第25話
その気配を察したシャドウウルフが牽制するように言う。
「・・・領主様が自ら参戦とは驚きだねえ」
シャドウウルフがからかうような口調に、バルドルは更に嘲笑気味に応えた。
「手に入れたアーティファクトを試す良い機会だからな」
「ずいぶん大げさな物言いだな。なんだそりゃ」
内心、シャドウウルフは焦りを感じていた。
そのアーティファクトが危険な物だという事を何となく察していた。
だが、それを表情に出さないように努めた。
余裕があるふりをして、会話で時間を稼ぎ、その間に対策を練りたかった。
「忠告してやるぜ、やめときな。碌なことにならねえぞ」
「どうなるかは、すぐに分かる」
「まあ、待てって。アーティファクトってのは、誰が作ったのかも分からない骨董品だ。いきなり爆発するかもしれねえぞ?」
「心配ない。試運転は既に済ませてある。よく動く的を狙うのは初めてだがな」
そのアーティファクトは西から来た商人によってもたらされた。
恐らく盗品か何かで、西では売れない代物だったので、わざわざ苦労して北の領土にまで売り付けに来たのだろう。
そんな曰くつきなモノでありながら、法外な値段がついていた。
その強気な値段こそがその性能を物語っているかのようだった。
「貴様がその奇妙な影で身を守ろうと、どんなに素早く動こうと、これなら貴様を仕留めることが出来るだろう」
「それなら、何ですぐにそれを使わなかったんだ?」
「こいつは大量にエーテルを消費するからな。それに・・・」
その時、ガチャリという音がした。
そして、ボーガンの矢がシャドウウルフに向かって飛んできた。
会話を遮って、唐突に。
そして、レティは冷淡にこう言った。
「そのひと、時間稼ぎしようしています。さっさと始末した方が良いです」
「・・・なるほど。貴様の言う通りだな」
こうしてシャドウウルフは、更なる窮地に陥ることになる。
バルドルがアーティファクトを起動させると、盾の中心にはめられた赤い宝玉が光を放つ。
そうかと思うと、バルドルのすぐそばに赤い球体が浮かび上がった。
それは、バスケットボールくらいの大きさで、まるでプラズマボールのような赤く禍々しい球体だった。
その赤い球体はバルドルの思い通りに飛ばせるらしく、暫く試すように体の周りを浮遊させる。
「これは私の思い通りに動く・・・。どれ、威力の方も見せてやろう!」
バルドルがそう言うと、赤い球体はシャドウウルフに向かって飛んでいった。
シャドウウルフがそれを避けると、赤い球体は床に着弾する。
その場に居る誰もが聞いた事のない轟音が響いた。破壊の衝撃が去ると、床に空いた大穴が残された。
その大穴が破壊の威力を物語る。
「くく・・・何度見ても凄い!この威力!エーテルの消費量が難点だが、この力を使って領土を広げれば、それも解決だ」
その威力に酔い、人が変わったように笑うバルドル。
バルドルの部下たちは、調子を合わせるように歓声を上げている。
そんな中、シャドウウルフは冷ややかな表情を浮かべている。
「ずいぶん燃費の悪そうな武器だな。それにしちゃ、弾速が遅すぎるぜ。そこのウサギのボーガンの方がよっぽど・・・」
シャドウウルフがそう言うと、バルドルは更に嬉しそうな笑みを浮かべて、こう言った。
「今のは試し撃ちだ」
そう言うと、赤い光球を今度は三つ同時に浮かび上がらせた。
そして、それをシャドウウルフに向かって撃ちだす。
先ほどのよりも大きさは一回り小さいが、その分、弾速が早く、それぞれが不規則な動きでシャドウウルフを襲う。
「嘘だろ!?」
焦った様子のシャドウウルフが必死に避ける。
ホーミング気味に飛ぶ赤い光球を避けるのは容易ではなかったが、何とか避けることが出来た。
影の力で常人を超えた動きが出来るシャドウウルフでなければ、とても避けることは出来なかっただろう。
それを見たバルドルは不愉快そうに舌を鳴らし、雇った傭兵に命を下す。
「お前も手伝え。先に当てた方の手柄だ」
「あい、あい、さー」
レティもボーガンの矢を放つ。
シャドウウルフは赤い球体とボーガンの矢を同時に躱すことを強いられる。
レティも飛び回ること必要がなくなったので、ボーガンによる射撃に集中することが出来る。
射手が二人になったことで、いよいよシャドウウルフも避けるのが難しくなる。
(これは避けきれねえぞ・・・ボーガンの矢はさっき上手く止められたが、あの赤い球体はどうだ・・・?)
大破した床を見る限り、あれを受けるのは致命的だろう。
ボーガンの矢だって、さっきは上手く受けられたが、次も上手く行くとは限らない。
それに、ダメージを受ければシャドウクロウに内蔵されたエーテルも消費するし、戦闘継続がますます困難になるだろう。
(くそ・・・何かいい手はねえか・・・?)
・・・シャドウウルフは、焦るあまり思案に意識を向けすぎた。
そのせいで、別動隊のように視界の外から襲い掛かる赤い光弾に気が付かなかったのだ。
「シャドウウルフ危ない!」
ラグナが叫ぶ。
その声に反応し、シャドウウルフは背後から襲い来る光弾を咄嗟にかわした。
シャドウウルフが居た場所が、激しく破壊され、その光弾の威力を物語る。
「危ね・・・ラグナ、助かったぜ」
シャドウウルフはそう言いながら、こう考えていた。
(ラグナが声を掛けてくれなかったら、ヤバかったな・・・っていうか、ヤバイっぱなしだ。ウサギと領主、両方相手にするのは無理じゃねえか?シャドウクロウをフル稼働すんのも限界だぞ・・・だったら、影に潜んで、領主を背後から殺るのはどうだ?雇い主が死ねば、あのウサギにはもう戦う理由は無いだろうし)
シャドウウルフは思いついた作戦を実行に移した。
自身の体を影に沈めようとしたとき、ある懸念が頭をよぎった。
(・・・ダメだな。俺が影に潜んでいる間に領主の奴がラグナを撃つかもしれねえ・・・)
シャドウウルフが思い悩む中、それよりも深い葛藤に囚われているものが居た。
それはクラッシュだった。
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