」

 「どうぞどうぞ」

 「ほ、頬を撫でてくれないか?」

 「へ?」

 「ほら、あれだ、そういうやつだ!」

 「どれだよ」


 玲羅も、自身がとんでもない発言をしているのがわかっているのか顔が真っ赤だ。

 玲羅に限って裏なんて無いだろうから、撫でちゃうけど。


 「―――っ!?~~~っ!?」

 「ははっ、玲羅、顔真っ赤だよ。どう?俺の手。」


 玲羅は散々顔を真っ赤にしているものの、俺の手を拒まない。それどころか玲羅の頬に乗っている俺の手を、上から握って目を瞑る。


 「とても……気持ちいい…。」

 「~~~っ!?」


 今度は俺が赤面する番だった。

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